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大会最強コンビVS聖丸

 京太は、空中でピンキーをお姫様抱っこしながら着地した。

 ピンキーはあまりの安堵で抱きついてしまう。


「京君! 京君、京君、京君だ!」

「戦っている最中だから、そんなに抱きつくな……」

「あ、ごめん」


 京太は、ピンキーを優しく地面に下ろしながら言った。


「他の全員と一緒に離れていてくれ」

「えっ? こんなに人数がいるんだから、京君だけじゃなくて全員で戦った方が……」

「いや、俺だけじゃない……。どうやら、最強のFPSアバター様がやる気を出したようだからな……」


 遠く離れた走行中の大型トラックから狙撃した銃子は、地面にスタッと飛び降りた。

 ゆっくりと歩いてくる、首をコキコキと鳴らしながら。

 その表情はいつもの張り付いたような偽物の笑顔だ。


「なぁ、聖丸。あんたが……ふつつを殺したって本当かいな~?」


 コアに映った聖丸の顔は、一瞬何のことか忘れていたようだ。

 少ししてから思い出したかのように返事をした。


『あ? ああ、ただ自殺に追い込んだだけさ。お前や、らきめのことを材料に脅したら、呆気なく死んじまったけど――』




 ***




 以前――銃子、十五月らきめ、十五月ふつつが出会ってチームを組んだFPS大会。

 そのときのスポンサーに聖丸の親が経営する企業もあったのだ。

 実は聖丸は、その権限を使ってふつつに近付いていた。


 当時、伸び悩んでいたらきめを利用して、ふつつにこう言ったのだ。


『姉のらきめを大会に出場させてやるよ。しかも最強の銃子とチームも組める。どうだ、お前が僕の言いなりになることが条件だ』


 ふつつは悩んだが、姉のためになるならと了承した。

 それからは聖丸に弄ばれる日々だった。

 たとえ姉から、出来の良すぎる妹だと疎まれようとも、愛する姉のために笑顔を絶やさなかった。

 自分が犠牲になることは少しも怖くなかった。

 そういう壊れた強さを持つ少女だった。

 だが――聖丸の要求はエスカレートしていった。


『そろそろお前の姉と、銃子ともヤリたいな』

『それは……ダメです』

『あぁん? じゃあ、銃子だけでも何とかしてホテルまで引っ張ってこいよ。姉以外ならいいんだろ?』

『銃子さんは……姉に大変よくしてくれています。その御恩、姉と銃子さんとの二人の絆、私は死んでも(・・・・)守ります』

『つってもさぁ、ホテルで撮影したお前の写真をばらまいたら、お前だけじゃなく姉の方も終わりだろ? よーく考えろよ。もう、お前は死ぬまで(・・・・)俺の奴隷なの。ギャハハ!!』


 そして、十五月ふつつはビルから飛び降りて、姉に迷惑をかけずに死んだ。

 その死体は満足げな笑顔だったらしい。




 ***




『――いやぁ~。あの程度でふつつが自殺して、ニュースを見たときは笑ったぁ。どんな芸人よりも楽しませてくれてさぁ……ギャハハ!!』


 大型トラックで待機しているかおるは口を覆って言葉をなくし、らきめは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。


「聖丸、お前がふつつをーッ!!」


 今にも大型トラックから飛び出して、セイント・ディノサヴロスへと走りそうなところを――銃子が静止した。


「らきめ、そこで待機や」

「でもッ!!」

「ウチがリーダーや。言うことを聞け……」

「銃子は人の気持ちがわからないから、そんな――」


 らきめはそこまで言ってから気が付いた。

 銃子から笑顔が消えていた。


「あのときのリーダーとして、らきめとふつつの気持ちを背負う。手を汚すんはウチだけでええんや」


 事故によって感情の一部が欠落した銃子が見せる、初めての怒りの表情。

 それは静かで、弾丸を撃ちきったあとの赤熱化した銃身のようだ。


「ウチが聖丸を()ち殺す」


 それを聞いた聖丸は大笑いを上げた。


『ギャハハ! 上級国民のために一人死んだだけで怒ってやんの! それに僕を殺すぅ? 無理に決まってるでしょ! 銃子が撃った弾丸は、僕の触手を弾いただけ! 遠距離武器なんてぇものは威力がないわけよ!』

