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第18話 怪獣殺しの模擬戦

「大丈夫か絵麻」


「うん、平気」


 目的地に向かう為、僕達は電車の中で揺られていた。


 電車内はいつにも増してぎゅうぎゅう詰め。

 なので僕達は立つ事を余儀なくされている。


 また絵麻にはなるべく端の方に寄せて、それから僕が盾になるように立った。

 絵麻に痴漢が寄ってこないようにする対策でもあるのだ。


 もし絵麻にそんな事する奴がいたら……腕の骨をやってしまいそうだ。


「それよりも兄さん、学校じゃないんだから眼鏡外せばいいのに」


「ああこれ? かけてないと落ち着かなくて」


「取っちゃうよ?」


「いや、やめてほしい」


 手を伸ばす絵麻から軽く下がった。

 まぁ、ちょっとしたじゃれ合いだ。


 それに本気で下がったら、すぐ変な輩が狙いそうで怖い。


 現に男の視線が、絵麻に注がれている。

 この内の誰かが痴漢しないとも限らないし、常に目を光らせないと。


 そう思っている内に目的の駅に到着したみたいだ。

 ふぅ、一安心かな。


「えっと兄さん……手を繋いでいい?」


「ん? 別にいいけど」


 絵麻がそう言ったので、その小さい手を握った。

 暖かい感触をしているな……それに柔らかい。


「フフッ」


「何だよ嬉しそうに」


「内緒。それよりも早く行こ」 


 そこから歩くこと数分。

 やっと目的の特生対研究所に到着する。


 特生対管轄なので、特生対本部から少し近い距離に建てられている。

 いかにも軍事施設らしい物々しい外観をしている本部に対し、こちらは純白をメインにした清潔な外観だ。


 もちろん関係者以外立ち入り禁止なのだが、僕達兄妹は特例として出入りが自由だ。

 早速エントランスに入ると、近くのソファーに未央奈さんと雨宮さんが座っていた。


「待ってたわ、2人とも。……一樹君、せめてオフの時くらい眼鏡外せばいいのに」


「すいません。これに慣れちゃっているので」


「本当にあなたは……。まぁ、絵麻ちゃんもよく来てくれたね。嬉しいわ」


「わっ、もう……」


 未央奈さんが絵麻の頭を撫でた。

 絵麻は困った顔をしたものの、満更でもなさそうだ。


「えっと……その人が……」


「ああ、初めてだったわね。現在、一樹君のアシストに回っている雨宮飛鳥ちゃん。仲良くしてね」


「雨宮飛鳥です。絵麻さんの事は神木さんから伺っています」


「………………」


 絵麻……未央奈さんと反応が全然真逆だよ。

 心なしか目が死んでいるような……。


「……絵麻……さん?」


「あっ、いえ。これからもよろしくお願いします……」


「え、ええ……こちらこそ……」


 すっかり冷静な姿が崩れてしまった雨宮さん。


 ともかくここに呼んだ理由は何なのか。

 未央奈さんに聞いてみると、


「実は新しいミスリルの試作品が開発されてね。その模擬戦テストの相手をしてほしいの」


「なるほど。となると、相手は隊長の高槻(たかつき)さんですかね?」


「いえ、実は高槻隊長が目にかけている隊員が相手ですって。やんちゃなのが玉に(きず)だそうけど」


「もしかして新入りですか?」


「一応入って3年は経っているけど、まぁ若いと言えば若いね。もちろんあなたを言いふらさないように目は光らせるつもりよ」


 特生対防衛班との接触を避ける僕だが、隊長は例外で何回か顔を合わせている。

 彼女付きの隊員なら問題ないと思う。もちろん無条件という訳じゃない。


「そろそろ時間だから急ぎましょうか。一樹君には例の服を着てもらうから」


 僕を含めた4人は、エントランスから移動した。


 着いたのは地下1階にある『ミスリル実験ルーム』。


 ここで、新たに開発したミスリルなどの性能チェックを行う事が出来るのだ。

 もちろん周りに被害が出ないよう、大怪獣の外殻を混ぜ合わせた超合金の壁で覆われている。


 僕は更衣室で用意された服装を着替えた後、実験ルームへと入った。


 まず顔はマジックミラー付きの黒いヘルメット。

 顔バレを防ぐためのもので、隊長らと会うたびにこれを被っている。


 そして万一に備えて、特生対隊員も使用する黒い戦闘服を着用している。

 対衝撃チョッキなどが取り付けられているけど、正直怪獣に対しては申し訳程度だ。


 というかこれ蒸れるんだよね。

 特生対隊員の方々はよく着ていられるな。


『さてと、準備はいい?』


 実験ルームに設置されたスピーカーから、未央奈さんの声が響く。


「ええ、大丈夫ですよ」


『では隊員を入れてもらうから。少し待っていなさい』


 言われた通りに待っていると、目の前のシャッターが開けられた。

 そこから2人の隊員が入ってくる。


「やぁ。今回も付き合ってくれてありがとうね、≪怪獣殺し≫」


「いえ大丈夫です」


 ショートヘアと褐色肌の飄々とした女性。

 名前は高槻裕(たかつきゆう)さん。


 27歳の若さで、特生対本部防衛班の隊長の座に就いた方だ。

 というか前隊長が怪獣に殺されたので、繰り上げて昇進したといった方が正しいか。


 しかし繰り上げ昇進を抜きにしても、その戦闘力は並みの隊員の比じゃない。

 腰に下げている拳銃型ミスリル二丁を操る姿から≪早撃ちの裕≫と呼ばれているとか。


「今回な、私の部下が使用するミスリルの性能を試したいんだよ。面倒かもしれないけど付き合ってくれないかな?」


「まぁ、断っていたらここには来ませんけどね」


「確かに。じゃあ榊原(さかきばら)、あとは頼むな」


 高槻さんが下がると、今度は男性の方が前に出た。


 榊原翔(さかきばらしょう)

