第52話 怪獣殺しの外回り
「大都さん、いくら何でも出動するの早くないでしょうか?」
「別に大丈夫だよ。飛行機の中でぐっすり寝たし、まだ10時だし」
「そういう問題では……いや、大都さんがいいならいいですけど……」
僕達は国防長官に依頼を託された後、軍用ヘリで目的地に向かっていた。
今回は大勢の怪獣を相手する為、その場の怪獣を倒したら移動、次の怪獣を倒したら移動といったルーチンを行うつもりだ。
まぁ、要は距離のかかる外回りみたいなものだ。
「にしてもこのような鉄の巨大虫を操るなんて、今の人間すごいです!!」
「すごいすごいっていうけど、人間に変身できる君の方がすごいからね。ともかく昼前には終わらせてご飯食べようか」
「おお、ご飯! でしたらこの間食べた『こんびにべんとう』が欲しいです!」
「いや、それよりも美味しいものがあるはずだから。楽しみにしてくれると嬉しいな」
「そうなのですか! そこまで教えて下さるなんて、一樹様はお優しい方です!」
ヒメが僕の隣に寄り添った。
懐きやすい性格なのかな。
それとこの子、ひんやり冷たい。
人間なら冷え性どころじゃないけど、そこはやっぱり怪獣なんだなと再認識させられる。
「こんなにも一樹様はお優しいのに、どうしてあのような無粋な輩が出るんでしょうかね? 理解できないです!」
「ヒメさん……その話は終わりにしましょう。ところで大都さん、いつ国防長官とお知り合いになったのですか?」
まだ引きずっているらしい雨宮さんが委縮してしまった。
ただすぐに話題変えの為か、僕にそんな事を振ってくる。
「僕が中学生の頃、国防長官が視察の為に日本に来た事があるんだ。その際に僕の事を知って、それでアメリカの怪獣間引きを任されてから交流が出来たんだ」
「なるほど……。あっ、少し失礼」
ヘリの操縦士が英語で言っているようなので、雨宮さんが通訳をしてくれた。
「もうすぐポイントに到着するとの事です。最初は『コカトリス』と『バジリスク』、未だ殺し合いをしている2体の怪獣です」
「となるとタブレットで見た怪獣達かな」
「……ええ、操縦士がそう言っています。っと、見えてきました」
雨宮さんが窓を見て呟いたので、僕やヒメも同じようにする。
かなり遠くにある森を2体の怪獣が走っていた。
いや正確には、1体目を2体目が追いかけまわしているというのが正しいか。
まず必死に逃げているのは、爬虫類の鱗をした恐鳥類型怪獣。
あれが『コカトリス』。
そしてコカトリスを追い回しているのが、腕の長く斧のようなトサカを生やしたTレックス型怪獣。
そちらが『バジリスク』だろう。
どちらも周りの森林からして、20メートルほどはある。
奴らが走るたび、粉塵が舞ったり足元の樹木がなぎ倒したりしていた。
「ああして互いに殺し合っているのですが、着々と人里に迫っているようです。なのでここで……えっ?」
雨宮さんが説明している間、僕はドアを開け、右手を奴らに向けた。
さすがに距離は遠いので、片目をつむって照準を合わせつつ、
「≪龍神の劫火≫」
赤いエネルギーの矢を発射。
それがコカトリスの頭部、バジリスクの胴体を2枚抜きした後、両者が盛大に横転した。
コカトリスは即死したが、バジリスクの方は震えながらも立ち上がろうとしている。
すぐに血反吐を吐いて力尽きたけど。
「よし」
「いや大都さん、よしじゃなくて!? そんな息するように2体とも瞬殺するなんて……!!」
「雨宮様の言う通りですよ一樹様! せめてわたくしにも獲物をよこして下さい!」
「そういう問題じゃないですよ!?」
何か雨宮さん、アメリカに来てからテンション高くなってない?
初めての渡米で舞い上がっている?
