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個人間戦争

 京太は復讐者の思考で動く。

 効率よく勝利するには、渋沢がユニットを召喚する前に殺すことが最善手だ。

 どうしてかというと、渋沢の戦い方はユニットを召喚して、それを相手にぶつけることによって成り立つ。

 戦略シミュレーションゲームそのものだ。

 これで土地からコストを増やされ、ユニットを作られては物量で押されてしまう。


「……死ねッ!!」


 今の渋沢一人なら簡単に殺せる。

 京太は前にダッシュして、渋沢の頭部に大剣を振り下ろす。

 そこに殺人への躊躇などは一切ない。


「覚悟きまってんねぇ……。まっ、そうなる可能性も考えて準備をしておいたけどねぇ」

「ちっ」


 渋沢の頭部を叩き割るはずの大剣は、大きな盾に防がれていた。

 それは渋沢が召喚していたらしい大盾持ちのユニットだ。


「うわ、一発で盾が割れちゃったよ。すんごい威力だね」


 渋沢はノーガードをアピールするかのように何も持っていない両方の手の平を見せてきた。

 同時にそれは、何も持たなくても勝利できる〝王〟のような貫禄も感じた。

 京太は警戒して、追撃をせずに後ろに下がる。


「あれ、もう攻撃を狙わないんだ?」

「……いつから……俺と戦う準備をしていたんだ?」


 薄い霧のようなものが渋沢の周囲に煙り始めた。

 そこから次々とユニットが召喚されていく。

 大盾持ち、斧持ち、弓持ち、救護兵に剣士。

 下手に突っ込んでいれば囲まれて死んでいただろう。


「ここに来てからずっとだよ。仮想変身(アヴァタライズ)を解かずに、認識されないように領土を広げて、コストを増産し続けていた感じだねぇ~」

「そういえば、お前だけ作戦中に仮想変身(アヴァタライズ)を解除した姿を見たことがなかったな……。下手をしたら負担で死ぬぞ?」

「ん~、『正義は死なない!』……とか他の若い四天王みたいに言えたら良いんだけど、おじさんは歳だからね~。死ぬかもしれないけど、まぁ死なないかもしれない」


 渋沢が呼び出したユニットが次々と襲いかかってくる。

 京太は大剣を振り回し、防戦一方になってしまう。


「なぜそんな命を懸けるような馬鹿なマネをする。そもそも、効率の良い俺の殺し方なら、仮想変身(アヴァタライズ)をしていないときに殺すのが一番だろう?」

「うん、〝そもそも〟の話なんだ。そもそも、なんでアバターが強いかわかるかなぁ?」

「お前たちのリーダーが提唱している、そのアバターへ懸けた情熱……か?」

「そっ。特にボクたち四天王や、京太くんが強いのもそれが理由だとボクは思っている。だから――戦略シミュレーションゲームアバターであるボクが、その情熱を捨ててキミと番外戦術で決着を付けるはずがないじゃないか? そんなことができるのは情熱もない弱い奴だけさ」

「あとで死んでも後悔するなよ」

「ボク以上に強い奴と戦えるなら、おじさん嬉しくなっちゃうタイプだから。心配ご無用だよ」


 その渋沢の言葉は、実力から裏打ちされたものだろう。

 呼び出されるユニットを倒しても、次々と召喚されてきてしまう。

 ここは多少のリスクを負ってでも、強引に突破するしかない。


(待っていても相手のコストが増えるだけで、こちらはじり貧だ……。攻めるしか勝機はない)


