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1,動き出す時の流れ





『俺』はゆっくりと目を覚ました。

まるで全ての始まりの瞬間に立ち会ったかの如く、ゼロから時間が動き出したような不思議な感覚に囚われた目覚めだった。


ぼんやりとした頭の中に、次第にエンジンがかかりだすかのように、いくつかの記憶や思考が浮かんでくる。


そう、俺はダンジョンマスターとしてここに、この瞬間に生まれたのだ。

ダンジョンマスターとは、人を捕らえる地下施設の管理者。

皮肉なことに、このダンジョンから出ることが出来ないこの俺が、一番この牢獄に囚われているわけだが、そういう役割で、そういう存在としてここに生まれ落ちたのだ。


なれと言われてそうなったわけではない。

むしろ進んでそうなった…のだと思う。

曖昧な記憶…前世の記憶なのだろう、ぼんやりとした、だが焼きついたような願望の残滓が記憶の奥底に横たわっている気がするが、その願望までは思い起こすことが出来ない。

ただ、このダンジョンを大きくしていかなければならない。

その役目だけがこの身に焼き付いている。


それなら、そろそろ始めようか。

『俺』はゆっくりと、この身を起こすのだった。




まず目の前にあるのは、このダンジョンのコアでもある、マザーオーブだ。

手のひらに収まる程度の大きさしかないこのオーブは、支えるものが無いにも関わらず宙に浮き、かすかな光を放っている。

…ただ、今のままでは頼りない代物に過ぎない。


マザーオーブは、このダンジョンの始まりであり、終わりでもある。

それは、このマザーオーブが強大な力を持てば持つほどに、このダンジョン自体もそれ相応の力を持つ事ができると言う事であるが、逆に壊されれば、このダンジョンが崩壊するどころか、俺という存在が消滅することを意味している。

つまり、このマザーオーブが破壊されることを防ぎつつ、大事に育てていくことが、これからの目標となるだろう。


では、このマザーオーブをどうやって育てていくのか。

その方法はいくつかあるが、結局のところ、存在力を大きくしていくことに限る。

存在力とは、影響力とも言い換えられ、例えば大きなエネルギーを持っていることや、膨大な戦力を有していることなどが該当するし、他にも信仰の対象になり多くの者が祈りを捧げていることや、単純に権力を持つなど様々な要素が組み合わさった力である。


現状、何もない状況なので、何から始めるか迷うところだが…、注意しなければならないこともある。

端的に言えば、地上への干渉は最小限に抑えるべきだと言うことだ。

なぜなら、すでにベテランの力を有している者たちの息がかかっている事が考えられるからだ。


そう、例えば他のダンジョンマスターの存在。

自分だけが特別だと思わないように、心に留めて置かなければならないことである。


地上には大勢の知的生命体がいるだろうから、彼らを助けてやれば、信仰など容易く得られるだろうと手を伸ばせば、そこを支配している者たちに邪魔だと簡単に切り飛ばされる可能性が高いし、一時的に上手くいったとしても、結果的に損な役回りを押しつけられる危険性があると言うことだ。


もちろん、手を取り合える場合も考えられるだろう。

ただその時は、搾取される側だと言うことを念頭に置かねばならなくなる。


…そんな危険を冒すことはできない。


では、どうするのか、その答えは地下を掘っていくことにつながる。

他のダンジョンマスターの施設に近接しないように祈りながらではあるが、資源を集め、必要な施設を建設し、このダンジョンを拡張していく。

時には地上に出て、種や飼育できる生物を集めてこなければならない事もあるだろう。

その時は闇に紛れ、慎重に、そして速やかに行動していくのだ。


とはいえ、救いもある。

地下深くに、聖域と言われる地下洞窟があるのだ。

古い時代のダンジョンの痕跡だと言われているが、そこでは珍しい鉱石や有用な異物が眠っているのだという。

手付かずの聖域を見つけ、その資源を集める事が最初の目的となるだろう。



では初めていこうか。

まずはダンジョン拡張開始の通過儀礼として、地上に入り口を開かなければならない。

もちろん、危険が伴うことは百も承知であるが、それだけで膨大な存在力が増す。

というか、初めにその存在力がなければそもそも拡張ができないのだ。

入口は大きければ大きいほど良いと言われているが、とりあえずは小さいものにしておこう。

子供1人がギリギリ通れる程度なら安心できるだろう。

そうそう、水が流れ込んでくる可能性も考慮しなければならないな。

自分自身は呼吸など必要としていないが、水中で暮らすことは遠慮したい。

それにこの大きさなら、念の為に小動物が侵入してきた時を考えて、巡回兵を作り出さなければならないな。

忙しくなるぞ!


