隠し球のレアアイテム
ガンガール側の爆発を見届けた京太は、してやったという表情をしていた。
「よし、大型ボムを使った作戦がうまくいったようだな」
京太は少し前の戦い――巨大タッグ連合を倒したあとに、補給物資の箱に残されていた大型ボムを回収していたのだ。
それを使えばガンガールが隠れている岩場ごと吹き飛ばして事態を打開できる。
しかし、ガンガールが隠れている岩場までは距離が長い。
パワータイプの桃瀬ならまだしも、いくら近接アバターの京太でも大型のボムをそこまで投げ飛ばすのは難しいだろう。
そこで強力なカウンタースキル【天撃】を使うことにしたのだ。
銃子にわざと打たれて【神一重】で回避してから、かおるに大型ボムを持ってもらい、それを【天撃】でホームランする。
普通に投げるのと違って、スキル補正のようなものがかかっていて、狙い通りにガンガールが隠れている岩場の前に落とすことに成功したというわけだ。
「京太……二射目が早くて私が撃たれたらどうするつもりだったんですか? 京太みたいに回避するとか無理ですよ……」
「……結果オーライだ!」
「あ、もしかして『ダウンくらいなら別にいいだろ』とか思ってましたね!?」
「とにかく今がチャンスだ、急いで距離を詰めよう!」
「逃げるなー!! 卑怯者ー!!」
そんな一昔前に流行ったセリフを聞きながら、京太は急いで岩場から出て走る。
ガンガールからの狙撃がないので、どうやら相手にかなりのダメージを与えたようだ。
もう弓ではなく、近接戦闘を想定して光剣を手に持っておく。
「っと……!」
よろよろとしたらきめが見え、マークスマンライフルを乱射してきた。
狙いが甘いのでスキルを使うまでもない。
走りながらでも、こちらに当たる弾だけ見極めれば簡単に避けられる。
銃というのは、きちんと狙わないと意外と真っ直ぐ飛ばないのだ。
そのまま距離を詰めて、らきめを光剣で斬り裂こうと思ったが、そうもいかないようだ。
「出てきてくれて助かったわ……!」
マズルフラッシュ。
銃子がスナイパーライフルから、中距離用にアサルトライフルに持ち替えて撃ってきたのだ。
銃子より傷を負っているが、狙いはかなり正確だ。
「スキル【神一重】!」
京太は避けながら、まずいと思った。
初弾は回避することができても、アサルトライフルの速度で撃ち続けられたら回避し続けられる確率はかなり下がる。
銃子ほどのリコイルコントロールがあれば、さらに対処は難しいだろう。
だが、すぐに違和感を覚えた。
(発射の間隔が遅い……? これはまるで……ワンマガジンの一発一発を大事に使っているような……)
京太のPVPで培った勘が『今だ! 前へ出続けろ!』と言っている。
襲い来る銃弾。
頭部以外――肩に命中する程度はスルーして一気に岩陰まで駆けていく。
辿り着き、そこですべてが繋がった。
「バックパックをやられたのか」
岩陰に散乱し、破損しているアイテム。
銃子の背中に大きな傷も見える。
どうやら背中から、あの大型ボムの爆発を受けたのだろう。
もしかしたら、破壊された岩の破片が飛んできたのかもしれない。
らきめは軽傷でバックパックも無事だが、今回は銃の種類によって使える弾が違い、アイテムを渡すこともできなかったのだろう。
無事だったマークスマンライフル弾は、銃子のスナイパーライフルで使えないということだ。
――ようするに銃子は弾切れだ。
「うっ、これは違うなの……銃子は本当は回避することができたなの……。でも銃子は、とっさに動けなかったわたしっちをかばって」
「ははっ、足がもつれてらきめの前に転んでしもうただけや」
どうやら、仲間同士の友情プレイがあったようだが――試合中の京太にとっては関係ない。
非情なようだが、これは勝負事だ。
「与えられたチャンスは最大限に活かさせてもらう。本気でいかないとお前たちにも、これまでの対戦相手にも失礼だからな……」
らきめはまだ戦えるが、もう近接アバターの距離に入ってしまった。
一瞬で光剣を叩き込むのは造作も無いことだ。
現状、ガンガールに勝ち目はない。
京太が勝ちを確信して光剣を振った、そのとき――
「ごめん、銃子っちが嫌でも使うなの……。VTuberスキル【キメラ】」
「なっ!?」
振られた光剣の先には誰もいなくなっていた。