 防御の薄いところがあったので、そこから突進していく。


「おっと、かかった。目ざといキミなら〝弱いところ〟を見つけてくれると思ってたよ」

「くっ!!」


 手薄なところだと思っていた地点の物陰から、伏兵として用意されていたユニットが出現した。

 眼前に迫る死の臭い。


「読まれていたか! だが、ある程度は予想できていた! スキル【逃走】!」


 京太は第二職業アサシンのスキルを発動させた。

 効果は逃げる速度を上げるというものだ。

 それを使って急旋回――一定の距離を離して、持ち直すことに成功した。


「ただ逃げる……ってわけじゃなく、最初から威力偵察の様子見って感じかな? さすが京太くん」

「願わくば、そのまま突破できればと思っていたがな……」


 状況は拮抗というところだろう。

 渋沢がユニットを召喚し、それを京太が倒していくというバランスだ。

 負けもしないが勝ちもしない。

 先ほどの様子から突破口も潰されているだろう。


「互いに理解できてきたところで、もう一段階文明を上げようじゃないか」

「なっ!?」


 渋沢が指をパチンと鳴らすと、新たなユニット群を召喚されてきた。

 全身甲冑の騎士、騎乗兵、マスケット銃持ち。


「これは個人間戦争なんだ。相手との戦いが長引けば長引くほど、戦いの文明レベルが上がっていく。ま、ボクは内政も好きなんだけど、今はそっちが活かせないからね」


 全身甲冑の騎士は明らかに練度が上がっていて、先ほどのユニットとは攻撃力も防御力も段違いだ。

 騎乗兵は機動力があり、京太の行動を制限してくる。

 そして、それらでマスケット銃持ちの射線に炙り出されてしまう。

 発射される弾丸。

 狙いは京太の眉間だ。


「くっ!」


 ギィンと耳ざわりな金属音。

 京太は眉間を貫かれそうになる間一髪、大剣を盾代わりにしていた。


「これは厄介だな!!」

「おぉ、大剣で弾丸を弾いた。回避だけじゃなくて、そんなこともできるなんて感動しちゃうねぇ」


 まるで演劇を見る王のように拍手をする渋沢は、いつの間にか格好が変わっていた。

 その文明レベルに合わせたかのように、ナポレオン風の派手な鎧装備だ。


「あ~、そうだ。これでボク自身も強化されたからお得意の〝天撃〟でも倒すことはできなくなったよ。残念だね~」

「その言葉がブラフか、それとも真実か……」

「さぁ、それは京太くんが考えるところだねぇ」


 どちらにしても不味い状況だ。

 拮抗していたバランスが崩れた。

 逆転を狙おうとするも、誘い込まれるような戦略で京太を罠にかけるかもしれない。

 どう動いても勝てる気がしない。

 それはまるで蜘蛛の糸に絡め取られつつある得物の気分だ。


「渋沢、この状況を想定して準備していたのか?」

「うん、戦争ってのは準備ですべてが決まるからね。どうしても持っているモノで戦うしかないから、仕掛けは京太くんに声をかける前からやってたよ~」


 京太に接触をしてきたときから、この罠は既に始まっていたのだ。

 用意周到な恐るべき相手を目の前にして――京太は笑った。


「……笑っている? 京太くん、勝ち目が無いとわかっておかしく……いや違う、そうか――」

「光栄だ、俺のためにそこまでしてくれるなんて嬉しいぞ」

「京太くんも、ボクと同じくアバターに情熱を捧げた頭のおかしい人種だったねぇ! わかる、わかるよ! 強者と出会えた時の興奮は、自分が死にそうなほどに高まるからねぇ!」


 渋沢の飄々とした大人の仮面が剥がれたようで、はしゃぐ子どものようにまくし立てている。

 ゲームは大人を童心に戻すというが、どうやら本当らしい。


「桃瀬ちゃんと、かおるちゃんを行かせたのは、戦いに巻き込みたくなかったからかい? 否! 自らの獣心を見せたくない、自らの獲物を取られたくないという狂った本能からだろう!」

「さぁな……」

「キミはWROのトッププレイヤーだ! なんて呼ばれているのかも調べたら出てきたよ! 最強の少人数ギルド〝セブンスディアブロ〟リーダー、狂った背徳天騎士、プレイヤーネームキョウタ――狂太って呼ばれてたよねぇ! そのあまりに死に急ぐようなスタイルならそう呼ばれても仕方がない!」