「――お前ら、さっきから俺を無視するなよ」


 巨大で肉厚な白虎大剣。

 それを振るい、触手を斬り落とすのは京太だ。


「ちっ!! いつもいつもいつもジャマをしやがって!! だが、お前の弱点はもうわかってる……! 絶え間ない連続攻撃に弱いんだろぉー!!」


 京太に対して複数の触手ドリルが、タイミングをズラして全方位から迫ってくる。

 さすがにこれではスキル【神一重】でも避けきるのは難しいだろう。

 だが、それでも京太はスキル【神一重】を狙っていた。


「ウチを当てにしとるんか、京太。そんなら応えなあかんなぁ」


 遠く――銃子は狙撃体勢で寝そべり、愛用している朱雀長銃を構える。

 練習用の銃とは違い、レイドボス朱雀からドロップしたレア武器だ。

 種別は対物長銃アンチマテリアルライフルで通常の攻撃力も高いのだが、隠された機能があった。

 朱雀から五発だけドロップするレアな弾――通称、朱雀弾を発射するための形態に変形できるのだ。


「朱雀長銃、その赤金(あかがね)の翼を広げて真の力を見せぇや」


 赤い対物長銃の両脇カバーが外れ、広がり、まるで翼のように展開した。

 銃身内が見えるようになったのだが、シリンダーが高速回転して不思議な黒い光を発している。

 いや、もしかしたら光を吸収しているのかもしれない。

 それは重力子と呼ばれる人類にとっては未知の存在で、レイドボスの朱雀だけが行使していたモノだ。

 外宇宙から来たとされる白虎と同じで、朱雀もまたオーバーテクノロジーを所持している。

 銃子はカプセル状の、地球上に五発しかない朱雀弾――重力子カートリッジを装填した。

 これより放たれるのは最強のFPSアバターにのみ許される赤い鉄砲の黒い一撃、重力子砲である。


重力子弾(グラビティバレット)、いくでぇ……!」


 必中のトリガーが引かれた。

 光を許さない、黒い輝きが一条。

 まるで地上と空を区切るかのように戦場を駆ける。


『だから、銃子の攻撃は効かな――なにぃ!?』


 重力子弾(グラビティバレット)は、何の抵抗もなく触手を貫通。

 触手は弾け飛んでいた。

 銃子は次々とトリガーを引き、京太の周りの触手を撃ち落としていく。


『ぐぅ……だが、弾丸が尽きれば――』

「聖丸、忘れたの? わたしのVTuberスキル【キメラ】の無限弾を……!」


 らきめは外行きの口調を止め、復讐対象を見つけた獣の目をしていた。

 瞬く間に撃ち落とされていく触手たち、残ったのは京太の前方――攻撃を仕掛けている一本だけとなった。

 京太はそれをいつものように――


「スキル【神一重】」


 回避して白虎大剣でカウンターを撃ち放つ。


「――【天撃】!!」


 白虎大剣も、朱雀銃と同じようにレイドボスのレアドロップ品だ。

 性能は――


【白虎大剣 攻撃力388 闇属性 金属性 人類特攻 特殊スキル悪性の重圧:金属生命体となった白き虎から作られた大剣。ナノマシンによって常に鋭い刃を維持している。特殊スキル悪性の重圧は、白虎の畏怖を周囲に与えることができる。この大剣を手にした者はすでに人ではないのかもしれない。汝は虎の威を借る化け狐か? それとも……】


 この人類特攻によって、皮肉にも聖丸と合体してしまったセイント・ディノサヴロスに大ダメージを与えることができるのだ。

 そのため、天撃によって簡単に触手を斬り裂いた。


『ウギィィィ!! よくもやりやがったなああああ!!』

「ほな、いかにも弱点なコアを狙わせてもらおか」


 銃子は照準を聖丸の顔面――が映っているコアに合わせた。

 距離は遠いが、それなりにコアが大きいので狙いやすい。

 発射される重力子弾。

 寸分違わず、コアの中心に突き刺さった。

 しかし――


『ざぁんねん!! レイドボスのチート特性でコアは遠距離攻撃耐性100%がついてるんだよ!!』

「まぁ、そうやろ。FPSアバターのウチ相手に弱点剥き出しにしとるわけやしな。――ウチらの想い、背負わせてええか? 京太」


 それを聞いた京太は首を横に振った。


「お前らの想い? 背負わせる? そんな気を遣ってもらう必要はない。昔からピンキーにあんなことをして、俺の妹である星華をも馬鹿にしたコイツは――俺もぶった斬ってやりたかったからな……!」


