真相
「びゃ、白虎を倒した……!?」
「え、なんで白虎が勝手に倒れて……?」
「最初に入れた毒の効果だ」
京太は、白虎に刺さっている毒ナイフを指差した。
それは開幕にスキルで投げたものだ。
少量ずつだがジワジワとHPを削っていき、最後の決め手になった。
京太はこのパターンを何度も経験していたので、簡単に予想ができたのだ。
「なるほど……。そこまで京君は考えて……」
「経験則に従ったまでだ」
桃瀬が尊敬するような目で見てくるが、本当にそこまでのことではない。
WROの上位プレイヤーなら誰しもがやっていることだろう。
「さて、ドロップアイテムは……。これはレアドロップだな」
【白虎大剣:未鑑定】
光る粒子となって消えた白虎の身体から、白虎のようなメカニカルな大剣が現れた。
「京太、未鑑定ってなんですか?」
「特殊なアイテムで、鑑定スキルで正体が分かるまでは効果が出ない」
「なるほど~……。あ、私のVTuberスキルで鑑定ってありましたよね? しちゃいます?」
「いや、このアイテムは一度、冒険者ギルド――渋沢に預けておいた方がいいんじゃないか?」
京太は渋沢の方を見ると、彼は苦笑いしていた。
「ご配慮、どうも。ボクは京太くんにあげたいけど、一応の規則としては冒険者ギルドにお伺いを立ててからだねぇ」
「そういうことだ、ほら」
京太は、渋沢に白虎大剣を投げて渡した。
「感謝。ボクは優先権をパスするから、たぶん京太くんの物になると思うよ」
「鑑定結果はランダムな数値が出るから、今の装備より良いのが出るかもしれないな。楽しみにしておく」
そのタイミングで、渋沢のスマホに連絡が入った。
短いやり取りをしたあと、いつもの飄々とした雰囲気で報告してきた。
「ん~、朗報。どうやら、他の四聖獣も討伐されたようだねぇ~」
「やった! ということは、今からあたしの家の道場に向かっても平気ですか!?」
「うん、だいじょーぶ」
「俺は渋沢と話したいことがあるから、かおるは桃瀬に付いていってやれ」
喜ぶ桃瀬と、配信を切って無表情になっているかおる。
「……京太、私はその方がいいんですね?」
「ああ、桃瀬一人だと心配だしな」
「……わかりました」
何かを察したかおるは我慢するような表情で、桃瀬と共に行ってしまった。
その二人の姿が見えなくなったところで、京太は口を開いた。
「――それで、灰色の竜はどこだ?」
その場に居るのは渋沢だけだ。
彼はしばしの無言の後、いつものように飄々とした口調で言った。
「今から案内するから――」
「いないんだろう? 本当はここに」
京太の問い掛けに対して、しばしの無言。
渋沢は頭をポリポリと掻きながら、想定外ではなかったか〝いつものように〟答える。
「……気付いちゃってたか~」
そもそもの話、証拠としては一枚の画像のみだ。
それもネットに情報が出ていない状態での画像なので、それなりの信憑性があっただけだ。
しかし、現地に来てから灰色の竜の痕跡が一切見つからない。
密かに冒険者ギルドの一般メンバーに聞いてみても、誰も知らなかったのだ。
「ここにいないのなら、また探すまでだ。だが、腑に落ちない点がある」
「なんだい?」
「なぜ、あの画像を持っていた?」
画像を持っている理由はいくつか考えられる。
一つは〝本当に偶然にも撮影できた、または画像を入手した〟だ。
その場合は怒りはするが、支配地域解放のためにWROプレイヤーの力を借りたいという理由もあり、許しはするだろう。
だが、考え得る最悪のパターンがある。
それは――
「あの灰色の竜をボクが保護している、と言ったら京太くんはどうする?」
「差し出せ、さもなくばお前を殺す」
「待って待って、まずは話を聞いてよ」
「じゃあ、話を聞いてから殺す。それがパーティーを組んだ渋沢への礼儀だ」
渋沢は両手を挙げて敵意がないことを示してきている。
「最初に言っておきたいことは、京太くんへの敵意はない。それに仲間になってほしかったんだよ、冒険者ギルドの……」
「冒険者ギルドのトップ――房州の指示か?」
「いや、これは正義の四天王で決めたことだよ。冒険者ギルドと一緒に行動してもらって、仲間になれるかどうか判断してほしかったんだ。京太くん、冒険者ギルドの活動は素晴らしいだろう?」
「……ああ、支配地域解放を成し遂げて、桃瀬の望みも叶えてくれたしな。これに関しては好意を持っている」
「うんうん、それなら相思相愛じゃないか。これからはボクたちと一緒に――」
京太は話を遮る。
「渋沢。お前はなぜ、灰色の竜を保護している?」
「やっぱそこは譲らないかぁ……。答えは――冒険者ギルドが成す〝正義〟のために必要だから、さ。詳しいことは死んでも言えないけどね」
「そうか、それじゃあ――お前を殺すだけだ」
それを聞いた渋沢は『あちゃ~』というような表情をしていた。
「ダメかぁ。それじゃプランB、仲間にならなかった場合は最大の障害になりそうな〝八王子京太〟を殺す方向でいくしかないね~」
「気が合うな、その方向で頼む」
京太は復讐者の昏い貌を見せ、逆に渋沢はポーカーフェイスで何を考えているのかわからない。
互いに構え、トッププレイヤーアバター同士の殺し合いが始まった。