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夢屋 胡蝶  作者: 真鶴 黎
第九夜 心の在処を周る詞華
82/88

#10

 向かい風が冷たく吹きつける。竜は悠々と飛行しているが、自然の風はそうもいかない。


「……」


 望は凍てつく風を少しでも防ごうと外套のフードを目深にかぶり、マフラーを引き上げる。

 どこを飛んでいるのか全くわからない。途中までは眼下に雪化粧をした木々が見えたのだが、いつしか世界は真っ白になっていた。雪が覆う白の世界ではなく、まるで無の世界に入り込んでしまったのかのような状況がしばらく続いている。自分たち以外の生き物の姿はなく、ただ風を感じるのみだ。


「さあ、もうすぐ着きますよ」


「もうすぐ……」


 やっと、と望は槿の言葉に気を引き締める。寒さの辛さからの解放だけでなく、これから起こるであろうことに望は緊張する。

 夢を自力で見ることができないという不思議な性質。長年原因がわからない望の体質のことを知っているかもしれない存在。

 それが貘の一族。

 何か解決策がわかればという希望でもある。

 そして、と望は視線を送る。槿、望が乗る竜の少し後ろ、長い髪を靡かせる周を見やる。

 周と一族の胡蝶の夢を巡る事件。宿を出る前、槿が案じていた。一族が周に対してどのような態度を取るのか、心無い対応をされるかもしれない、と槿は言っていた。周自身もどのように扱われるのか、あの日のことがよぎって仕方ないと怯えていた。

 何事もなければいい。杞憂だったと言えればいい。

 望はそう願うも嫌な胸騒ぎがしてならない。槿がもうすぐ着くと言ったとき、背中が疼いたような気もしてさらに不安にさせる。

 大丈夫。きっと、大丈夫。そう自分に言い聞かせるように望は小さく息をつく。

 槿が竜に声をかける。すると、竜は応じるように咆哮を上げる。その咆哮が視界を覆う白の幕を晴らす。

 

「舟橋さん、見えますか? あそこが私たちが暮らす地です」


 槿は背後の望に尋ねる。望はフードの隙間から槿が指す方向を見る。


「あのテントの?」


 白銀の世界の中、円形の住居らしきものが見える。遊牧民の住まいとして見るものが遠くに見える。


「ええ。(パオ)と言います。ゲルやユルトとも呼ばれますね」


 移動式の住居が集まっている地。そこが現在貘の一族たちが居を構えている場所である。


「高いところに住んでるね」


 周は小さく呟く。

 距離感が周にはよくわからないため、具体的な数字はわからない。空気の薄さからしてそれなりの高さだろうと推測する。

 冥府の者が一族との接触を試みたができなかったと篁から聞いている。途中で景色が真っ白になったのは雪のせいではなく、結界のせい。随分と強い結界が張られていたようだと周は感じた。

