超必殺技
「ねぇ、強い格ゲープレイヤーの条件って知ってる?」
桃瀬は弾けるような笑顔を見せた。
それを向けたのは京太ではなく――配信を見ているリスナーたちだ。
「正解は、どんな手段を使っても勝つこと。挑発でリズムを崩したり、定石を崩すためにデタラメなコンボを考えたり、レバーのない奇抜なコントローラーを使うこともあるし、一方的に相性が有利なキャラを選んで戦うこともある。だから、リスナーのみんな、このGMのことを教えて! グリムロックをやっていた人もいるでしょ?」
● 壮絶な展開から頼られる俺ら
● 見せ場ってこと!?
● いいぜ、教えてやるぜ……オレ以外が!
「どんな些細なことでもいいよ~」
● 元グリムロックプレイヤーだけど、ボスのヘイトリセットタイミングは大体がHP五割と、ラストの一割で発動です
● 同じくプレイしてたことあるけど、それで合ってる
● 有力情報だ!
● きちゃああああああ!!
● 勝ち確きたああああああああ!!
「きたああああああ!! さすがご主人様、投げキッスしちゃう! チュッ!」
● さすがご主人様なオレたち
● ピンキーたんの投げキッスたすかる
● うひょひょ
● やっぱ俺らってすげぇな
● オレが言ったことにならないかな
「って、ことで、GMくんにはサンドバッグになってもらうね!」
ピンキーは見ていたスマホのコメント欄から目を離し、GMを睨み付けた。
現在GMのHPは五割だ。
次のヘイトリセットは一割なので、そこまではガンガン削ることができる。
「必殺技【ピンキー激烈脚】!! 【ピンキー激烈脚】!! 【ピンキー激烈脚】!! 【ピンキー激烈脚】!! 【ピンキー激烈脚】!!」
「お、おい桃瀬!? そんなに削るとまたヘイトリセットでお前が……」
盾をしている京太はさすがに焦ってしまう。
スキル【天撃】自体にヘイトアップ効果があるのだが、それをリセットされてしまってはまた桃瀬が即死してしまうのだ。
「格闘ゲームなら、二度目のダウンはゲームオーバーだろ!?」
「うーん、今までダウンしたことなかったから知らないけど、たぶんそうだと思う」
「それなら!!」
「今度は大丈夫、あたしを信じて」
「だ、だが……」
京太としては、桃瀬にも絶対に死んでほしくない。
先ほどの吐露に対しても言いたいことがあるし、ここでお別れなんてことになったら耐えられないだろう。
「強くなったところ、見てて」
過去のことを聞いたからこそ、その言葉の重みを理解してしまう。
京太は諦めたように呟く。
「わかった」
「それじゃあ、あたし主役の初配信らしく撮れ高いっくよ~!!」
ピンキー激烈脚でHPバー二割程度まで削ったところで、今度は隙の少ないピンキー三連掌に切り替えていく。
桃瀬は豪快な発言の裏で、HPバーをミリ単位で、GMの動きをフレーム単位で観察する。
格ゲーとは時に大胆に、時に繊細さを要求されるのだ。
経験と勘でギリギリを攻める。
そして隙のない動作でHPバー一割のラインまで達した。
『運営に刃向かうプレイヤー! 永久! アカウント! 停止!!』
GMは発狂したように叫び、桃瀬へ狙いを定める。
ヘイトリセットだ。
回避不可能レベルのカンストの素早さで赤い大剣が振り下ろされる。
また斬り裂かれるのは目に見えているのだが――
「こっちのゲージも丁度溜まったところなんだよね!! みんなに格好悪いところを見せちゃったから、そのお詫びに……いくっよ~!!」
これまでゲームに注ぎ込んできた情熱を、今ここにすべて集める。
GMの機械的な反応以上、人間の限界を突破する超反応。
1フレーム――0.03秒。
それすら温い。
レバー二回転+パンチという超難度をカウンターとして使う狂気の選択肢。
それを選べるのが最高に頭の悪い格ゲープレイヤーというものである。
「超必殺技【ピンキーファイナルワイルドラッシュ】ッ!!」
このワザは特殊で、超必殺技ゲージが溜まった状態でなければ放てない。
発生時に数フレームの〝無敵時間〟があり、それでGMの即死攻撃を回避した。
桃瀬がGMに突進、接触したら乱舞系の行動が開始される。
パンチ、キック、各必殺技などを組み合わせ、瞬時に100HITが無条件で与えられる。
それは炎嵐のような暴打であり、絶対に当て続ける氷の意思のようでもある。
HPバーは削れていき、最後のフィニッシュを決め、ピンキーが決めポーズを取ったところでGMは頭から地面にダウンした。
「あたしの勝ちぃ~!」
『……それでは皆さん……良い旅を……』
格闘ゲームにおける最大の撮れ高――超必殺技によってGMは討伐された。