チートアバター
「こんて~ん! 地上へ舞い降りたお世話系メイド天使、天羽かおるでーす! 今日も皆様に楽しんでもらうぞー!」
● こんてーん!
● こんてん! こんてん! こんてーん! 世界で一番可愛いVTuberは~? ここんがこんこんこん! かおるちゃん!
● 待ってたよー!
● 生配信だ、やったー
「さて、本日は外からお送りしています。場所は四角江町の某所……とボカしておきますね! ご主人様が私に会いに来て、モンスターに襲われるかもなので!」
● それで死ねるのなら本望!
● 会いに行って中身バレとかのセキュリティ上の問題もありそう
「中の人などいない! そうですよね、京太!」
「ああ、VTuberとはそういうものだ。そっち方向に過度な興味を持つのは迷惑だから止めておけ。……一応挨拶しておく、八王子京太だ」
● たまには良いことを言うな、京太のクズ野郎
● はよ京太はモンスターに殺されて欲しい
● こいつが今話題のチートアバターだったら危険
● チートアバターって、違法改造されたデータを使ってたアバターが突然狂うってやつだっけ??
● 解除できないでずっとそのままらしい。しかも、今のところ治す手段のないウイルスを感染させてくるらしい
● おいおい、素で狂ってる京太と比べたらチートアバターさんに失礼だろう
「かおると違いすぎるいつもの反応ありがとう、ご主人様」
● 京太がご主人様とかいうと鳥肌が立つ
● やめろw
● きっっっっっっっっっっっっっしょ
「ちなみに俺は一度もチートに手を出したことはない。一人だけで完結するオフラインならともかく、オンラインのゲームで使う奴は周囲に迷惑をかけているバカだ」
「さて、話を戻しましょう。今私たちが何をしているかというと――……! ばばんっ!」
● 他の奴らが映った
● おっさんとガキたちか?
● 戦略シミュレーションアバターと格ゲーアバター、それにバトロワアバターでござるな
「実はボスモンスターを倒して町を開放するための作戦に参加しているんです!」
● すっげ
● まじかよ
● ボスモンスターって国が挑んだけど傷一つ付けられずに逃げ帰ったやつだろ
● おれのところも支配されっぱなしで悔しいから応援する
● 推しが社会貢献して尊い
● 毎回すげぇ配信するな、このチャンネル。登録者数が爆増してるのもわかるわ
「えへへ。チャンネル登録者数も増えてきて、このままいけば来月には前代未聞の百万人記念ができるかもですね! おっと、ちなみにこの放送は配信許可を得てますのでご心配なく! ボスモンスターを倒して解放の暁にはニュースにもなるかもしれませんね! 目指せ地上波デビュー!」
● がんばえ~
● 新たな少年二人とおっさんよ、かおるちゃんには手を出すなよ
● 逆に可愛いピンクの格闘アバターちゃんにはてぇてぇをオナシャス!
「あ、もしかしてあたし呼ばれた? どもども、ピンキーだよ! 趣味は、道場をやっているから身体を動かすことかな!! もちろん格闘ゲームも好きだよ! あとは美味しい物を食べるのも好き! 他は格ゲーで勝利したときに煽――」
● あお……?
● 今、可愛い顔ですごいことを言いそうになった?
● ピンキーちゃんになら煽られてぇ~~~
「こほん。今のは忘れてね! えっと、このおじさんは渋沢玄司さん」
「どもども。引率役のおじさんで~す。僕ぁ妻子しか愛せない不器用な人間なので安心してね。麻衣、八角、見ってるぅ~? ぴすぴす」
● 渋沢玄司って、その界隈じゃ有名な実況者じゃん!
● 最高難度の〝超帝〟を難なくクリアして、人気絶頂の時に消えた伝説の動画配信者!
● 実質、その伝説の人物とかおるちゃんがコラボってことぉ!?
「……で、こっちの三人組はあたしのクラスメイトで~……って、あれ? どうしたの、三人とも? 元気ない?」
「あ、ごめんっす……」
「なんか移動で疲れたのかな……?」
「ちょっと休めば平気……。次の休憩地点までもうすぐだし……」
● 過酷な環境だなぁ
● モンスターと戦うって大変そう
● オレのブラック労働とどっちがきついんだろう
● 休んでもろて
●ZYX そいつらはチートアバターだ。今すぐ殺せ。もう手遅れだ! ためらうな殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!
「ご主人様、憶測で過激な発言をするのはダメですよ」
● たまげたなぁ
● 危ないご主人様
● はよブロック
● 通報した
● いや、よく見ろ。何か本当に様子が変だぞ?
「チッ、どうやらコメントを見ている場合じゃなさそうだな……」
京太も彼らの状態のおかしさに気が付いた。
三人組が苦しみだし、顔面を両手で覆ったり、地面に倒れて呻いたりしている。
「み、みんな!? どうしたの!?」
慌てて駆け寄ろうとするピンキーを、京太は手で制止した。
「普通じゃない。何か嫌な予感がする……」
三人組から黒い靄が出てきた。
何か細かいスパークが起こっていて、人の形をした雷雲のようにも見える。
なぜかその狂ったような表情だけは明確に見えていた。
「これは……本当にチートアバターっぽいかなぁ」
「渋沢さんまでそんなことを言うなんて!? 三人がチートなんて使ってるはずないもん! 友達だからわかるって!! 早く助けてあげないと!!」
京太としては桃瀬を信じてやりたいが、善人だからチートを使わないというのは理由にならない。
何か理由があれば善人だって悪行をするし、悪人だって善行をする。
ただそこにあるのは結果なのだ。
「かおる、落ち着くまで桃瀬を頼む」
「わ、わかりました」
力では桃瀬を抑え付けられないが、かおるを強引に引き剥がして怪我をさせるようなこともしないだろう。
それに一緒にいてやる相手というのは精神錯乱の時には重要だろう。
京太はやることがあるので、その役目はできない。
「渋沢、俺とあんたで、三人のチートアバターを対処する事になりそうだ」
「だねぇ……」
「チートアバターについて知っていることは?」
渋沢は三人に注意を払いながらも、苦笑しながら答えた。
「チートを使っていたアバターが狂っちまう。二度と戻らない。特殊な回復不可能な毒を使うケースも報告されている……ってくらいかねぇ」
「厄介だな」
相手の戦闘力は未知数。それに加えて攻撃が一発でも当てられるとアウトの可能性も考えなければならない。
そして、一番問題なのが――
「二度と戻らない……か……」
「対処法としては二パターン。情をかけて捕らえるか、ひと思いに殺してしまうか。どうしよっかねぇ……」
渋沢は相変わらず飄々としている。
倍以上違う年齢差のせいだろうか。
中身が十六歳の京太の心は揺らいでしまう。
MMO時代の思考で行くのなら、効率重視で殺してしまうのが一番だろう。
ずっと状態異常で操作不能な仲間などジャマなだけだ。
――しかし、これは現実だ。
殺人を――しかも幼なじみの友達を殺すことになる。
「京君! 止めて、京君!」
悲痛な桃瀬の叫びが聞こえた。
京太は思い知ることになる。
この変化した世界も慣れてきたとは思っていたが、それは正常性バイアスがかかった勘違いだったのだ。
この世界は異常だ。過酷だ。死を強いる世界だ。
「ウォォオオオオ!!」
チートアバターとなった三人は、バケモノのような叫び声を上げながら飛びかかってきた。