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第7話 怪獣殺しの体育

 高知県のアンフィスバエナのように、人間の街を襲撃する怪獣は後を絶たない。


 理由は様々なのだが、一番多いのが「縄張りを広げる」為だろう。

 そういう意味では、食べ物を求めて山を下る熊とあまり大差はない。


 ただ熊とは違うのは、怪獣には街を破壊できるほどの力を持っている事と、兵器に耐えられるほどの生命力を持っている事。


 そうした生きる災害に、古来から人々は畏怖の念を抱いていた。

 中には『荒ぶる神々』だと崇めていた者もいたのとか。


 そんな畏怖すべき怪獣を倒すのが、対怪獣部隊である特生対。


 まさに彼らは現代の英雄であり戦士。

 五十嵐君みたく、彼らに憧れる人は結構増えているのだ。


 そのアンフィスバエナが倒されてから2週間後。


 僕達のクラスは今、外で体育をしている。

 今回はここで長距離マラソンをやるというので、それを聞いた途端に生徒達からブーイングの嵐が。


「文句言わんでいい! とりあえず準備体操をした後、2人組になって『背中合わせ』をしてくれ」


 背中合わせとは両者の背中を合わせてから腕を組み、エビ反りになるというものだ。

 準備体操が終わった後、その背中合わせが始まろうとするが……なかなか僕を誘ってくる人はいない。


「何だ大都? ペアがいないのか?」


「ええまぁ。でも大丈夫です、先生でもいいので」


「いや身長的に生徒の方がいいだろう。おい、大都と組む人はいないのか?」


 男子の数は奇数になっている。 

 その場合は、特例として3人組になってもいい事になっていた。


 要するに僕が組めないのはそういう事。

 現に男子達が僕に対してよそよそしくなっている。


「いやぁ、クラスにハブられるとか可哀そうな奴だなぁ」


「せっかくだから五十嵐、組んでみたら?」


「いやぁ無理だわ。生理的に無理っていうか」


 この通り五十嵐君達には言われ放題だ。


「いいですよ先生。別に気にしていないので」


「そうか、じゃあ先生と……」


「よかったら俺とやろうよ」


 意外な人物が名乗り出た。

 クラスのイケメン、池上茂(いけがみしげる)君だ。


 容姿端麗、成績優秀のまさに完璧超人。あの五十嵐と双璧を成すとかなんとか。

 確かお父さんは特生対の上層部だったかな。いわゆる金持ちのお坊ちゃまだ。


「いいかな、大都?」


「まぁ、いいけど……」


「すまんな池上。じゃあ始めてくれ」


 先生に言われて、僕達は背中合わせを始めた。


 前々から思っていたけど、彼はやっぱり身体を鍛えているらしい。

 こうやって一緒にストレッチしていると、身体の固さとかよく分かる。


「ありがとう、池上君」


「いやなに、困った時はお互い様だろ」


 背中合わせを終わらせてから、僕のところから離れる池上君。


 まさか彼から名乗り出るなんてね。

 彼も他生徒みたく、僕には無関心のスタイルでいるのだ。


「池上君、ぼっちの奴にも優しくしてカッコイイ……」


「うん、やっぱイケメン……推しだわ……」


 するとどういう事か、女子達が色めき立っていた。

 さらに男子達からも声がする。


「池上、大都を利用して自分の株を上げたみたいだな」


「実際は分からないけど……まぁあり得るよな。かなり上手いよ」


 ……なるほど、どうも僕は引き立て役にされたようだ。

 もしかしたら実際に僕の事が放っておけなかっただけかもしれないが、男子が言っていた事よりも信憑性が低い。


 僕は言わばクラスのおもちゃのような存在。良くも悪くも。

 ある意味では、自分を切り札とか思っている特生対上層部とは真逆だ。


「よぉし、それじゃあ長距離マラソンを始めるぞー。全員、持ち場に付けー」


 先生の指示に、僕や生徒達がコースへと向かっていった。

 

 ――その時、地面が少し揺れた事に僕は気付く。


「うお、地震?」


「うわ、マジか」


 場にいる全員がどよめき始めた。

 地鳴りが起こったのだ。


 一応立っていられないというレベルではなく、やや揺れが感じられるといったくらいだ。

 だからか生徒達はあまり動揺していない。揺れに慣れている日本人らしい。


 やがて地震が徐々に収まる。

 先生は周囲を見渡しながら生徒達に伝えた。


「よくある揺れだったな。余震には気を付けろよ」


「はーい」


 何人かが返事をした後、何事もなかったようにマラソンの準備を始める。

 ただこの中で、僕は嫌な予感を覚えていた。

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