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第26話 怪獣殺しとお爺さん

 昼休み。


 教室で絵麻の作った弁当を食べていると、スマホにラインが届いた。


《雨宮さん:昼食が終わりましたら、屋上の扉近くまで来て下さい。クラーケンの話もしたいので》


 雨宮さんの方を見ると、彼女が僕をチラ見してから出て行った。


 まだ弁当は平らげていない。

 彼女を待たせないよう早く食べなければ。




 無事に弁当を完食した僕は、すぐに屋上へと向かっていった。

 

 学校の屋上というと常に開放状態なんてイメージが持たれるけど、さすがにこの白神高校だとそんな事はない。


 わざわざ開いてもいない屋上に来る人もいないので、必然と人の気配がなくなる。

 話すにはもってこいの場所だ。


「待ってました、大都さん」


「どうも」


 屋上の扉付近に、雨宮さんが立っていた。


「クラーケンの件はお疲れ様です。あなたの活躍で海底油田が守られた事、私も誇りに思っています」


「いや、そんな大げさな」


「一応戦闘の方も見ましたが……まぁ、すごかったですね。怪獣を睨みだけで退けるなんて聞いた事すらない……」


「あれね……個体差もあるから上手くいくかなって思ったんだけどね。失敗したら別の方法を編み出すしかなかったよ」


「具体的にどんな?」


「原油に引火しないよう、クラーケンの脳天をやるとか」


「……そっちもそっちで恐ろしいんですが」


 引きつった顔をする雨宮さん。

 気持ちは分からなくもない。


「話を戻しましょうか。あの戦闘の後、特生対が沈んだクラーケンを回収いたしました。死骸を放置すれば腐敗し、体内の原油が流れ出る恐れがあったからです」


「あっ、ちゃんと回収できたんだ。それはよかった」

 

「海中でしたので回収が大変だったと、上層部が愚痴っていたらしいですが。それから大怪獣の死骸を引き取りたいという大手研究機関が出ましたので、サンプルを切り取ってから取引するとの事です」


「そうなったか。まぁ、負傷個所の少ない死骸だから当たり前か」


 怪獣の死骸は研究用の他に、諸々の取引材料にもなれる。

 それで得た資金で特生対を回していける事から、怪獣という存在自体が貴重で高価な資源だという事が分かるはず。


 それよりもやっぱり上層部が不満を抱いてきたか。海中に沈んだ事に対して。

 僕としては上層部(年寄り)の為にやっている訳じゃないので、どうでもいい事なのだが。


「それともう1つ……」


 淡々と話していた雨宮さんが、急にしおらしくなった。


「あなた方兄妹の力の秘密、昨日神木さんに見せられまして……」


「……そっか。という事は会ったんだね、彼に」


「はい。それでバハムートの子孫の中で、強く先祖返りを起こしてしまったのがあなた方という事、それで両親にも見放されたという事も聞きました」


 そりゃあ動揺はするよね。

 

 そう、僕と絵麻は普通の人間じゃない。

 怪獣の頂点に君臨していた龍神――バハムートと人間の混血児の子孫なのだ。


 もちろん僕達兄妹以外にもバハムートの子孫はいるらしい。

 ただそんな中で、力を得ているのは僕達だけだ。


 原因についてもっとも有力なのが、かなり稀な『先祖返り』。

 その影響で、バハムートの力を再現した異能を手にする事が出来た。


 なので「大怪獣を倒せるほどの力を持っている」というより、「最強の怪獣であるバハムートの力を持っている」と言った方が正しい。


「何で両親がいないのかと思ってましたが……もっと早くに気付くべきでした。すみません」


「いいよ。もう昔の話だし」


 バハムートの正当な子孫でもある僕達は、言うなれば「人間でありながら怪獣。怪獣でありながら人間」という(いびつ)な存在だ。


 それに気付いた両親は僕達を恐れ、やがて育児放棄をしてしまった。

 今彼らがどうなっているのかは知らないし、知ろうとも思わない。


 おかげで兄妹そろって強かさが備わったのだから、ある意味プラスなのかもしれない。


「僕の事、怖くなったでしょ?」


 少し自嘲気味に雨宮さんに尋ねた。


 彼女は伏せていた目をまっすぐ上げて、僕を見つめてきた。

 そして首を振る。


「いえ、あなた方の事はもう慣れました。それに納得できた事もありまして」


「納得?」


「言ってもいいですか?」


「別にいいけど」


「では……あなた方兄妹の目が時折怖く感じる事があるんです。あれって怪獣由来なんですね」


 えっ、絵麻はともかく僕そんなに怖かった?

