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京太VS銃子

 遠距離にいたはずの京太が、眼前に出現した。

 銃子は驚いていた。

 しかし、刹那の瞬間に意識を切り替え、目を大きく見開いて、楽しそうに狂気じみた笑みを浮かべていた。


 ――その銃子の瞳に映るのは。


(綺麗な瞳だな。俺が映ってしまっているのがジャマだが)


 光剣を振り下ろしている京太の姿だった。

 普通のアバター相手ならこれで京太の勝利だ。

 そう、普通のアバターなら。


「チッ、読まれていたか?」


 銃子はとっさに後ろに高速移動していたのだ。

 光剣に手応えはあったが、それはアサルトライフルだけしか切断できていない。

 銃子は残りの手持ち武器である、スナイパーライフルに持ち替えていた。


「んなもん、読めるはずないやろ。びっくりして後ろに逃げただけや」

「銃子、お前の反射神経どうなってるんだ……」


 FPSというのは敵を見つけて、狙いを付けて、撃つという三動作で成り立っている。

 上級者ともなればそれを一瞬でこなせるように日頃からトレーニングをしているのだろう。

 銃子も大会前に、きちんとトレーニングをこなしていたのだ。


「VTuberスキル【天使の片羽根】言うたか? すごいなぁ、銃弾をモノともせずに一瞬で移動してきおった。あの弾幕の中で手応えがないっちゅーことは、時間停止か、物質透過、ワープ辺りやな」

「一瞬で絞り込まれたか」


 京太としても、こんなものが自分に付与されて驚いている最中だ。

 以前のかおるのVTuberスキルは、ただの基礎能力値をアップさせるだけのものだった。

 それが登録者100万人到達で新たな力が解放されたのだ。


「正解はワープだ」

「何をバラしちゃってるんですか京太ぁ~ッ!!」


 離れたところから、かおるが抗議の声を上げてきている。

 狙撃されるのが怖いからか、物陰に隠れているので表情までは見えないが……たぶん激おこだろう。


「いや、向こうの能力も先に教えてもらったし……おあいこだろ?」

「なはは、かおるのパートナーは難儀なやっちゃなぁ。まっ、人のことは言えんけど」

「わたしっちのパートナーは最高なの~ッ!!」


 らきめの声が、銃子の遙か後方から聞こえてきた。

 どうやら我慢できなかったらしい。

 同時に、背後から襲いかかったりしないというアピールなのかもしれない。

 銃子に最高の戦いをさせたいがために。


「パートナー交代とかできないか?」

「そんなこと言うて、京太はかおるのことを気にいっとるんやろ? バレバレや」

「さぁな……。さて、闘魚(ランブルフィッシュ)最後の戦いと洒落込むか」

「ええでぇ……身体も心も熱ぅなってきたわ……!」


 銃子は立ちながらスナイパーライフルを構えた。

 普通は片膝を立てた状態や、伏せた状態などの方が安定する。

 だが、銃子は立ちながら撃っても百発百中を可能とするFPS系最強のアバターだ。

 銃声――音が届く前に、すでに発射されているのが見えた。


 これはスナイパーライフルから発射された弾丸が、音よりも早いためである。

 バァンッ! という普通より大きな銃声が聞こえてからではもう遅い。

 先に行動をする。


 なお、余談だが音が届く直前にワープをしてしまっているために、丁度銃声が聞こえない状態で京太は戦っている。


「また使わせてもらうぞ、かおる」


 京太は弾丸を避けるのと同時に、銃子の眼前へ行くために【天使の片羽根】でワープをした。

 光剣の射程、この場のイニシアチブは京太が握っている。

 振り抜かれる光剣。


「くっ、やはり銃子も速いな」

「正直、ギリギリやでぇ」


 虚空しか斬れなかった。

 銃子が高速移動で後方へ跳んでいたため、またも回避されたのだ。

 今回は銃すら斬れなかった。


「ふむ、【天使の片羽根】はある程度の縛りがあるようやな。連続でワープしてくれば追撃できるし、死角に飛べば不意も突ける。できないんやろ?」

「ラスボスは強くてもいいが、今度は頭の悪い奴にしてくれ……」


 銃子の指摘は当たっている。

 かおるからスキル【天使の片羽根】を付与された時点で、何となくできることがわかっているのだ。

 使い慣れたらまた違うかもだが、現時点でできるのは視界に入った相手の目の前にワープすることだ。再使用時間もある。

 銃子の反射神経と、高速移動を使われたらワープ攻撃しても逃げられてしまうだろう。


(それならどうする……? ワープしてから攻撃に移るタイミングを極限まで早くするしかないか……?)


