第1-2話 付き纏われる
野盗を一蹴し、街道を進み続けるレギアス。そんな彼の前に再び妨害者が現れる。
「待って!」
両手を広げて通せんぼをしているのは先ほど野盗に絡まれていた少女であった。どうやって先回りしたのかはとりあえず置いておくとして、彼女はレギアスが通るのを待っていたらしい。
「待って! ねえ待ってったら!!!」
だが、レギアスの足取りが緩むことはない。道を塞ぐ彼女のことなど見えていないかのように走り続け彼女の横をすり抜ける。
「ちょっと待ちなさいッ、よッ!?」
気にも留められず横をすり抜けられた少女はあっというまにご立腹。通り過ぎたレギアスに向けて拾った小石を投げつける。
だが、投げた小石は空を切る。レギアスに後ろを振り返ることもなく躱されてしまったのだ。
さすがに背後から攻撃されれば、その対処のため足を止めて振り返るしかない。振り返った彼は小さく声を上げる。
「……何か用か」
やっとこさ彼の足を止めることが出来た少女は小さくホッとしたように息を吐くと、レギアスのもとに歩み寄っていく。
「何よその言い草。さっき助けてもらったからお礼を言いに来たのに」
勝気な口調で言葉を紡いだ少女。彼女はレギアスに対して頭を下げる。同時に感謝の言葉を述べ、彼のその意思を伝える。
「さっきはどうもありがとう。おかげであんな奴らにやられなくてすんだわ」
頭を下げたまま感謝の言葉を述べ終わり、頭を上げる少女。しかし、彼女の視線の先にレギアスはいなかった。向かい合っていたはずの男がいないことに驚いた彼女が周囲を見回すと、彼は街道の先に歩みを進めていた。
「ちょ、ちょっと!」
少女は彼のことを慌てて追いかけ始める。回り込んでレギアスの道を塞いだ彼女は不満げな表情を浮かべながら声を漏らす。
「わざわざ助けたんだから私の礼くらい聞いてくれてもいいんじゃないの? そりゃお礼が差し出せるならそっちの方がいいけどそんな余裕はないし……」
お礼の一つも渡せないことに後ろめたさがあるのかもじもじとした態度で言葉を発する少女。しかし、そんな彼女の訴えを耳にしてもレギアスの行動が変わることなく彼は歩みを止めようとせず彼女の横をすり抜けて進もうとした。
さすがに穏便に事を終えたかった少女もこんなに素っ気ない態度を取られると気分が悪くなる。頭が沸騰しそうなほど熱くなり、感情のままに身体が動く。
「ちょっといい加減にしなさいよッ!」
声を荒げながら、すり抜けようとしているレギアスの肩を掴もうと手を伸ばす少女。しかし、彼女の手は空を切る。紙一重で回避したレギアスは彼女のほうを向くと、ふぅと息を吐くと呆れの言葉を漏らす。
「あれ、お前だったのか。別にお前を助けるためにやったわけじゃない。俺のことを邪魔したから蹴散らしただけだ。わかったら消えろ。次俺に攻撃なんかしたら次はお前の番だからな」
それだけを告げるとレギアスはスタスタと歩き始める。彼の告げたことは嘘偽りの無い本心からの言葉であり、事実その眼中に少女の姿はない。
だが、それを少女が納得するかはまた別問題である。自分勝手な言い分。それに存在すら認識していない傲慢さ。なんてわがままな男だろうか。心の底からそう感じた少女は体内で燻ぶっていた熱を維持したまま再び彼の前に回り込んだ。
「そんな納得できるわけないでしょ! 私が言うんだから礼の一つや二つくらい受け取りなさいよ!」
理不尽な物言いに対して、彼女も理不尽な物言いで対抗する。一体どこからその物言いの自信が出てくるのかと一瞬思うレギアスだが、別に真っ向から受け止める必要は無い。適当に聞き流してまた進めばいい。
そう考えて横をすり抜けようとする彼だったが、少女はそうはさせまいと後ずさりしながら彼の進路を塞ぐ。一瞬足が止まるレギアスだったが、再び横をすり抜けようとする。が、少女は再び彼の進路を遮った。
「なんなんだ貴様。一体何が気に食わない?」
「あんたがどういう気持ちでやったのかは知らないけど、人の感謝の気持ちくらい素直に受け取りなさいって言ってるのよ!」
「貴様の礼なんぞ受け取ったところで何の意味もないだろ。お前は自分にどれだけの価値を見出しているんだ?」
「当たり前でしょ! 私はこの国のッ、……ともかく人に感謝されたら受け取りなさいよ!」
怒りで髪を振り乱しながら怒声を上げ続ける少女。しかし、対面の男はピンと来ていないらしく、頭の上にハテナを浮かべている。
「覚悟しなさいよ……。あんたにありがとうって言わせるまで私の姿があんたの前から消えることは無いと思いなさい……」
「……もはや理解に値しないな」
彼女の強情さに呆れかえったレギアスは再び歩き始める。今度は脇をすり抜けようとせず、まっすぐに、一直線に進む。舐めているとしか考えられない彼の動きに少女は彼を捕まえようと跳びかかる。
次の瞬間、彼女の身体は宙を舞っていた。何が起こったのかわからないまま頭から落下した少女は痛みと衝撃で思考が止まり身体が動かなくなる。足首が痛むことから足を払われるなどの何かしらの攻撃を受けたことはわかったが、それ以外の何もかもが分からなかった。
だが、今重要なのは彼の動きを分析することではなく、彼についていくことだ。分析を二の次にした少女は痛みを堪えながら身体を起こし、レギアスを探す。街道を走る彼は既に少女がすぐには追いつけないところまで行ってしまっている。このまま放っておけばいずれ見失うだろう。
「やってくれるじゃない……。絶対に逃がさないんだから……」
走り去ろうとする彼の背中に頬を引くつかせた笑みを浮かべた少女は、跳ね起きると同時に彼の背中を追って走り始めるのだった。
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