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覚醒、導くは天使の片羽根

 八王子京太は、普段は好戦的な性格ではない。

 小学校の頃も誰かを守るために行動はすれど、なるべく暴力沙汰は避けるし、勝ち負けなんて無駄だと思っていた。

 イジメられ何もかも嫌になって、のめり込んだゲーム〝WRO〟でもそうだ。


 レベル上げも、金策も、なるべく誰とも争わないようにソロでやっていた。

 剣を振ることもただの没頭する作業だ。

 そこには面白さも、承認欲求も、何も求めない修行のようなものだ。

 人間が自然と息をするかのように、キャラクターを動かしているだけ。


 それだけで苦しい現実から目を背けられた。

 そうしないと今すぐ本当の自分を思い出して自殺してしまうからだ。

 ひたすら、ただひたすらに作業を繰り返していくうちに、それなりのベテランプレイヤーになってしまった。


 その頃には作業の一環としてPTを組んだりもするようになった。

 そちらの方が作業効率が上がるからだ。

 ただ無感情にWROをこなしていく京太だったが、なぜか勝手に好意を持ってくれるプレイヤーが老若男女出てくる。

 MMOとは不思議なものだと思った。


 背徳天騎士特有の死に急ぐプレイスタイルを究極まで突き詰め、周囲から奇異の目で見られたりもした。

 それでも似たもの同士の仲間が集まり、ギルド〝セブンスディアブロ〟を作った。

 楽しかった。


 楽しんではいけないような人間だと思っていたが、仲間たちと一緒に全力で他のプレイヤーと戦うのは楽しかったのだ。

 失っていた感情を取り戻した。

 そこから再び、また他人へと興味を持てるようになった。




 ***




「……つまらへんなぁ」


 京太とかおるを追っていた、銃子がポツリと呟いて立ち止まった。


「……ほう?」

「ちょっ!? なんで京太まで立ち止まってるんですか!?」


 京太は振り返った。

 そこにはいつもの作り笑顔を止めた、心底つまらなさそうな銃子がいた。

 京太はそれに見覚えがあった。

 昔、鏡に映っていた。


「なぁ、京太。チートって使うたことあるか?」

「オフゲーで用意されているクリア後チートモードならあるな」

「あれっておもろいか? まぁ、用意されてるんならおもろいと思う奴もおるんやろなぁ……」

「俺はすぐに飽きてしまったな」

「ウチもや。敵が弱ぁなりすぎてなぁ……。自分が強ぅなりすぎるとつまらへん……ウチの人生もそうや……」


 たしか銃子は最年少のFPSトッププレイヤーとか言われていた。

 ずっと以前からFPSでは最強で、まともに戦える敵がいなかったのだろう。


「それでもチームプレイの楽しさを知ったりもしたんやけど、最高のチームだと思ってたモノは壊れてもうた。もうチームプレイも楽しくない……そのはずやった」


 銃子の唇が少しだけ動き、笑みを見せた気がする。


「せやけど今日、京天桃血と戦ってるときは楽しかった。生きてる気がしてた。あのときの感情を取り戻せた……はずやったんだけどなぁ……。VTuberスキル【キメラ】はチートスキルや、また面白くなくなってもうた」


 京太の眉がピクリと動いた。


「だから、もう終了させようや。こっちのリタイアでもええわ」

「……」

「きょ、京太! 何もせずに京天桃血の勝利になるならいいじゃないですか! 余計なことは言わないでくださいよ!」


 かおるが何かハラハラしているようだ。

 どうやら京太がどう行動するのか予測できてしまったらしい。

 普段は京太がしないような非効率的な行動――かおるはよく見ているし、よく理解してしまっていた。


「銃子、お前に本気で戦うゲームの楽しさを教えてやる」

「うわあああああ!! このゲームバカがぁー!!」


 かおるは頭を抱えていた。

 京太としては悪いとは思っているが、こんな状況になったら逃げることなどできない。

 その異常性こそが、アバターとしての強度を上げているのだから。


「ふ~ん、京太。こっちはVTuberスキル【キメラ】ありでええんか?」

「ありでいいぞ。なかったら、お前の方が雑魚だろ?」

「……言うやないか」


 珍しくクールな銃子が、怒りの感情を微かに見せた。

 京太の挑発に敢えて乗ってくれたのだろう。


「いやいやいや、この状況で勝てるわけないでしょ!! 京太!!」

「それでも俺はやるぞ、かおる」

「なんでー!?」

「俺がそうしたいからと、銃子がゲームの楽しさを失っているのが可哀想だからな。それに――かおるを信じている。何か手があるんだろう?」

「なっ!? ……そう言われたら……もう何とかするしかないじゃないですか……」


 京太に急にデレられて、かおるは照れてしまっている。

 彼女はそっぽを向いて深呼吸をしてから、覚悟を決めてカメラに向かって大声で叫ぶ。


「全リスナーのみなさん!! 私の――かおるチャンネルに登録してください!! この瞬間に〝チャンネル登録者数100万人〟を達成したら面白い勝負を見せられますよ!!」


 大会の優勝が決まる直前に、チャンネル登録を求めるなど前代未聞だ。

 だが、様々な要素が絡み合って注目が集まっている大会。

 かおるチャンネルを見ていた人間だけでなく、大会公式や、他のチームのファン、炎上の野次馬までこの場に注目していた。


 そのタイミングで『100万人達成すれば面白い勝負を見せられる』と言うのだ。

 本気で期待して登録する者、面白半分で登録する者、友達から勧められて登録する者。

 様々な人間がチャンネル登録をしていく。

 急激に上がっていく登録者数。

 かおるから数字は見られないのだが、配信者としての勘が告げていた。

 100万人に到達する――と。


「京太……」

「どうした、そんな震えて」

「武者震いってやつですよ……。ぶっつけ本番でいきますよ」


 ただの目配せ。

 それだけで京太には伝わった。


「ああ……」


 ゆっくりと離れるかおる、アサルトライフルを構える銃子。

 京太も光剣のビーム部分を伸ばし、銃子を睨み付けた。


「ほな……」


 達人同士になると雰囲気でわかる。

 今から真剣勝負をするのだと。


「来い……!」

「いくでぇ!」


 銃子がアサルトライフルを発砲した。

 オートエイム、ホーミング弾、跳弾操作、属性弾炎、無限弾。

 それらを織り交ぜて撃ってきた。

 回避不可能、反撃不可能。

 京太は終わりだ。

 リスナーの誰しもがそう思っていた。

 だが――起死回生の順序立てられた運命が光り輝いた。


「京太、受け取ってください――」


 かおるのメイド服が光り輝き、天使のような新衣装へと変化していた。

 そして、先ほど〝閃いた〟ものを行使する。


「新たなるVTuberスキル【天使の片羽根】です!!」


 銃弾の雨あられに貫かれ、爆煙と砂ぼこりに包まれてしまった京太。

 勝負が付き、リスナーたちは視聴を止めようとしたのだが――気が付いた。

 驚いたことに京太は、遠く離れた銃子の目の前に出現していた。

新連載が始まりました!


『星渡りの傭兵は闘争を求める』


ハイファンタジー+勘違いザコ領主+ロボゲー世界観です。

初めて書くジャンルで挑戦してみました!


下の方のリンクから飛べるようになっているので、読みに来ていただけると嬉しいです!

できれば初動という超重要なこのタイミングで、あなたの貴重なポイントを入れてくれると助かります<(_ _)>

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【新作です! タイトルを押すと飛べます!】
『星渡りの傭兵は闘争を求める』
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