 再び銃子が発砲してきた。

 京太は光剣を振る動作をしながらワープを開始した。


「おっと、まだそれくらいなら避けられるでぇ」


 たしかに前回よりは速くなった。

 だが、届かない。

 銃子は同じように回避して、高速移動で後ろに下がった――と思ったのだが。


「まっ、ウチも学ぶわけや」

「足元が凍って……!!」


 ワープ地点を予想されて、いつの間にか属性弾氷が地面に撃ち込まれていたのだ。

 ワープで丁度、音を跳び越していたのが裏目に出た。

 二発目の銃声の音に気付かなかったのだ。


「目の前にワープされるのがわかっていても、長銃身のスナイパーライフルじゃ物理的に撃てへんからなぁ。先に足元に罠を仕掛けさせてもろたで」


 京太は足元がすべって踏ん張りが利かず、動きが一瞬遅れる。

 そこに銃子のスナイパーライフルが放たれる。


「す、スキル【神一重】! ぐぁッ!?」


 失敗した。

 ワープに気を取られていたのと、足元がすべる状態で、いつもなら100%成功させていたスキル【神一重】のタイミングを見誤ってしまったのだ。

 スキルの失敗ペナルティとして最大HP半分のダメージを食らってしまった。

 同時に銃子のライフル弾が肩に当たった。

 ギリギリで【電磁障壁外套オールバレットキャンセラー】が発動されたが、元々一発が強力なスナイパーライフルだったので相殺しきれない。

 ペナルティと合わせて瀕死の状態になってしまった。


「なかなかのピンチだな……」

「そうは言っても、互いに一撃で倒しきれるやろ」


 銃子は心の底から楽しそうに笑っている。

 相手が倒れるか、自分が倒れるかのギリギリの戦い。

 これまでの一方的な狩りではない、退屈な世界とは別物だ。

 楽しまずにはいられない。


 一方、京太も同じ気持ちだが自分の方が不利というのは感じていた。


(これが練習用のHPじゃなかったら動きが鈍って負け確定だったな……。さて、どう戦う……。銃子はさっきの戦法を使えば、ほぼ確実に次で俺を倒せる……。俺は次で勝負を決めなければならない……)


 ワープを使って、いかに光剣を当てるかというのは正解だろう。

 先ほどはタイミングが早すぎたので、光剣を振り始めて少し遅めにすればワープした直後に当てられる可能性が高い。

 しかし、そこで疑問が生じる。


(……倒しきれるか?)


 光剣の通常攻撃一発で、銃子のHPを減らしきらなければ負け確定だ。

 今までの光剣のダメージからして、京太の勘は『減らしきれない』と言っている。

 そうなると、残る手段はただ一つだ。

 覚悟は決まった。


「来い、次で勝負を決める」

「ウチもそんな気がする」


 二人は勝負が終わってしまうのが名残惜しいのと同時に、最高の瞬間を迎えられるかもしれないというワクワクが止まらない。

 好敵手と認め合っていた。

 銃子は見せつけるように足元に属性弾氷を放ってから、京太に向けて発砲してきた。

 ワープで回避されるとわかっていても、きっちりと頭部を狙うのは手癖なのだろう。


「さぁ、【天使の片羽根】でワープを……せぇへん!?」

「スキル【神一重】!」


 京太はこの瞬間を待っていた。

 わざわざ取る必要の無いリスク――ではない。

 次の強力な一手に必要なのだ。


「そういえば、銃子にはまだ見せてなかったな――スキル」


 京太は慣れたスキル動作で光剣を振りかぶり、普通の振りよりも速い一撃を繰り出す。

 同時に【天使の片羽根】でワープして、銃子の眼前へ出現した。


「――【天撃】ッ!!」


 回避スキル【神一重】から出せる、カウンタースキル【天撃】。

 リスクがある分、通常の倍のダメージを与えることができる。

 通常攻撃より明らかにワープタイミングに合わせるのは難しい、大博打だ。

 あげくに足元が氷ですべるため、少しジャンプしながら不安定な空中で放っている。

 後先考えない最後の一撃。

 その覚悟が――


「くそぉーッ!!」


 銃子に命中し、練習用HPを削りきってダウンに追い込んでいた。


「おいおい……まじか……」


 京太の呆れるような声。

 着地と同時に――銃子が斬られる前に撃っていたホーミング弾に背中を貫かれてダウン。

 両者、相打ちの状態となっていた。


「くそッ! くそッ!! 相打ちなんて悔しいやろ!! 勝ちたかったわー!!」

「俺の方からしたら、どうやっても相打ちにしか持ち込めないクソゲーだったぞ、この野郎……」


 ダダをこねる子供のように悔しがる銃子と、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも笑っている京太。

 そこへらきめが泣きながら駆け寄ってきた。


「銃子っち、ごめん、ごめんね……。わたしっちのVTuberスキルが強くなかったから……」

「何言うとんねん。すごい強かったし、相手も色々やってくれたから最高に楽しかったでぇ。ありがとなぁ、らきめ」

「銃子っち……!」


 泣きじゃくるらきめは、銃子の胸元に飛び込んでいた。

 過去に色々あった二人だが、これでよかったのかもしれない――と見ている京太は思った。

 いわゆる感動的なシーンというやつだ。

 だが――


「よっしゃあああああああ!! ヘッショー!!!! 勝ったどー!!」


 空気を読まないかおるが、らきめの頭部にハンドガンを撃ちまくっていたのだ。

 パンパンパンパンパン……という乾いた音が鳴り響いていた。


「「「あ……」」」


 三人は呆気にとられていた。

 実はまだ勝利チームは決まっておらず、最後に残ったのはかおると、らきめの二人だけだったのだ。

 そのかおるが、らきめを倒したということは――


『今回の闘魚(ランブルフィッシュ)の勝者は……京天桃血だー!!』

『うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 実況と観客の声が響き渡った。

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