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灰色の竜の手がかり

 モンスターを倒す、倒す、倒す。

 それをかおるが撮って配信をする。

 ここ最近はそんな日々が続いている。


「京太、少し休憩しましょう。配信も中断してあります」

「ああ……」


 京太は仮想変身(アヴァタライズ)を解除して、プライベートダンジョンの硬い床に座り込んだ。

 かおるはVTuberスキルで覚えたインベントリ(小)――いわゆるマジックバッグ的な空間から水筒を取り出して、スポーツドリンクを入れてくれた。

 京太は無言で受け取り、一気に飲み干す。

 仮想変身(アヴァタライズ)していたときには感じなかった喉の渇きが、普通の人間にはきつかったのでありがたい。


「京太、お礼は?」

「あっ、ああ。ありがとう」

「どういたしまして。もっと人付き合いに慣れた方がいいですよ」

「大きなお世話だ……と言いたいが、配信では必要なんだろうな。善処する」

「まぁ! 驚きです! あの京太が素直に! 少し柔らかくなりましたか?」


 やたら大げさに驚くかおる。

 たぶんワザとやっているのだろう。

 彼女はすぐに笑顔を見せてきた。


「そういえば、アメミットを倒したときのドロップ。私がもらっちゃってよかったんですか?」

「ああ、俺は使わないし、まだダンジョンのドロップ品の販売ルートとかも持ってないしな」


 以前倒したアメミットからドロップしたアイテム。

 見た目はただの髪飾りに見えるが、かおるの力で鑑定をしてみたら特殊な力が備わっているのがわかった。


【対9㎜弾電磁障壁発生付属装置:小ダメージを無効にする。リキャストに24時間必要】


 やたら難解なネーミング的に、翻訳が必要な海外のSF系FPSのアイテムに見える。


「えへえへ、女の子に贈り物をするなんて京太も殊勝ですねぇ」


 京太的にはバリアを発生させる効果っぽかったので、防御力が低そうなかおるに渡しただけなのだが、それは言わないようにした。


「地道にチャンネルの登録者数も増えているし、ここのところ順調ですね!」

「ああ」


 配信中に京太アンチはまだそれなりにいるが、数字の伸びは維持している。

 企業にも所属していない新人VTuberとしては驚異的とも言える。

 このままいけばすぐに中堅どころへ躍り出ることが出来るだろう。


「順調……か」

「どうしたんですか、京太?」

「いや、何でもない。そろそろ休憩を終わりにしてライブ配信を再開しよう」

「りょうかーい」


 居心地の良いぬるま湯。

 そんな感覚を振り払うかのように立ち上がった。

 何も悪くないはずなのに、何か足りないような感覚。


(俺は……)


 ふと、懐かしい妹の顔が――表情の見えないグチャグチャな〝それ〟が頭によぎった。

 溢れ出てくる。

 耳鳴り、悪寒。

 強烈でいて、どす黒い感情。

 身体が動かなくなる。

 開ききった瞳孔を地面に向けて立ち止まっていると、かおるが慌てた様子で声をかけてくる。


「京太、なんか変な人からダイレクトメールが来ています。イタズラかなとも思ったんですが、一応――」


 死者たちの声のような幻聴がしていて、かおるの声はあまり聞き取れなかった。

 その〝たった一つの呪い言葉〟が出てくるまでは。


「灰色の竜のことだと言っています」

「灰色の……竜……」


 すべてにおいて優先すべきことを思い出した。

 京太は声を出さずに狂気的な眼で嗤った。




 ***




 相手とは、すぐにダイレクトメールでコンタクトを取ることができた。




●渋沢 初めまして。ボクの名前は渋沢玄司(しぶさわげんじ)。いやぁ、いま話題のかおるちゃんと、京太くんが話を聞いてくれるとは思わなかったよ


●京太 御託はいい、灰色の竜のことを教えろ


●渋沢 あらら、ボクのことは興味がない? まぁ、それくらいあの灰色の竜に入れ込んでるってことだろうねぇ。そういう気持ちわかるよぉ。突然、変革を起こした世界、そこで見つけてしまったとても荒々しくも目が離せないモノ


●京太 早くしろ


●渋沢 はいはい、目撃された場所の地図と、証拠の写真を送ったさ


 京太はすぐに情報を確認した。

 マップを見ると隣の県にある四角江(しかくえ)町で、未だにモンスターによって占領されている地域だ。

 写真には間違いなく、あの灰色の竜が映っている。

 望遠で撮ったのか画像が粗いが、間違いはないだろう。

 フェイク画像という可能性は――たぶんない。

 ネットで探しても灰色の竜の情報はなかったからだ。


●京太 情報提供、感謝する


●渋沢 ファンの一人としては、京太くんのお力になれたようでなによりだねぇ。それで京太くんは灰色の竜を倒す、もしくは捕獲したりしたいのかな?


●京太 奴の首を切り飛ばし、地面に臓物をまき散らす


●渋沢 あらら……過激だねぇ……。だけど、灰色の竜がいる場所は手強いモンスターが徘徊していて、とても危険なんだよねぇ


●京太 それくらいは……


●渋沢 それくらい倒すだけなら、ね? ボク、実は戦略シミュレーション系のアバターだからわかるんだけど、敵の数が多いと邪魔が入ったりして相手が逃げちゃうケースもあるよねぇ


 京太は黙ってしまった。

 まさに最初にそれで逃がしてしまったからだ。

 まるでこちらを見透かすかのような、飄々とした口調の渋沢玄司。

 話を聞く価値はあるかもしれない。


●京太 そちらの目的はなんだ? ただ俺に情報提供をしたかったわけでもないだろう


●渋沢 ご明察、MMOアバターさんは話が早くて助かる。そして、この提案の価値もわかってくれるだろう


 渋沢から、数百人規模のチャットグループへの誘いがあった。


●渋沢 ボクたちが発足した冒険者ギルドと組んで、モンスターから街を解放してみないかい?


●京太 冒険者ギルド……?

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『星渡りの傭兵は闘争を求める』
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