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借り物の力、聖丸の乱心

 ――一方、京太たちとは離れた場所にいる桃瀬たち。


「なんでぼッ、……僕が……なん……で僕……が……なんでぼくがなんでぼくがなんでぼくがなんでぼくがなんでぼくが……」


 大型トラックの中にいる聖丸は、スマホを眺めながら気味悪くブツブツつぶやき続けている。

 同席しているサバイブルの三人はビクビクしていた。

 桃瀬は疑問に思い、自分もスマホのスリープモードを解除したのだが――


「うわ、すごい数の通知だ……」


 自分のSNS宛てにメッセージが送られまくっていたのだ。

 心配する声も多く、急いで流し読みしてみたら大体の事情がわかってきた。

 京太が炎上したことによって、桃瀬も二次被害を受けていたのだ。

 そこから聖丸が裏で炎上の糸を引いていたことがバレて、炎上のターゲットが一転して聖丸になったのだ。

 自業自得だろう。

 それを今、聖丸が見てショックを受けている……というところだろう。


「うーん……」


 桃瀬としては微妙な気分だった。

 たぶん、最初の炎上で京太が理不尽に叩かれている段階だったのなら激怒したのだろうが、今はそれらが解決して聖丸が報いを受けている。

 その聖丸が目の前にいるのだ。

 ざまぁ! とでも言えばいいのだろうか?

 いくら煽り大好きな桃瀬でも、それは試合の時だけである。

 敗者に向かって攻撃――死体蹴りまではしない。

 訂正、あまりしない。


(まぁ、あとで京君と合流してから、この件を話し合えばいっか……)


 自分だけのことではないので、一時保留とした。

 リラックスするために仮想変身(アヴァタライズ)を解こう――と思ったが、見ず知らずのサバイブルがいることや、まだ聖丸がいる。

 念のためにピンキー状態のままになっておいた。


 一方、サバイブルの方は仮想変身(アヴァタライズ)を解除していた。

 どこにでもいるような成人男性の三人組だ。

 銃も持っていないし、洋ゲーのような服装もしていない。

 こういうものを見ると、改めてアバターの中は普通の人間なんだなと実感してしまう。


「……来い……よ……もう何もかも……どうでもいい……僕を否定する世界なんて……人間なんてみんな死ねば良い……」


 聖丸はまだブツブツと何か言っている。

 完全に危ない人だ。

 大型トラックという密室に一緒にいるのが怖いくらいだ。

 もっとも、アバターの能力差でルール無しのタイマンならピンキーが圧勝だろう。

 それほどに聖丸アバターの基礎能力値は低い。


 大会でここまで残ってこられたのも、銃子とらきめが強かったからだ。

 聖丸は最弱アバターで足を引っ張っていただけに過ぎない。

 金はあれどゲームに対して真剣さが欠けている聖丸では、アバターが強くないのは当然だろう。

 それどころか人生で何かに真剣になったことすらないのかもしれない。

 小さい頃から望むモノはなんでも手に入った。


 それこそ物、者、問わずだ。

 多少の犯罪をしても揉み消せる。

 両親の金、権力というのはそれほどまでに絶大だった。

 だが――今回ばかりは違う。

 消しきれない無様な情報がネットに拡散されてしまっている。


 一つ二つ消したところで、増え続けていくだろう。

 おもしろがって広めていく者たちだけではなく、直接的に聖丸を恨んでいる者は多い。

 これに乗じて聖丸の悪事を暴露したりしていて、もう収拾が付かなくなっている。

 一生ネットに残るだろう。

 佐藤聖丸という人間は、もう終わりだ。


 しかし、始まるモノもある。


「皆殺し……そうだ。人間みんな殺せば、炎上は終わるじゃないか……」


 パンッと響く銃声。

 音のした方に注目が集まる。

 聖丸の手にはハンドガン。

 銃口から硝煙が上がっている。


「ひぃぃぃいいいい!?」

「い、いきなり撃ちやがった!!」


 桃瀬は突然のことすぎて、眼前の光景が頭で理解できなかった。


「練習用の武器……じゃない……?」


 倒れているサバイブルの一人は、頭部から赤い液体を流して痙攣していた。

 実銃だ。


「ひっ、人殺しー!?」


 怯えるサバイブル――ただの人間の姿の彼らを見て、桃瀬はハッとした。

 今、アバター状態なのは聖丸と、ピンキーである桃瀬だけだ。

 急いで止めなければという気持ちが湧き上がる。


「聖丸!! あんた何をやって――」


 桃瀬は銃を奪い取ろうとしたのだが、聖丸の力は異常だった。

 格ゲーアバターであるピンキーよりも強く、どう考えてもおかしい。


「なっ!?」

「あは、あははははははッ!!」


 聖丸の身体が闇のオーラのようなモノを纏い、表情はモンスターのように歪んでいく。


「あの方たちからもらった力で人間を殺し尽くしてやる!! 僕をバカにした人類は消えればいいんだ!!」

「うぐっ!?」


 桃瀬は腹に強烈なパンチを食らって、走行中の大型トラックの車外へはじき飛ばされてしまった。

 地面に放り出されてゴロゴロと転がり、ようやく止まったが痛みで動けない。

 ただ走っていく大型トラックを見送るしかない。


「来い、レイドボス〝ディノサヴロス〟!!」


 ビルほどもある巨大な何かが恐ろしいスピードで走ってきて、大型トラックを掴んだ。

 空転するタイヤ、中から聞こえる運転手とサバイブルの悲鳴。

 レイドボス〝ディノサヴロス〟――それは腕の生えたビルサイズの巨大な恐竜だった。

 聖丸がディノサヴロスに乗り移ると、大型トラックは投げ捨てられ、踏まれて地面で潰れていた。

 そのまま桃瀬のことは歯牙にもかけず、ある方向へ向かっていった。

 それはまだ人々が残っている病院のある町の方だ。

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『星渡りの傭兵は闘争を求める』
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