 いかにもスポーツ系な見た目をしているも、五十嵐君とは違ってストイック……自分に信念を持っていますと言わんばかりのオーラを放っている。

 

 こちらは大型ミスリルで怪獣を葬る為、≪剛腕の翔≫と呼ばれている。

 ちなみに年齢は23歳。


 何故知っているかって? 今さっき資料を渡されたからだ。


「了解っす」


 榊原さんが背中に背負った大砲を手に持った。


 ミスリルの例に漏れず、近未来的で機械的なデザイン。

 しかもかなり大型だからか、使用しない場合は二つ折りにしているようだ。


 それと砲身が綺麗な青色をしている。

 これには見覚えがあった。


『その大型ミスリルはね、最大火力を目標に製造されたの。ただ今までのだとエネルギーに耐えられず溶けてしまう恐れがあるから、試験的にケツァルコアトルの外殻を利用しているわ』


「やっぱり。ケツァルコアトルの外殻で焼き切れるのを防ぐと」


 この部屋の壁のように、特生対は怪獣の外殻を利用する事が多い。

 怪獣を倒すには怪獣の力を使う訳だ。 


「ふーん……」


「どうした、榊原?」


 笑みを軽く浮かべた榊原さんに、高槻さんが尋ねた。


「いやね、噂に聞いていた≪怪獣殺し≫ってどんなのかなって思ってたんすけど、見た目からして俺達より年下っぽいじゃないっすか。本当にコイツが怪獣を倒したのかなぁって」


 あー、いわゆる若気の至りというやつか。

 ただこういう言われようは慣れているので、今さら動じはしない。


『……ッ……』


 ただ微かに、スピーカーから絵麻の歯ぎしり音が聞こえた気がする。

 なんか癇に触っちゃったのかな……あとでなだめておかないと。


「ハァ……。まぁ、この通りイキっているところがあるから、シメ目的も兼ねて連れてきたんだ。とりあえずそちらのやり方でやっていいから」


「イキっているなんて言わないで下さいよ! ていうか人体相手にこれ使って大丈夫なんすか?」


「問題はないよ。どうぞ遠慮なく」


「さいっすか。じゃあやらせてもらうっすよ!!」


 榊原さんがミスリルのスイッチを入れると、砲身の隙間から青白い特殊エネルギーが放出する。

 そのまま僕の方に向かってきた。


 では隊長の言う通り、僕のやり方でやらせてもらいますか。


「≪龍神の眷属≫」


 僕は右手から赤いエネルギーを放ち、それを前方に固形化させた。

 みるみるうちにエネルギーは異形の姿になり、顔に相当する部位には青い両目が付いた。


 ――グオオオオオオオオンン!!


「か、怪獣!?」

 

 オーソドックスな二足歩行をした怪獣……の姿をしたエネルギー体だ。 

 技名の通り、僕は自分の力で眷属を生み出す事が出来る。前に絵麻が見せたワイバーンと同じようなものだ。


 名前もワイバーンに因んで『ドレイク』と名付けている。


「ドレイク、絶対死なせないように体力を奪って」


 僕の指示にドレイクが口から火球を放つ。


 あくまで体力消耗が目的なので、見た目に反して低威力だ。

 

 しかし怪獣が火球を放っているという現状から、榊原さんは必死にかわし続けた。

 この人すごい。大型火器を持っているのに身軽だ。


「うおっ! んだよコイツ!! くそっ、俺を舐めるな!!」


 榊原さんが大型ミスリルを掲げ、ドレイクの頭部目掛けて放った。


 ――ゴオォン!!


 この場が震えるほどの衝撃波と共に、弾丸が飛ぶ。

 弾丸の軌跡があたかも青白いレーザーのように見えた後、ドレイクの頭部に着弾した。


「……なっ、何で倒れない!?」


 しかしドレイクは首をひねっただけで、倒れはしなかった。

 ジロっと榊原さんに振り向き直してから、脚で床を踏む。


 踏んだ際に出た大きな振動で、一瞬榊原さんが跳ぶ。


「ぐわっ!? くそったれ!!」


 地面に落ちる寸前、榊原さんが体勢を整えた。

 とりあえず僕は≪龍神の劫火≫を無数の光弾として放ち、彼の周りに着弾していった。


「うおおおお!!?」


 もちろん全部威嚇射撃。

 しかし彼が怯むには十分だった。


『そこまでよ。新型ミスリルの性能は十分とれたし……しかも性能を実践する側を追い詰めてどうするの』


 おっといけない。

 未央奈さんの一言で、戦闘の血が収まっていくのが感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] んー、作者方は豆腐メンタルっていってるが、釣りなのかな ? 普通に読みやすいし、今19話まで読んだけど読みやすくて 面白いと思うよ。 読みやすさと、テンポのわるいやつは途中で読むの止めるし…
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