「そうは言っても早めに仕事終わらせたいし、そもそもアイツらは大怪獣じゃない雑魚なんだから、時間かける必要ないというか」
「存在するだけで周囲に影響を与える怪獣を、雑魚と呼ぶのはあなただけのような……操縦士の方も驚いてますよ」
「Oh……Jesus……」
確かに「なんてこった」とは口にしているな。
もっとも今までそう言われてきたから、いちいち気にしてたらやってられないというのが本音だ。
「とにかく次の怪獣に向かおうか。お願い出来る?」
「……分かり……ました」
最初のポイントが片付いたところで、次の場所へと向かった。
続いては岩場だらけの荒野。
そこには同じ姿をした怪獣が3体いて、地響きを上げながら一斉行進していた。
青い体毛をした牛といった姿形。
頭部は白骨化したみたいに硬質化していて、歯も剥き出しになっている。
髑髏らしくぽっかり空いた瞳孔には、黄色い瞳が光っているようだ。
「次は『カトブレパス』です。口から石膏の性質を持つ体液を出して、相手を石化させる事が出来るそうです」
「ほほぉ、それは珍しい能力を持っていますね。しかしこのトヨタマヒメ、そのような事では怯みもしません!!」
「随分、自信満々だね」
「当たり前です! わたくしにはお館様お墨付きの水の力がありますので! 色んな技が出せますよ!」
やっぱり彼女、水属性だったか。
と、彼女が不意にヘリから飛び降りる。
そのまま落下……という訳にはいかず、一瞬にして水龍型怪獣へと変身を遂げた。
これには操縦士も唖然顔だ。
『さぁ、こっちです!!』
わざとカトブレパス達の前を通るヒメ。
敵が現れた事に対し、奴らが口からセメントのような液体を吐き出した。
ヒメが舞うように回避すると、液体が地面に付着してパキパキと硬化する。
なるほど、確かに当たれば石化は免れない。
――ブオオオオオオオオオンン!!
1体がヒメへと突進を始める。
対してヒメが口を開けると、そこから巨大な泡が無数出てきた。
『≪泡沫≫!!』
その泡がカトブレパスに付着すると、何と体表を抉るように破裂。
――ブオオオオ!!!?
筋肉が見えたり、果ては顔の半分が抉られたりなど、見た目の優雅さから想像付かない威力だ。
そのまま技を喰らった個体は、地響きを上げながら地へと伏せてしまった。
『さぁ、あなた達にも! ≪泡沫≫!!』
残りの2体も向かったものの、そこに無数の泡を放つヒメ。
――パン!! パンパンパン!!
破裂するたび、カトブレパスの身体が抉られる。
頭部や足など重要な部位もやられてしまい、やがて1体も残らず息絶えてしまう。
数秒もかからずに全滅したのだ。
「……すごい」
「ああ……全く」
僕は雨宮さんへとうなずく。
まさかこれほどの戦闘力があるとは思ってみなかった。
さすがはお爺さんの従者といったところか。
怪獣達を殲滅したヒメは浮遊しながらヘリに戻り、僕達の前で人間体に戻った。
「どうです一樹様、雨宮様!! わたくしの能力すごいでしょう!?」
「うん……すごいな、いや本当に」
「ふふん、では撫でて下さい」
「えっ? 撫でる?」
「はい。お館様はわたくしが成功するたび、いつもよしよしと頭を撫でてくれました! ぜひともそうして下されば!」
「じゃ、じゃあ……」
撫でるのは絵麻のおかげで慣れているからなぁ。
おそるおそるやってみると、蕩けた顔をするヒメ。
「ふにゃあ~、ありがとうございま~す」
「どうも……って雨宮さん、何でジト目をしているの?」
「……いえ、もし絵麻さんと森塚さんがいたらやばかったなぁっと」
「2人が?」
そういえばカルキノス戦の際、僕が雨宮さんを抱いていたら絵麻が睨んでいたけど……それと関係あったりする?
少し考えたところ、またもや操縦士が英語で言ってきた。
雨宮さんがそれを聞いた後、僕達に通訳してくれる。
「国防長官からの指示です。付近のゴーストタウンで、怪獣と交戦中の部隊が全滅寸前だと……至急向かってほしいとの事です」