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第23話 怪獣殺しの恐怖

 目の前の海面が大きく盛り上がっていくと、黒く巨大な物体が見えてきた。


 一見鯨にも見えてしまうも、それは海底油田に匹敵する高さまで上がっていく。

 やがて被っていた水が弾けて、中身が姿を現した。


 ――グオオオオオオオオンン!!


 黄金の目を備えたタコの頭部、黒光りする胴体と長い両腕、翼のようにも見える背中の突起物。

 

 大怪獣クラーケンだ。


 下半身は海に隠れているので断定できないが、おそらく50メートルはある。

 この海底油田を上回るくらいの大きさだ。


「冷た……」


 水しぶきが少しかかってきた上に、口の中に入ってしまった。

 うん、しょっぱい。


 ――グルルルルルウウ……。


 クラーケンが鎌首をもたげて、僕という小さい存在を睨んだ。

 雷鳴のような低い唸り声が聞こえてくる。


「…………」


 僕は絵麻のように怪獣の思考は読み取れないので、何を考えているのかよく分からない。


 ただ絵麻から「怪獣は人間をアリ程度にしか思っていない」と聞いた事がある。

 人間がいちいち踏み潰してしまったアリの事を、気にも留めないのと同じようなものだ。


 そんなアリが1人で面向かっているのだから、クラーケンも不思議に思っているはずだ。


 ――オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 威嚇の咆哮を上げてきた。


 巨大な口から粘性を帯びた唾液が飛んできて、辺りにへばりつく。

 すぐに障壁を使って唾液をガードする。汚れるのはさすがにごめんだ。


 そうして僕はただ睨み付ける。


 何もやぶれかぶれでやっている訳じゃない。

 奴に取るに足らない存在だと思われないようにする為だ。


 それに近すぎる。ここで迂闊に攻撃すれば、海底油田に多少の被害が出てしまう。

 なので奴をなるべく、海底油田から距離を離そうと思っていた。


 ――……グルウ……。


 クラーケンの金色の瞳が細める。


 これはハッキリと分かる。奴は動揺しているのだ。


 僕は大抵の怪獣に『恐怖』を与える事が出来る。

 もちろん全員にという訳じゃなく、本能一点張りの怪獣だと襲いかかってくるという事もザラにはある。

 だが今回ばかりは成功したようだ。


 たった1人の、取るに足らないアリが自分を恐怖させている。 

 そんなありえない事態に、奴は怖気づいているに違いない。


「どうする、僕ごと海底油田を叩き潰すか? それとも尻尾巻いて逃げるか?



 

 お前に考える頭があるなら、さっさと決めろ」


 ――…………。


 僕の問いに対して、クラーケンが後ずさりを始める。

 やがてある程度の距離になってから、奴が背を向けて逃走しようとした。


 しめた。


「≪龍神の眷属≫」


 僕はすかさず眷属のドレイクを召喚させた。

 ちなみに大きさを変える事が出来るので、クラーケンとほぼ同等にしている。


 ドレイクが背中に乗ると、クラーケンが剥がそうと酷く暴れる。

 水しぶきが海底油田に届く勢いで舞った。


 僕の操るドレイクは爪で食い込んで、しっかりしがみついている。

 それにイラついただろうか、クラーケンが口元の触手を蛇のように動かし、ドレイクの身体を串刺しにした。


 ――グウウウ!! …………ギュオオオオオオンン!!


 ――……!!?


 しかし残念。


 ドレイクは僕の生命力とリンクしている。

 つまりが僕が死ぬか意図的に消さない限り、常時稼働中だ。


 ドレイクは奴の頭部目掛けて何度も殴りつけた。

 殴るたび、悲鳴に似た叫び声を上げるクラーケン。


 ――ガアア!!? グゲェアアア!! グオアア!!


 引き裂くのではなく殴っているのは、体内の原油をなるべく出さないようにしている為だ。

 そんな殴打を喰らったものだから、クラーケンの顔面が酷く陥没したものになる。


 いよいよフィニッシュだ。

 弱っているクラーケンへと、ドレイクがその首根っこを掴んで、


 ――ボギッ!!


 エグい音と共に、奴の首の骨をへし折った。

 これで奴は死亡。体内の原油を流さないまま殺す事に成功した。


 ドレイクを消滅させた後、クラーケンの死骸がゆっくりと海中へと沈む。

 あとは海底に潜む生物やら怪獣やらに食べられて終わりか。


「……はぁ、不意打ちみたいでやだな」


 海底油田を守る為とはいえ、逃走した敵の背中を狙うのは心が痛む。


 でも原油の原価はバカにならない。

 卑怯な手を使ってでもやるしかなかった。


 あと海に沈んだ事で、回収が難しくなるかもしれない。

 失敗したら何か言われるだろうか……それは面倒だな。

 

《一樹:クラーケンの掃討終わりましたよ》


 考えるをまとめるのはここまでにして、未央奈さんに連絡しておいた。


《未央奈さん:お疲れ様。迎えのヘリをよこすから待っていなさい。(サムズアップした怪獣のスタンプ)》


 あと絵麻と雨宮さんにもメッセージを送らないと。

 2人に激励の言葉をかけられたんだから、ちゃんとお返しをしないと。


《一樹:これも絵麻と雨宮さんの応援のおかげだよ。2人ともありがとう》


《雨宮さん:お疲れ様です。帰還しましたら休んで下さい》


《絵麻:お疲れ様! 結構倒すの早かったね!(ビックリしている怪獣のスタンプ)》


《絵麻:今日も美味しいご飯作るから待ってて!(コックの姿をした怪獣のスタンプ)》


 ハハッ……はしゃぎすぎだよ、絵麻の奴。


 でもこれを見ていると元気が湧いてくるな。

 怪獣が僕にとっての非日常なら、絵麻が僕にとって日常だ。


《絵麻:……雨宮さんもよかったら、一緒にご飯食べますか?》


《雨宮さん:どうしました急に?》


《絵麻:雨宮さんも兄さんの事を応援してくれましたから……そのお礼というか……》


 おっ、絵麻がデレた。


《雨宮さん:申し訳ありません、学校が終わったら仕事がありますので。お気持ちだけ頂戴します》


《絵麻:そうですか……お仕事頑張ってくださいね(「ガンバレー」と言っている怪獣のスタンプ)》


《雨宮さん:ありがとうございます。今日は無理ですが、また近い内に》


《絵麻:分かりました(「いつでもOK」と言っている怪獣のスタンプ)》


 うん、これを機に仲良くしてくれたら嬉しいな。


 そう思っている内に、迎えのヘリの音が近付いてくるのが分かった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大爆発が想定されるほど原油を体内にためているなら、死骸も回収して処理しないと、大変な事になるのでは? スカベンジャーが死骸を食べたり、死骸が腐ったりしていく過程で、海水に原油が流出する…
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