第1-5話 名声が身を助ける
魔力が一切存在していないという特異体質によって冒険者としての登録を断られてしまったレギアス。
本来魔力というのは誰にでも存在している。生まれたての赤子でも瀕死の老人でもそれは例外ではなく、魔力の無い人間と言うのはそも前例が存在していないのだ。そんな存在がいきなり告知なしに姿を現したのだ。足踏みしてしまうのは別に不思議なことではない。
正直、自分の体質を鑑みて断られるようなことを多少想定していたレギアスに動揺した素振りは無い。仕方がないことだと考えて集会場を離れようとする。
しかし、そんな組合の決定に異を唱える者がいた。
「ちょっと! こいつが登録できないってどういうことよ!」
後ろで見守っていたマリアが職員に対して怒声を上げた。集会場内に響き渡る声に思わずレギアスの足が止まる。
「魔力がないからってどうだって言うのよ! こいつはそこらのチンピラ染みた下級の冒険者なんか相手にならないくらいには強いのよ! 助けてもらった私が言うんだから間違いないわ! そんな奴を魔力がないからって登録しないってどういうことよ!」
集会場内の冒険者に指を走らせながらマリアは主張する。そのあまりの剣幕に受付嬢は動揺しながらも彼女の主張に異を唱える。
「も、申し訳ありませんが、魔力の無い方は前例がない上、組合カードの登録が出来ないのです! カードの登録が出来ない以上、身分の証明が出来ず冒険者としての証明が出来ないんです!」
「そんなのどうにかしなさいよ! 規則規則ってそれで金塊を逃がしたら世話ないじゃない!」
彼の処遇について言い争いを続ける二人。徐々にヒートアップしていくマリアだったが、これとは別に火花を飛ばしていた。
「おい、嬢ちゃん。俺たちがこいつより弱いって?」
彼女に遠回しにチンピラ扱いされて黙っていられなくなった一部の冒険者たちが彼女の肩を掴む。肩を握りつぶさんばかりの力で掴まれる彼女は痛みで顔を歪ませながらも、その手を振り払い男たちと向かい合う。
「そうよ! こいつは素手で野盗に何もさせずに瞬殺したのよ。あんたたち程度じゃとても到達できないレベルに纏まってた。目の前で見たんだから間違いないわよ!」
目の前にそびえる巨漢たちに怯むことなく言い返すマリア。だが、その程度で男たちが怯むはずもなく、青筋を立てた男の一人が彼女の胸元に手を伸ばす。
「このクソアマ、言わせておけば……」
「おい、止めとけって! その男確か……」
「ルセェ! ここまで言われて黙ってられるか!」
止めようとしている男の声を振り切り、詰め寄った男は胸倉を掴もうとする。もう片方の手は硬く握られており、いつそれが彼女に飛んでもおかしくない。
まさに一触即発の空気。何かのショックで弾ければ血しぶきが飛ぶ事態になってもおかしくなかった。誰もが次に起こる事態に備えている。
そんな張り詰めた空気の中に救いの手が差し伸べられた。混沌とした集会場内に響き渡るパンという乾いた音。それによってこの場が一気に秩序を取り戻す。
「ギ、ギルド長!」
「みんな落ち着きなさい。一体何があったというのですか」
集会場の奥から姿を現した礼服の中年男性を見て、その場の全員が冷静さを取り戻す。持ち上げていた男は思わずマリアを手離してしまい、尻から地面に落ちた彼女は小さく悲鳴を上げる。
集会場が秩序を取り戻したところで、ギルド長は状況を整理するために受付嬢から事の顛末を聞き出す。そうして事の詳細を簡潔に理解したギルド長はレギアスのもとに歩み寄ってくる。
一目でレギアスがタダ者ではないことを見抜いたギルド長。彼が騒動の中心であることを改めて理解した彼は心の帯を締め直し、応対を試みる。
キリっと気を引き締め直したギルド長。だったのだが、彼の意識は視界に映ったある存在に持っていかれてしまう。その瞬間、一瞬レギアスの存在が頭の中から消え、そちらに対応してしまう。
「ま、マリア様? 一体なぜこのようなところに……」
「ワーッ!!! ワーッ!!!!!」
近寄って来たギルド長の声を掻き消すように大声を上げたマリア。奇天烈な行動にその場の全員が理解不能を示していると彼女はギルド長に顔を近づけると小声で話し始めた。
「今はちょっと事情で家から離れてるから、ただのマリアとして接してちょうだい!」」
「しかし、そう言われましてももしものことがありましたら……」
「返事はハイだけよ! それ以外の返事は今すぐクビだからね!」
「か、かしこまりました!」
内緒話を終えた二人は顔を離し、距離を取る。彼女のことを一度脳内から消し去ったギルド長は改めてレギアスに向き直る。そして前置きとして咳ばらいを一回すると話し始める。
「さてレギアス様、出よろしかったでしょうか。事情は把握いたしました。しかし、申し訳ありませんが先ほど受付嬢から説明しました通り、当集会場では魔力の無い方の登録はご遠慮いただいておりまして……」
レギアスの目を見ながら丁寧に説明するギルド長。最初はマニュアル通りに対応していた彼であったが、途中から何か違和感を覚え始める。どこかで見覚えのある顔に引っかかった彼は改めて彼の書いた書類に目を通す。
「待てよ……。レギアス……? 青色の髪……?」
彼の中で湧き上がってくる疑念に心をざわつかせるギルド長。彼の行動に集会場はざわめき始め、独特の緊張感に包まれ始める。
書類とレギアスを交互に見たギルド長は、疑念を確信に変えるため目の前の彼に問いかける。
「つかぬことをお尋ねいたします。もしや闘技場の英雄、レギアス様でしたでしょうか!?」
「そうだ、といったらどうするんだ? 俺を登録でもしてくれるのか?」
ギルド長の言葉に遠回しに肯定して見せたレギアス。その瞬間、集会場のざわめきは一瞬にして爆発する。
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