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第86話 五十嵐琢磨 視点2

 それは五十嵐琢磨が炎上系ユーツーバーの手伝いをしようと、夜の森を歩いていた時だった。

 そこで「キラキラ光る怪獣」を見たという情報を聞いて、ユーツーバーと共にそれを急接近で実況しようとしていたのである。


 目的は怪獣を間近で見る事で、自分が特生対に相応しい人物だと証明する為。


 ある女子や陰キャに、自分は特生対に相応しくないと言われてブチ切れたものの、その陰キャに何故か返り討ちにされてしまうという憂き目に遭ってしまった。

 

 今となっては、陰キャの事は単なる気のせい。

 アイツにそんな力なんてある訳がない……そう琢磨は思っていた。


 こういう事を世間では「現実逃避」と言うのだが、プライドと自惚れが強い琢磨にそんな文字はなかった。


 そうして怪獣を探索していた彼だが、突如として同行中のユーツーバーが殺害されてしまったのだ。

  

 犯人は目を凝らさないと見えないくらいの、透明な結晶に覆われた怪獣。

 夜である事を相まって、接近された事に気付くのを遅れてしまったのだ。


 恐怖に怯えながら逃げ惑う琢磨。

 しかしついにはカメラマンも殺されてしまい、自分1人だけになってしまった。


「嫌だ……死にたくない……俺はまだ誰ともヤれてないし、防衛班にも入っていないのに……!! こんなんで……死にたく……死にたくないよぉ!!」


 結晶怪獣に追い詰められてしまい、腰を抜かした琢磨は死の恐怖に怯えていた。

 

 怪獣が殺意をもって襲いかかってくる姿に、彼自身どうする事も出来ない。

 出来るのはただただ叫ぶ事だけだった。


 ――オオオオオオン!!


「う、うわああああああああ!!」


 結晶怪獣の爪が振りかぶられる。

 もう駄目かと思った時……、




 結晶怪獣の()()()()()()()()()()()


「……ハァ……ハァ……ハァ……えっ?」


 上半身と下半身に分かれながら倒れる結晶怪獣。


 その死骸を見て、琢磨は呆けてしまった。

 何故、怪獣の方が死んだのか分からなかったからだ。


 ただやがて、自分の右腕に違和感を感じる。

 琢磨がおもむろに見下ろすと、とんでもないものが目に映った。


「……何だよこれ……」


 その右腕が、鉤爪を備えた異形のものになっていた。

 

 それはそう、怪獣のものとしか言いようがない。

 唖然とする琢磨だが、何故か驚愕や混乱は全くしなかった。


「…………」


 そして自分の前に転がっている結晶怪獣の死骸。

 

 この時、彼は無性にそれが食べたくなったのだ。

 怪獣の力を取り込め……そう誰かに言われたような気がしたのである。


 彼はふらりと結晶怪獣へと向かい、躊躇なくその身体をかじった。

 

 ――ガリ……ゴリゴリ……。


「マジい……固い……」


 結晶をかじっているにも関わらず、歯が折れるという事はなかった。

 それどころか、強固な結晶を削る事が出来たのである。

 

 当然味なんてある訳もなく、見た目通りの食感だ。


 しかし琢磨はやめる気はなく、一心不乱に喰い漁る。

 結果として怪獣の死骸は3分の1ほどになり、バラバラの無残な状態へとなり果てた。


「ゴホッ、ゴホッ!! ……ハハッ……何だよこれ……力が湧いてくる……俺強くなってんじゃん……」


 琢磨は自分に力が湧いてくるのを感じた。

 自分が()()になっていくのに対し、歓喜の震えが止まらなかった。


「これなら大都達を見返してやれる!! いや、特生対も褒めてくれる!! 俺は最強なんだぁ!!」

 

 全身を異形の姿に変えながら、琢磨は森の中で高らかに笑った。

 自分が異常なんだとこれっぽっちも思わずに。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あれから数日後の夜。

 琢磨は池上茂の家に出向き、彼の父親から特生対の秘密を聞かされた。


 それからある事を思いつき、こうして地元の小さい公園にいる。


 ちなみに彼は結晶怪獣の襲撃後、匂いを頼りに自力で帰還したのだ。

 その時、自分はこんな力があったのかと内心驚いてはいた。


 今、琢磨はこの公園である集団を待っている。

 なかなか来ないので足をしきりに揺らしていると、


「五十嵐! お前、学校に来ないからどうしたんだと思ったよ!」


「何で俺達を集めたんだ? こんな遅くに?」


 数十人の男性達が琢磨の元にやって来た。


 それは自分の取り巻きやサッカー部の先輩達。


 実は茂の家でスマホを充電して、ここに集合するよう連絡したのだ。

 彼らが来る前、口元に付いた怪獣の体液を洗ったので、特に怪しまれていないはず。


 さすがに服の汚れは隠しきれなかったが。


「ていうかお前、服汚れてるじゃん。何で着替え直さないんだ?」


「ああ、ちょっとな。それよりも皆、俺の前に集まってくれ。良い事があるからさ」


「良い事?」


 取り巻きや先輩達がお互い顔を見合わせたものの、琢磨に言われた通り集まっていった。

 ここで琢磨は、右腕だけを異形へと変化させる。


「……へっ?」


 1人が琢磨の右腕を見た。

 それから他の者も次々と気付き、後ろへと下がってしまう。


「お、お前……」


「心配するな。すぐに済むから」


 怯える仲間達を安心させるように、琢磨は笑みを作る。

 その直後に右腕を掲げて、青白いエネルギーを放った。


「う、うわあああああ!!?」


 全員が逃げ出そうとしたものの、もれなく青白いエネルギーの網にかかった。

 エネルギーが彼らの胸へと入り込んでいくと、次々と倒れてもがき苦しむ。


 皆、腹を抱えながら白目を剝き、声にならない悲鳴を上げていた。


「アガアア!? ガア!!」


「ゴオ!! ゴォ!!」


「グウウウ!!」

 

 痙攣しながら苦しむ仲間達を、琢磨が冷徹な目で見下ろす。

 しばらく悲鳴が収まっていくと、仲間達が何事もなかったように立ち上がっていった。


「何だよこれ……すげぇ気持ちいいな……」


「なんかこう、強くなった気がした……」


「すげぇよ五十嵐! 何をしたんだ!?」


 何でこうなったのかは、琢磨には分かっている。


 仲間達にエネルギーを分け与え、そのエネルギーを経由して自分の意思を植え付けたのだ。

 いわば洗脳のようなものであり、彼らが違和感や恐怖を抱かないのはその為である。


 そして彼らを呼んだのは、自分の言いなりに出来る軍団を作る為。


「なに、ちょっとしたもんだ。それよりも、今日からお前らは俺の為に働け。俺の目的を達成させる為には、どうしても軍団が必要だからな」


「ああ!! お前の頼みなら聞くよ!!」


「何でも言ってくれ!!」


「五十嵐!!」


「五十嵐!!」


「五十嵐!!!」


 取り巻きや先輩達が琢磨へと服従する。

 例え自分達の姿が人間から怪物、怪物から人間へと交互に変わっても、それを気にする素振りを見せない。


 むしろこうして褒め称えてくれているのが、琢磨にとっての喜びとなっていた。


(これだけいればアイツなんて……。必ず八つ裂きにして、俺がヒーローになってやる……!!)


 心の中で、琢磨は勝利を疑わなかった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第7章開始です。

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[良い点] 前もそうだけど意外と考えて行動はできてるのね五十嵐君 ただアジダハーカ以上になれるか否か [一言] 逆に言えば考える頭あっても、やる事がこれか
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