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第1-10話 冒険者としての始まり


「随分調子よさそうじゃない。よく眠れたかしら?」


「うるせえ、いつもこんな感じだ」


 翌日、朝になって二人は再び顔を合わせた。明らかに昨日よりも顔色が良くなっているレギアスを見てマリアはニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。


「それはそれとしてなんだか頭が痛いのよね。あんた何か知らない?」


「知らねえ。寝てる間にぶつけたんだろ」


 すぐに宿を後にしたレギアスが向かうのはもちろん冒険者組合の集会場である。冒険者という職業の都合上、朝早くから賑わいを見せており、払いのいい仕事を得るために冒険者たちでひしめき合っていた。


 しかし、レギアスが集会場に足を踏み入れたその時、その騒がしさが一瞬止まる。昨日の件が噂になっており、昨日の模擬戦を見た者たちはレギアスにまるで少年のようなキラキラとした、尊敬の眼差しを向けていた。


「あれが闘技場の……」


「ああ、昨日の模擬戦はすごかったぜ……」


 ひそひそと彼のことを噂する声が周囲に響く。


「貴方、ずいぶん有名になったじゃない?」


「ほっとけ。あんなの言われ慣れてる」


「あら、ずいぶん自分の腕に自信あるみたいね」


「当たり前だ」


 軽く会話を交わしながら歩く二人。レギアスが集会場に入って少しするとゾルダーグが姿を見せ、レギアスのことを出迎えた。


「お待ちしておりましたレギアス様。こちらの方へお願いいたします」


 早速レギアスを昨日と同じ部屋に案内するゾルダーグ。彼の誘導に従い同じ部屋に来たレギアスたち()()


 部屋に入って椅子に座ったところでレギアスが異変に気付き、自分の隣に意識を向ける。


「おい、なんでお前までついてきてる」


「別に聞かれて困るものでもないでしょ。だったら別にいいじゃない」


 レギアスが視線をゾルダーグに向けると彼は少し困ったような表情を浮かべながら答えた。


「いや、今からする説明は冒険者全てにするものですので問題自体は無いのですが……」


 そう説明する彼に対してマリアがなぜか睨みを聞かせており、ゾルダーグも何か言いづらそうにしている。が、彼の説明は事実のみを羅列したものであり、別に彼女が睨みを聞かせていなかったとしても同じ答えが返ってくる。


 フフンと勝ち誇ったような笑みを浮かべるマリア。だが、彼女が理詰めで勝利したところでレギアスとってみれば関係のない話。実力行使に出てしまえば彼女の抵抗など塵と化す。


 子犬を捕まえるかのように彼女の首根っこを掴んで持ち上げた彼はそのまま部屋の外に運び出した。そして扉を閉めると適当な楔を打ち込んで外側から開けられないようにする。


 マリアを締め出して椅子に腰かけ直したレギアス。直後、二人のいる部屋の中に乱暴に扉を叩く音が連続して鳴り響き始めた。


「ちょっとッ! 入れなさいよ! 開かないし! どんだけ私に聞かせたくないわけ!?」


 締め出されたことを理解した彼女は抗議の声を上げながら部屋に入れるように要求する。駄々をこねる子供のような振る舞いを取る彼女に呆れながら様子を窺っていた二人だったが、しばらくすると諦めたらしく扉の叩かれる音が止み、部屋には静寂が戻る。


 これでようやく話の出来る環境が取り戻された。


「……ではご説明をば」


 レギアスから早く説明しろと言う視線を向けられたゾルダーグは戸惑いながらも説明を始める。


「昨日の模擬戦にてあなたの実力は理解しました。組合としてあなたを冒険者として正式に登録させていただきます」


 ここで正式にレギアスが冒険者として登録されることが決定する。


「それにつきましてこちらの登録した冒険者の方々全員に配っております、冒険者カードでございます。本来であれば血を垂らし、そこに込められた魔力で登録し個人を判別するのですが……、レギアス様は魔力がないとのことですので、魔力無しのカードをレギアス様の物として判別するという方針で決定させていただきました」


「模様の入った金色……、階級か?」


 レギアスが渡されたカードの色を見て呟くとゾルダーグがそれに関しての説明を始める。


「おっしゃる通りでございます。冒険者の階級は下から(アイアン)(スチール)(カッパー)(シルバー)(ゴールド)白金(プラチナ)・ミスリル・アダマンタイト・オリハルコン・ヒヒイロカネの十段階に分かれております。ちなみに私の娘のアルキュスはオリハルコンに位置しております」


 コホンと小さく咳ばらいをし、話を切り替えたゾルダーグは続けてレギアスのランクを告げる。


「昨日の模擬戦の結果、あなた様に最下位のランクから始めさせるのは惜しいと判断し、アルキュスと同じオリハルコンのランクからスタートしていただくことにしました。最上位のヒヒイロカネから初めてもよかったのですが、冒険者として活動するのが初めての事ですので一段階下げたところからにさせていただきました。何卒ご理解くださいますよう」


「登録さえしてくれれば文句はない。これで話は終わりか?」


「はい、何かございましたら受付嬢まで問い合わせていただきましたら解答させていただきます故」


 こうして二人の会話は終わり、レギアスは冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。




 ここまでお読みいただきありがとうございました!


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