勝率0%
「危なかった……」
「光剣でお店の床を切って下フロアに脱出とか、普段やったら炎上ですね!」
「戦闘で使う許可をもらった廃墟だから平気だろ……だよな……?」
どんなことで炎上が起こるのか予測が付かない世界なので、京太は少し弱気になってしまった。
「って、今はそんなことを気にしている場合じゃない。実際に対峙してみるとVTuberスキルを使った銃子がヤバすぎる……。映画ターミネ○ターかよ……」
「あ、名前だけ知ってます。さすがに古くて本編は見てないですが」
「1と2は名作だから見ろ!! ……あとは……下手なことを言うと論争が巻き起こり炎上する可能性があるな……」
やはり炎上が怖い。
そんなやり取りをしながらショッピングモールの一階を走っている二人だが、背後から銃子の声が聞こえてきた。
「ほな、物理的に炎上させてみよか」
「もう追いついてきたんですか!?」
高速移動からは逃げられない。
銃子はアサルトライフルを向けてくると、その銃口から炎が上がっていた。
「まずい、アレは属性弾――」
京太が口に出すのと同時に、銃弾――いや、火の玉が飛んできた。
魔法使いが使うファイアーボールのようなそれは、アサルトライフルの速度で連射されてくるというチートさだ。
そこらじゅうが火の海に包まれてしまう。
「おや、スプリンクラーが作動せぇへんなぁ。こりゃ燃やしすぎるとあかんか」
今度はアサルトライフルから氷の弾を発射して、炎を強引に包み込んでいく。
もはや銃を相手にしているのか、魔法を相手にしているのかわからないレベルだ。
歩く災害のような存在に見えてしまう。
それを必死に回避し、生き抜いている弱者の立場が今の京太とかおるだ。
「やばいやばいやばいやばいやばいですよ!!」
「わかってる!!」
だが、煙や何やらで天然のスモークグレネードが発生している。
銃子からは見えないはずだ。
もっとも、ウォールハックが煙にすら有効だった場合は泣くしかない。
「ちょこまかと逃げとるなぁ……。じゃあ、次はこれや」
一発の銃声が響き渡った。
さすがに相手から撃たれるのがわかっているので、なるべく直線ではないジグザグ動きをしているので、よっぽど運が悪くなければ当たらない――はずだった。
「うぐ!?」
脇腹に熱さ――いや、銃弾による痛みを感じた。
幸い、表面が抉れた程度でダメージは大きくないが、この煙だらけの中で命中させてきたことに驚いてしまう。
「京太!? 大丈夫ですか!?」
「ああ、平気だが……これはもしかしてホーミング弾というやつか……」
「ピンポーン、正解や。ウォールハックは律儀に壁のみ、オートAIMはちゃんと目で確認しないと発動せんからなぁ。これはただ勝手に近いプレイヤーを追尾してくれる弾や」
そこで京太は違和感を覚えた。
スキルに――ではない。
銃子の行動だ。
倒そうと思えば、いつでも京太とかおるを倒すことができるだろう。
だが、今の銃子はそうしない。
聖丸のような性格だったら、嬲ることを楽しんでいるのだろうと思うのだが、銃子とらきめに関してはそうでないだろう。
しかし、だからといって京太が『今すぐ本気で殺しにかかってこい!』とも言えない。
負ければかおると桃瀬が、聖丸のものになってしまうからだ。
今は勝つ方法を見つけなければならない。
「くそっ、どうすれば……」
「そうか……わかりました……。銃子さんは……そういうことか……」
急にかおるが何かを閃いたようだ。
「京太、もうしばらく逃げましょう!」
「逃げたところで……今の銃子に勝てる方法が思いつかないぞ……」
「大丈夫です! 今、行動しなければならないのは京太ではなく、私です! 私が頑張ります! 信じてください!」
戦闘に関して、かおるが真摯に訴えてくるのを初めて見た気がする。
そこまで言われたら……京太は頷くしかない。
「わかった、この場はかおるに任せる」
「ふふん、そうしてください。あ、でも、すぐに京太さんの出番も来るはずですよ」
そう言うと、かおるは配信中のカメラに向かい、リスナーに語りかけ始めた。