 物理的な高さだけでなく、強固な結界まで張る。確かに、これでは貘との接触も難しいだろうと周は思う。


「はい。皆さん、お身体に不調はございませんか?」


「僕は平気。杏は……大丈夫そうだね」


 周は後ろに乗っている杏介に視線だけ送る。とくに変わりなさそうな温かな杏子色は白銀の中で目立つ。


「おう、へっちゃら」


 杏介は余裕の笑みを浮かべる。


「私も大丈夫です」


 望は震えながら答える。


「舟橋さん、本当に大丈夫ですか?」


 槿は視線だけ望にやる。顔がほとんど見えない彼女はコクコクと大きく頷いている。


「寒いだけなので」


「着いたら、すぐに温かいところへご案内します。それまで、どうかご辛抱を」


 望はまたひとつ頷く。


「兄さん、着陸の用意を」


「うん」


 槿が竜の手綱を操るに合わせて周も手綱を繰る。

 二体の竜は旋回を繰り返しながらゆっくりと地に近づいていく。徐々に高度を落としながら集落の近くへ向かう。

 そして、ふわりと音もなく着陸する。白銀が風に美しく舞うと、竜が到着を知らせるように一声鳴く。


「到着です」


 槿は先に竜を降りる。


「舟橋さん、お加減はいかがでしょうか」


「大丈夫です」


 尋ねられた望は落ち着いた様子で答える。

 昨日の竜と比べると驚くほど酔わなかった。頬を切るような風や最初と最後に見えていた眼下の景色の移ろいからして、それなりのスピードが出ていたはずが揺れをあまり感じなかった。時折、強く風が吹きつけた際に上下に揺れたことがあったぐらいで、安定した飛行をしていた。


「良かった」


 槿はほうと息をつく。昨日のこともあり、竜の扱いに慣れている槿が望を乗せることとなった。普段は同族を乗せること多く、竜に不慣れな者を乗せるのは久しぶりで、手綱を握る手に力が入った。


「槿大哥!」


 一向はパタパタと駆ける足音の主を見やる。白い息を吐きながら駆け寄ってきたのは少年だ。少年は槿に抱き着くように飛びつく。


「回来了」


 槿はキャッキャッとはしゃぐ少年の頭を撫でた後、しゃがんで少年と目線を合わせる。


「――ねえ、あちらがおきゃくさん?」


 少年は槿の近くにいる三人を見て尋ねる。


「――そうだよ。ほら、ちゃんとご挨拶して」


 槿は少年の背に手を添えて一向に向き合わせる。少年は三人を見上げ、拱手をする。


「みなさま、ようこそおこし……おこし?」


 少年は首を傾げながら槿に助けを求める。


「お越しくださいました」


 槿はゆっくりと話す。


「おこし、くださいました」


 たどたどしくも少年は一向に挨拶をすると槿のことをキラキラとした目で見上げる。


「太好了」


 槿は目を細めながら少年の頭を撫でる。


「――できたよ! きんにいさん!」


 もっと褒めてと少年はぴょんぴょんと跳ねる。槿はそれに応じるようにうんうんと頷く。


「――上手にできたね。さあ、兄さんは皆さんをご案内するからお戻り」


 少年は槿の言葉に応じると一向に軽く頭を下げて駆けて行く。


「……槿もお兄さんか」


 周はしみじみと言う。馴染の言葉で紡がれるやり取りが微笑ましかった。

 周がまだ一族と共に暮らして頃、槿が最年少だった。そんな槿にも兄と呼び、慕う存在ができたのかと思うと周は嬉しい。

 その反面、自分がいない間にも一族に知らない顔が増えたのだと思い知らされる。少年は周の顔を知らない。無邪気な様子を見るに、周のことすら、知らされていないのかもしれない。


「ええ、まあ……」


 槿は照れ笑いを浮かべるも、すぐに表情を引き締めて少年の背中を目で追う。少年が駆け寄った先には数名の貘が一向を見ていた。その内、一人の貘が少年の手を引き、どこかへ去る。


