最悪のレイドボス降臨
「セイント・ディノサヴロス……?」
「きもちわる……特にでっかい聖丸の顔が……」
「身体も腐って触手が生えているな……ゾンビより異常だろ……」
『聖丸のことだから、きっと見た目だけに違いないわ!』
赤い巨大ロボットに乗っている女性パイロットアバターが叫ぶが、一瞬にしてそれは否定された。
ヒュンッと触手が閃くと、それは刃のように赤い巨大ロボットを切断していった。
『きゃああああああ!!』
「チーム〝鋼の魂〟大丈夫!?」
切断されたパーツの隙間から、よろよろと三人が抜け出してきた。
どうやらギリギリでコックピット部分だけは回避したようだ。
「だ、大丈夫じゃないわ……今日だけで修理費がああああああ」
「安心して。それはきっと、京君が優勝賞金から出してくれる……かもしれない! それより今はアイツをどうするか……」
『攻撃力が高くても、あんなゲル状の身体じゃ……アバターで強化されたオレたちの戦車砲は防げねぇだろうぜ! 撃ぇーッ!!』
チーム〝パンツァースリー〟の戦車砲が火を噴いた。
巨大な砲弾はセイント・ディノサヴロスへ直撃して煙をあげていた。
『痒い痒い……むず痒いんだよぉーッ!!』
セイント・ディノサヴロスは無傷だった。
そのゲル状の見た目に反して、攻撃への耐性はかなり高いらしい。
『この城壁もウザいな……。迂回しちまえばいいが……それも癪だなあああああ!!』
触手を一纏めにして、ドリル上に回転させ始めた。
「ま、まさか……苦労して作った城壁がー!?」
チーム〝サンドボックスの顔も三度まで〟の叫びも虚しく、ブロックで作られた城砦は穴が開けられ、そこから破砕されていった。
そのついでとばかりに戦車へドリルを突き立てる。
「オレたちの戦車がまたスクラップに……」
直前で脱出していたチーム〝パンツァースリー〟のメンバーは呆然としていた。
「命があるだけでもいいでしょ!」
「クソッ、こんなのどうすれば……」
「もう無理だろ……」
レイドボスを経験したことのないアバターたちは、その強さに絶望していた。
圧倒的な巨大さ、圧倒的な攻撃力、圧倒的な防御力、圧倒的な機動力、圧倒的な特殊性。
どれを取っても普通のモンスターとは桁違いだ。
勝てるはずない。
だが、彼女は――桃瀬はレイドボスに勝った存在を知っている。
「戦おう」
「で、でもよ……ピンキー……。配信のコメントを見たか? オレたち、すげぇ煽られてるぞ……」
この戦いは全世界が注目していた。
配信だけでなく、マスコミも世界へ向けて映像を流している。
そこへ向けられたコメントは――
『よわっw』
『あーあ、負けちゃいそう』
『勝たないとつまらないよ~』
『家から離れてるからどうでもいい……』
『誰これ? イケメンしか興味ない』
『グロいことになりそうだからさっさと終わらせろ』
――などと、心ないものも多かった。
多くの人々にとっては、しょせん他人事なのだ。
全世界で同じようなことが起きる可能性があるという事実は、正常性バイアスなどによって思考停止されている。
アニメキャラがテレビで戦っている、くらいの印象が世間の普通なのだ。
人間と思えないから、死んでも構わないと思われている。
「それでも……!! 戦おう……!!」
「なんでそこまでするんだ……ピンキー……」
「外野の言葉なんて関係ない! 逃げ遅れた町の人たちがいるんだよ! ただそれを助けたいだけ! あんたたちはどうなの!?」
「だ、だけど……」
他人のために命を懸けられるか?
そういうことだ。
ミリタリーボマーズの一人が、怯え、震えながら笑っていた。
「ゲーム脳、役立たずと世間の風当たりが強かったゲーマーが、誰かを助けることができるでありますよ……。ウサギ殿、自分はやるであります……!」
「ミリタリーボマーズの人……」
「本名はテディであります。アメリカではオタクは〝ナード〟と呼ばれメチャクチャ馬鹿にされまくっていたでありますからな!」
ミリタリーボマーズの一人――テディは明らかに恐怖を感じている。
だが、それでも巨大な敵に立ち向かおうとしているのだ。
それを見て奮い立たない人間がいるだろうか?
いや、情熱あるゲーマーの中にはいない。
「へへ……アメリカ人ゲーマーが日本人を守るために頑張ってるな。こりゃ元祖ゲームの大国の日本人もやらなきゃ男として負けちまう!」
「はー!? そっちのJRPGもアメリカのTRPG影響を受けているでありますよ! それに自分は中身女であります!」
「なんだと!? こっちはなぁ――」
「あー、もう古参ゲーマーたちのマウントの取り合いはいいから! そういうのはあとで殴って決めればいいから! 今は空気を読んで協力する!」
脳筋思考は格ゲーに敵わないようだ。
ピンキーの言葉でアライアンスは一丸となり、レイドボス〝セイント・ディノサヴロス〟へと立ち向かう。