最終話 スタッフロール
セイント・ディノサヴロスの巨大な身体は倒れ、消滅していく。
ドロップアイテムらしき物だけが残ったが、それはあとでアライアンスと分配を決める作業があるだろう。
京太はMMO時代の癖で、白虎大剣をブンッと振って血飛沫を落とす動作をしてしまう。
それがこの戦いの締めくくりを感じさせたのか、周囲から歓声が沸き上がった。
「うおおおおおお!!!! すげぇ、あの巨大なレイドボスを倒しちまったぞ!!」
「か、かっけぇ……!!」
「握手してくれー!!」
「やっぱり上位アバターは違うなぁ……」
京太の周りに次々と人が集まってくるが、そういうのに慣れていない京太は困り果ててしまう。
「い、いや……たしかに最後は俺と銃子がやったけど、それまでアライアンスの全員がいなければ町が破壊されていただろうし……」
「謙虚!」
「サインくれよ、サイン!!」
「ネットの評判だと性格悪い印象だったのに、リアルだと良い奴じゃん」
さすがにそれは本人の目の前で言うなよ……と思ったが、今回ばかりは我慢しておいた。
そこへすかさず、どこからかソロバンを持ったかおるが割り込んできた。
「はーい、サイン入りグッズは後日発売するので、そこで入手してくださいね~。数量限定の予定だから早い者勝ちですよ~!!」
「なんという商売上手……」
稼ぎ時だと見ればすぐ行動するかおるに、ほとほと呆れる京太。
そこへ神妙な顔をした桃瀬もやってきた。
「京君……あたしも一緒に背負うからね!」
「あ~……うん……」
たぶん察するに、聖丸と言えど〝その手にかけてしまった〟ということだろう。
しかし、京太としてはアバター殺しは初めてではないし、別に聖丸に対しては全くと言って良いほど心が痛まない。
好敵手と認めた渋沢のときとは違いすぎるのだ。
それでも渋沢のことは話すタイミングではないと思ったので、生返事になってしまった。
「う、うぅ……京君……あたしや、らきめさんのために……背負いきれない十字架を……」
そのいつもと違うリアクションを勘違いしてしまい、桃瀬は泣きながら抱きついてきていた。
京太は戦闘後の興奮もあって、その身体の柔らかさにドキドキしてしまった。
つい顔が上気し、熱くなるのを感じてしまう。
「お~お~。お熱いこった」
「銃子さん!? こ、これは違くて……!!」
近くにやって来た銃子の冷やかしで、残念ながら桃瀬が離れてしまった……ではなく、離れてくれた。
情緒がおかしくなりそうな京太は、咳払いを一つしてメンタルを取り戻す。
「よぉ、銃子」
「んふふ、色男やな~」
「そ、そんなんじゃない!」
「ほな、かおるまでジト目をしとるのはなんでやろな~?」
絶対に面倒臭いことになりそうなので、かおるの方を見ないようにしてスルーを決め込んだ。
「まっ、これで終わったわけやな。おめっとさん」
「ああ、色々と終わったな……」
終わったとは、FPS大会闘魚、過去との因縁の二つの意味だ。
そこで京太は本来の目的を口に出した。
「銃子、優勝したら何でも言うことを聞いてくれるんだったよな?」
「その通りや。使い切れないくらいの貯金を渡してもええし、この朱雀長銃でもええでぇ。それに京太が本気で、ウチを求めても問題なしや」
「この流れで最後の悪趣味な冗談は止めろ……」
「なはは」
(ここまでの活躍をしておいて、良い男だと思われない方がおかしいと気付かん鈍感さ……周りの女子は大変やなぁ……)
銃子はいつものように感情を出さないでおいた。
「さて、〝灰色の竜〟の情報……でよかったんやな?」
「ああ、妹の――星華の仇だ」
「まず、最初に言うておくとウチは知らん」
「なっ!? それじゃ俺が勝ったことの意味が――」
「まぁ待ちぃや。ウチは冒険者ギルドにも、らきめから誘われて入って、いつの間にか正義の四天王とかに祭り上げられていたからなぁ。ウチ自身はそこまで内部のことを知らんっちゅーことや。灰色の竜の情報は、らきめから渡されとる」
銃子はUSBメモリを渡してきた。
「この中に情報が……感謝する」
「感謝の言葉はらきめに直接――って、いつの間にかいなくなっとるな。まっ、落ち着いたらカニでも食いながら二次会でもやろうや」
「そうだな。らきめはコーチもしてくれたし、感謝してもしきれない。飽きるほどに奢ってやらないとな」
その会話にかおると桃瀬も入ってきた。
「あ、かおるチャンネルの経費にしますからね! 個人事業主は確定申告が大変なんですから……!!」
「やったー、みんなでカニカニ!!」
アライアンスの多くの人間に囲まれ、四人は楽しげに語り合った。
なんとか二章の終わりまで書きました。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!