「よく咆える奴だ。だが、思い出した」


 京太はユラリと揺れながら、無防備に〝前に〟歩き出した。

 騎士の剣を前に、騎乗兵の突進力を前に、マスケット銃の弾丸を前に――命を剥き出しにして晒している。

 吹けば飛ぶような陽炎、それが今の京太だ。

 その隙を逃すはずのない渋沢は、全戦力に攻撃命令を下す。

 一斉に襲いかかる暴力の嵐。

 その中で京太は眼を昏く輝かせ、狂った笑顔を見せていた。


「スキル【獣の数字】発動」

「なっ!?」


 スキル【獣の数字】――それは攻撃力が60%も上がるという破格のスキルである。ただし、WROでも屈指の攻撃力アップ率だが、デメリットも存在する。防御力が60%も下がるのだ。

 現状、敵の攻撃が掠りでもしたら致命傷になるだろう。


「スキル【神一重】・【天撃】!」


 敵の攻撃を回避して、攻撃力アップした【天撃】で敵をまとめてなぎ払った。

 枯れ葉でも散らすかのように、周囲を囲んでいた騎士、騎乗兵を吹き飛ばした。

 それはマスケット銃を持ったユニットのところまで飛び、まとめて消滅させる。


「……おいおい、自分の命を懸けて攻撃力アップとかやっぱりおかしいでしょ。おじさん、勝てる気がしない…………とかは言ってられないよねぇ! いやぁ、準備しておいて良かったよ。ほんと。……――文明レベルアップ、最終段階」


 渋沢も楽しそうに微笑を浮かべる。

 臓腑の底から染み出るような静かに狂った表情。


 周囲から新たなユニットが召喚されていく。

 自動小銃(アサルトライフル)を持った近代的な兵士や、第三世代と呼ばれる高性能な戦車だ。

 あげくに渋沢本人が近未来的なパワードスーツを身につけている。


「戦略シミュレーションゲームってね、勝ちすぎると終盤がつまらないんだよねぇ。こういう最強のユニットも、有効利用できることがあまりないんだ。さぁ、久々にボクを熱くさせてくれよ……!」

「期待に添えるように努力しよう」


 渋沢本人までかなり距離があるが、京太はただ前進するだけだ。

 どんな罠があろうともう関係ない。


「んじゃ、初手はこれ。ICBM――大陸間弾道ミサイルだ」


 頭上を飛ぶ鳥のように見えたモノは、徐々に近付いてきた。

 轟音を立てながら京太へ向かって飛翔してくる。

 信じられないことに、それは大陸を飛び越えてやってくるような飛翔体――大型ミサイルだった。

 ビルサイズの大きさのせいでゆっくりに見え、近付くにつれて時速約二万キロという速さがわかるようになるが――それを京太が認識した瞬間に命中している。

 爆発。

 周囲を吹き飛ばし、廃墟がさらにボロボロになっていく。

 凄まじい振動と乱気流のような砂ぼこりが周囲を支配して、生命が存在する環境ではなくなったとアピールしてきているようだ。


「これが戦争ってわけ。バレないように遠くに作っておいた〝とっておき〟さ」


 渋沢は勝負がついたと思って、気分良く〝とっておき〟という発言までバラしてしまった。

 ICBMを食らって生きている人間なんて、アバターでも存在しないからだ。


「京太くんを仲間にできず消滅させてしまったことは残念だ。けど、安心してくれよ。桃瀬ちゃんと、かおるちゃんまで殺す気はないからねぇ。おじさんを楽しませてくれた相手への、せめてものの手向けだよ」


 勝敗が決し、その場を立ち去ろうとした渋沢だったが――何かに気が付いた。

 砂ぼこりの向こう側に動く何かが〝居た〟のだ。


「そうか、二人に手を出す気が無いというのは安心したぞ」

「おいおいおい……狂ってやがるねぇ……」


 京太は無傷で生きていた。

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