 京太は憤怒と狂気を込めた眼で嗤った。

 悪魔のような、死神の笑み。

 聖丸は体格の差があるはずなのに、身体の芯から怖気を感じてしまう。


『ヒッ!? 止めろ、来るな、近付くなぁー!!』


 がむしゃらに触手攻撃をするも、そのほとんどは銃子によって撃ち落とされてしまう。

 京太は残った触手のみを、コアに向かって歩きながらカウンターしていく。


「【大天撃】」

『た、たんま!! 心を入れ替えてもう町を襲いもしないし、これからはマジメに生きるからさ!! 神に誓ってさ!!』

「なはは! 聖丸、あんた何百回神に誓って、それを破ってきたと思てんねん」

「【権天撃】」

『ふ、復讐なんて無駄なことは止めろよ!? なっ!? 虚しいだけだぜ!?』

「ウチ、ようやく感情っちゅーもんを理解したわ~。論理的なものとかは関係なく、ムカつく奴を倒すとスカッとしそうや~」

「【能天撃】」

『そ、それなら謝るからさ!!』

「【力天撃】」

『銃子ー!! 銃子様!! 悪かった、この通り許してくれぇー!!』

「大概にせぇや……ウチは別に自分がされたことには怒ってへん。大切な仲間がされたことにキレとるだけや……!!」

「【主天撃】」

『ひぃッ!? そ、それなら……らきめごめぇん!! もっと優しく愛してやればよかったよな!! らきめの求めるものに気付いてやれなくて、男としてダメだったわー!』

「んなもん求めてねぇよ、わたしは。……死ね、カス!」

「【座天撃】」

『え? じゃあ、アレか! えーっと、そう、ふつつに謝ったらいいのか!? ふつつぅ、ごめんなさぁい!! あ、死んでてこの場にいない……やべ……』

「【智天撃】」

『も、桃瀬からも何か言ってやってくれよ!! なぁ、僕たち小学校のクラスメイトだったじゃないか!?』

「あたしから言うことかぁ……。格ゲー的には、負けるときはなるべく派手に叫び声をあげると映えるよ?」

「【熾天撃】」

『ヒィィィ!! もう次で終わっちゃうじゃないかあああああ!! 京太にも謝るから!! 妹の……えーっとなんて名前だったっけ……とにかく謝るからああああ!!』


 京太は最初から、聖丸の懇願など聞いてはいない。

 便所で響く汚物の音よりも、気にかけない存在だ。

 次の最高にして最後の一撃を放つために、攻撃力アップのアルティメットスキルを発動させる。


「アルティメットスキル発動【悪魔が与えし七つの致命的な愉悦――SEVEN――】」


 効果、7秒間与えるダメージが7倍になり、77秒間受けるダメージが7倍になる。リキャスト77時間。

 7777777という不気味な数字が周囲に浮かび上がる。

 大罪背負いし〝天に仇なす背徳者(シャドウクルセイダー)〟が最後に殺すモノを示すかのように。


『やべやべやべやべやべ……!! 走馬灯が見えてき――あ、そうだ……これなら!!』


 京太がVTuberスキル【天使の片羽根】でコアの眼前にワープしてきた瞬間、聖丸は起死回生の一手を思いついた。

 コアを体内に高速で引っ込めればいいのだ。

 そうすれば近接なら届かないし、ワープも再使用まで時間がかかる。

 内心ほくそ笑みながら、聖丸はそれを実行した。

 遠くの車内――らきめは親指を下に下げるバッドジェスチャーをしながら呟いた。


「ばーか、わたしと京太はPTを組んでいるんだよ。――行けッ!! VTuberスキル【キメラ・高速移動】!!」


 今、京太の身体には強力なVTuberスキルが二重にかかっていた。

 ワープと高速移動を駆使する彼にとって、もはや距離など関係ない。


『そんなあああああ!! 走馬灯がまた見えて――』

「これが俺の切り札(アンラッキーセブン)。聖丸、貴様へ贈る地獄の道だ――【神殺しの十撃(プロトゲニスシャドウ)・神撃】ッ!!」


 ただの大剣の一振りに込められた、信じられない攻撃力。

 恐ろしい程のデメリットを糧に、強化に強化を重ねた狂気の塊。

 レイドボス聖丸――セイント・ディノサヴロスの身体を高速で斬り裂きながら、肉体内部のコアへと到達した。


『嫌だ嫌だ嫌だ何で僕がアアアアアアアアアアアァァッ!!!!』


 恐怖に歪む聖丸の顔が、神撃一刀のもとに斬り裂かれていた。

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『星渡りの傭兵は闘争を求める』
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