胸に手を当てれば、自分とオーブの魔力的な繋がりを感じる事ができた。

オーブとの繋がりを辿れば、オーブが抱えている情報が流れ出してくる。

今いる場所は地表にほど近い岩盤内に位置し、感知できる範囲に他の洞窟は見つからず、他に強力な存在力を有する生物及び構造物は見つからない。

地上までの距離はそこそこ近く、狙って掘り進められれば、ここに届いてしまう可能性もあるだろう。

このオーブがある洞穴をより地下に移動する必要がある上、自分が過ごしやすい環境を整える必要がある。

まずはさっさと入り口を作って…よしできた。

オーブにオーダーを出せば、自動でそれが再現可能な構造物を提案してくれるので、それを選び決定してしまえば、勝手に建築してくれる簡単仕様なのは助かる。


そして、巡回兵をさっさと作ってしまって…て、ろくな物が作れないな。

オーブが提案してくれる現段階で製作可能なユニットを見比べてみる。

ゼロから作るのではなく、この洞窟の近くから材料を集め作る物のほうがコストが安く済む為、ゴーレムと言われる鉱物を素体にした人形が主な選択肢になるのはわかる。

戦闘力を高め且つコストの事を考えるに、物理的な強さを持ったもの、つまり硬い素材の物がいいが、一番硬い素材が岩しかない。

そもそも何の岩さえわからないし、作り出した所で絶対に弱いだろ!

後はその岩ゴーレムの大きさとか形状の違いしか選択肢に出てこなかった。


その他の選択肢として素材ゼロから作ることもできるらしいが、戦闘に関して言えば魔法特化ではあるものの物理的に脆いものしか作れず、それにコストが高すぎるようだ。これを作ると何もできなくなる。

…そう考えると、今は入口から続く通路に罠を作る方向で防衛力を高めて、ある程度ダンジョンを拡張してから巡回兵を作る方向で調整していく方がいいな。

しかし巡回兵がいないとなると、何か入って来た時の為に警報装置を設置して置くことが必要かもしれないな。


警報装置を設置して…よしこれで大丈夫だろう。

そして設置した側から、…警報装置が鳴り始めた。

何だこれ。もしかして通常時は鳴っていて、誰か入ってきたら鳴り止むとかそう言う設定になってる?

通常時に音が鳴ることで、警報装置がちゃんと働いていると確認できるとかいう安心設定なの?


じゃり、じゃり、じゃり。

自分の後ろ、つまりダンジョンの入口に続く通路から、足音が聞こえた。

…警報装置の設定ミスとかではないようだった。

早すぎる。冷や汗が出るのを感じるが、この状況急いで振り返るのは得策ではないな。

余裕を持って、ここにいるのがさも当たり前のように、…偶然先にダンジョンを見つけてオーブを発見した一般人のように装うしかない。

…あまりにも発見されるのが早すぎる為、近くに他の強力なダンジョンがあり、その探知範囲にこのダンジョンがあった可能性があるな。最悪の展開だ。


俺はゆっくりと後ろの足音に向かって振り向いた。

暗闇から、小さな姿の人型の生き物が近づいて来ているのが見えた。

…確かに作った入口は子供が屈めば入れるほどには大きくしていた、入ってこれたのも道理だろうが、だがしかし…。


その影が、マザーオーブの放つ光を浴びて、その姿を浮かび上がらせた。

見た目は、どう見ても…幼女だ。

だがわかるぞ、俺は見た目に惑わされない。

ただの幼女がこんな所に来るわけがない。

その動き、どう見ても迷子の幼女の様なふらふらした歩き方をしているが、その一手一手を観察する。

幼女に見える何者かがこちらに気づいたのか足を止めた。

その目は涙で潤み、気弱そうな雰囲気を見せているが、俺にはわかる。

こちらの出方を伺っているのだろう。

その涙は、退屈しのぎのあくびから来るものなのか、それとも冷笑による笑泣によるものなのか。

長いようで短い沈黙の後、その幼女は言葉を発した。


「…あの…ツチガミさま、ですか」


なるほど?どう返せば正解だ?選択肢が欲しいところだ。

俺は随分と悩むことになるのだった。






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