 これは失念。今後は気を付けておくか。


「それと何故、バハムートは人間との間に子供を産んだのでしょうか? それが私には分からないのです」


「もしかして未央奈さんから聞いていない?」


「ええ、その辺は大都さんに聞けば分かると神木さんが……」


 なるほどね。

 いかにも未央奈さんらしい裁量だ。


「……お爺さんはね、人間を愛していたんだ」


「お爺さん? バハムートの事ですか?」


「うん、僕のご先祖様だから」


 僕は分かる範囲でお爺さん……バハムートの事を話した。


 バハムートは怪獣でありながら人間を愛していた。


 彼が日本で暴れ回る怪獣を倒していったのも、ひとえに人間を守る為。

 そうしていく中である女性を目にし、恋に落ちたという。


 その女性と愛を深めて、やがて子供を産んだバハムート。

 子供は僕と同じように力を持っていて、バハムートの手助けをしていたらしいけど、やがて代を重ねる事で力を失ってしまった。


 同時に、自分がバハムートの子孫だという事に気付かない人が多くなったんだと思う。

 力を得るまで気付かなかった僕達がいい典型例だ。


「そういう事だったんですか……」


「僕としては人間を守るとか興味ないんだけど、この力を授かったんならお爺さんの期待に応えようって思ってさ。お爺さんも絵麻と未央奈さんのように、僕の数少ない家族だから」


「まるでバハムートが生きているかのような言い方ですね」


「えっ、……ああなるほどね」


「?」


 未央奈さん、その事言ってなかったんだな。

 まぁ、隠し事している訳じゃないから、それは追々明かしておくか。


「そもそも人間との間に子供を産んだって……どうやってなんですかね?」


「そりゃあ、お爺さんが人間の姿に変身したからだよ。そのままは無理だろうさ」


「……さらりと、とんでもない事を言いましたね」


「あれ、ごく一部の怪獣は人間に変身できるって勉強しなかった? 怪獣マニアの間では割とポピュラーなんだけど」


「もちろん知ってますが、まだそういうのは半信半疑でして……」


 雨宮さん、自分の目で見ないと信じないタイプだな。


 確かに人間に変身できる怪獣なんて、未だ伝承の中でしか存在していないからな。

 自分は見たとか証言は聞いてはいるものの、僕自身はまだ確認はとれていない。


 特生対もお爺さん以外で、そういった個体と遭遇した事はないらしい。


「えっと、これで話は終わりかな?」


「まぁそうですね。ただ1つだけ言わせて下さい」


「ん?」


「私はあなた方の秘密を知って、後戻りが出来なくなりました。ただ同時に私は特生対諜報班として、あなたに貢献しなければならないと覚悟が出来ました」


 雨宮さんは真面目な表情をして、僕に頭を下げた。


「こんな私ですが、今後ともよろしくお願いします」


「……うん、こちらこそ」


 そこまでかしこまらなくてもいいのに。

 本当に真面目なんだな、雨宮さん。


「では私はこれで。大都さんも降ります?」


「いや、少ししたら降りるよ」


「分かりました」


 雨宮さんが降りるのを見届けた僕は、改めて人がいないのを確認する。

 よし、誰もいない。


(お爺さん。雨宮さんと会ったみたいだけど、どうだった?)


(うむ……年にしては肝の据わった子だった。それに戦士の目もしておったな)


(別に雨宮さんが戦う訳じゃないんだけど。でもそう言ってくれると、彼女も嬉しいかもね)


(それは吉報だな。……だが、かよわいところがあるのも事実。一樹、あの子を守っておくんだぞ)


(うん、分かってるよお爺さん)

 

 僕はこうして研究所にいるお爺さんと、脳内で話が出来る。


 お爺さんは確かに天寿を全うした。

 しかし今でも、その意識は骨の中に残っているのだ。

 ※元ネタが渋いので読み飛ばしても構いません。


 バハムートは『ゴジラXメカゴジラ』の初代ゴジラの骨、『ゴジラ S.P≪シンギュラポイント≫』のミサキオクの意思ある骨、そして『犬夜叉』の犬の大将(特に骸の方)がモチーフです。

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[一言] コラボでウルトラマンVSゴジラとかやらないかな!
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