第1-3話 振り切れなかった
少女に付きまとわれながらも、その後一日中走り続けレギアスはついについに目的地であるハイルデインに到着した。
「ふう、思いの他早く着いたな」
一日中走り続けたことで軽く疲れの溜まったレギアスは小さく息を吐く。まずは食い扶持を確保するための仕事を探して、その次は適当に人気のない場所を確保して身体を休めようか。それとも先に食事でもとろうか。初めての選択できるという感覚に微かに胸を躍らせながら彼は町に入るための列に並ぼうとする。
「ひい……、ひい……。ま、待ちなさい……」
そんな彼の足を止めたのは彼について追いかけてきた少女であった。一日中走り続けた彼のことを根性だけで追いかけてきた彼女は既に息絶え絶えであり、彼に手が届く距離まで近づいてくると倒れこみながら足を掴む。
「貴方……、どんな体力してるのよ……。一日中走り続けて疲れた素振り一つ見せないなんて……」
ぜえぜえと荒い呼吸を上げながらレギアスにへばりつく少女。レギアスを異常者扱い(実際以上ではあるが)している彼女だったが、そんな彼についてきた彼女も大概肝が据わっている。
そんな少女の手を無慈悲にも軽く払ったレギアスは彼女を冷めた目で見下ろしながら口を開く。
「で、お前は何をしに来たんだ?」
「昨日のッ……、ことッ、もうッ、忘れたのッ、かしら……? 感謝を受け取ってッ、もらうまでついていくってッ、言ったわよね……。だからッ、約束通りついてきたのよ……」
「ああ、そういえばそうだったな。ハイハイ、昨日はどういたしまして。ほらお前の感謝を受け取ったぞ。とっとと俺の前から消えろ」
呼吸を整えながら立ち上がった少女はレギアスにユラユラと身体を揺らしながら人差し指を突き出し彼の対応に対して不満をぶちまける。
「そんなッ、気持ちの籠ってない言葉でッ、私が納得するッ、わけないでしょ!」
「だったらどうすればいいんだ」
「そりゃあもちろん私に感謝されることを、生涯の宝として大切にすることね! 私からの直接の感謝なんてそう簡単に受け取れるものじゃないんだからね! 大体あそこであなたが私の前に現れたのもまさに運命。あなたに私を助けさせるため、天があなたを導いたと言っても過言ではないのよ! ……って聞いてるのかしらってちょっとー!?」
彼女の妄言など聞くに堪えなくなったレギアスは、彼女の存在自体を無視して列の最後尾につく。が、残念ながら話が終わる前に彼女の視界から消えることはなく、近づいてきた彼女は彼の後ろについた。
「ちょっと! 人の話は最後まで聞くものでしょ!?」
「そこら辺の老人の妄言に最後まで耳を貸さないし、聞いても真面目に聞かないだろ。あんな感じ」
「すっごい失礼! そこらの雑音と変わらないってこと?」
もうレギアスの言い分に慣れ始めているのか、先ほどまでの爆発するような怒りではなくぷりぷりとだいぶ可愛らしい怒り方になっている。いつまでも塩対応を崩そうとしないレギアスに対して文句を垂れ流している。
「そういえばあなた名前はなんていうのよ? 昨日からずっといるのに一回も教えてくれないじゃない」
「なんで赤の他人同然のお前に名前を教えにゃならんのじゃ。それに他人に名乗らせようってんならまずはテメエから名乗れ」
「そっか、それもそうね。私が名乗ればあんたも名乗るってわけね。だったら私から名乗らせてもらうわ。和足の名前はマリア、マリア・エ……、マリアよ。今後ともよろしく」
「あっそ」
意気揚々と名乗り上げたマリアと名乗る少女に対して相変わらず素っ気ない態度のレギアス。自分の名前を適当に流そうとするレギアスに対して彼女は再び怒りの炎を燃え上がらせる。
「ちょっと! こっちが名乗ったならあなたも名乗りなさいよ!」
「別に頼んでない。それにこっちが名乗るなんて言った覚えもないが」
「ムキー! ああ言えばこう言う! ほんと揚げ足取りね!!!!!」
彼の主張を聞き、地団太を踏み始めるマリア。本当にムキーなどと言う人間という未知との遭遇にレギアスが初めての感覚を覚えているとマリアがレギアスの耳を掴もうと手を伸ばしてくる。そんな彼女の手を叩いて阻止すると、彼は彼女にジロリと視線を向ける。
「何するつもりだ」
「耳でも引っ張れば名乗りたくなるんじゃないかと思ってね!」
「んなことしやがったら舌引っこ抜くからな。名乗れなくなったら名乗りを聞き返すこともなくなるだろうな。そしたら平和的解決だ」
「この上ないくらいには暴力的で血みどろよ!」
耳を掴もうとするマリアとそれを軽くいなすレギアス。二人の攻防は彼らの順番が来るまで続いた。周りの目も気にすることなくコントを続ける二人。意識しないうちに二人の足取りは進み、とうとう彼らの順番がやってきた。
とはいえ特に問題を起こすようなことはない。町に入るための税を少し払えばあとは簡単に入ることが出来る。二人揃って税を納めると颯爽と町に入っていくのだった。
そんな二人の背中を見送った町を守る衛兵。そのうちの一人の熱い視線がレギアスの背中に向けられていた。
件の衛兵が仲間のもとに近づいていくと、世間話の一環として話しかける。
「なあ、さっきの剣背負った男、どっかで見たことないか?」
「さぁ? 俺はどっちかって言うと女のほうが気になったけどな。なんかどこかで見たことある気がするんだよなぁ……」
「えー、絶対どこかで見たことあるって」
「いや、俺もあの女どこかでなァ……」
仕事の合間に雑談をする二人の衛兵。彼らの会話は上司に仕事をサボるなと怒られるまで続くのだった。
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