「……」


 無邪気な少年が去ると、貘たちの雰囲気が一瞬張りつめる。しかし、それはすぐに消えて一向を出迎えるように笑みを浮かべる。

 その様子に杏子色が鋭さを帯び、細い目は槿へと視線をやる。


「槿、長のところへ」


「……はい」


 槿は同族へ向かって手を掲げると、貘たちはこちらへ歩み寄る。


「ようこそ、皆さん」


 貘たちはにこやかに挨拶をすると槿と一言、二言言葉を交わすと槿と望が乗っていた竜の手綱を取る。


「――そちらも」


 別の貘が周に声を掛け、手を差し伸べる。


「――はい。お願いいたします」


 周は竜の手綱を渡すと、竜を見上げる。


「――至らないところがあったと思うけど、上手に飛んでくれてありがとう」


 周は目を細めながら竜に話しかける。竜も応じるように目を細めると喉を鳴らす。


「――行くぞ」


 手綱を持った貘たちは竜を連れて行く。


「では、行きましょうか」


 槿が先導するのに続き、望たちも進む。

 貘たちが暮らす地。雪の深い山奥でひっそりと彼らは暮らしているようだ。貘たちは望たちが通りかかれば挨拶をしたり、軽く頭を下げたりと出迎えてくれる。

 だが、それはどこかぎこちなく、よそよそしく見える。


「……」


 罵詈雑言を向けられるよりはまだいい。周がそう思っていると、ある会話が飛び込んでくる。


「――あれは……周か」


「――ああ。本当に来るとは……。それにしても、驚いた。あんなにそっくりになっているとは」


「――本当に。化けてでてきたのかと思うほど、父親そっくりだ」


 ひそひそと聞こえるその会話は凍てつく冬の空気のように周の胸の内を刺す。

 微妙な空気の正体はそれかと周は察する。昔、追放された者が再び一族の暮らす環境に踏み入れただけでなく、死んだ者と同じ顔ともなれば困惑するのも無理のない話だ。

 化けて出た。父のことをそう言われるのはいい気分ではない。


「――兄さん」


 案じる声音に周は顔を上げる。


「――大丈夫」


「――でも」


「周」


 何か言おうとする槿の言葉よりも先に名前を呼ばれる。名前を呼んだ主は冴えた月のように静かな目で周を見ている。


「顔色悪いよ」


 昨晩の周と同じような顔をしている。雪に攫われてしまいそうなほど、頼りない表情だ。


「大丈夫。……って言わせてほしいんだけど」


 凛とした目が偽ることを許さないと言わんばかりにつり上がったため、周は言葉をつけ足す。


「そんなに怖い顔しないでよ、望ちゃん。はい、笑ってー」


 にこーっと言いながら周は自分の口の端に指を添えて笑う。


「……」


 望はぷいと顔を逸らす。


「あーあ、望の機嫌を損ねてやんのー」


 杏介はからかうように言いつつも、周囲の様子に気を配る。とくに攻撃する様子はなく、ただひそひそと話をしている。

 冷ややかな視線と潜められる暗い言葉。それが周に向けられていることは嫌というほどわかる。

 それは望もよくわかっている。中国語はわからないが、雰囲気からして暗い話をしていることはわかる。こうもはっきりと目に見え、肌で感じられるほどの嫌悪感。これらは望や杏介に向けられたものではない。

 では、直接向けられている周はどう感じるのか。無理に笑顔を貼りつけ、望の不安を払拭しようとしたようだが、それは望にとっては逆効果だ。

 心無い態度。それを向けられて平然としていられるわけがない。罪の意識に苛まれている周が弱さを見せるようになったところを知っている身からすると、取り繕えていないことは望の目にはっきりと映る。

 それに、と望は周囲を見渡す。一族からの明らかな嫌悪感以外の何かがある。少年と別れ、こうして歩いてきてから妙な気配を感じる。この気配が何かわからないが、いいものではないと直観する。

 それは何か、と望は周囲を見るも、とくに怪しい物は見えない。


「すみません。事前に長から言い含められていたのですが……」


 槿は申し訳ない、と眉を下げる。

 周が来るとは言え、客もいる。だから、失礼のないように振舞うように。

 そう長から命じられていた。周が来ることに異を唱える者もいたが、大半の者は渋々と応じたはず。しかし、実際は嫌悪感が漂っている。


「いいや。向こうも思うことがあるのはわかっているから」


 周としては彼らの態度に対して、致し方のないことだと理解できる。

 思うことは悪いことではない。それが態度や言葉に出てしまうほど強い感情だということも。取り繕えないほどの憎悪を向けられる覚悟はしていた。


「それに、あの時よりもずっとマシな方」


 身を突き刺す見えない刃を浴びせられているわけではない。それなら今の状況の方が可愛らしく思うほどに。

 何より、と周は無慈悲な男の顔を思い浮かべる。彼はいないのだから。


「そうですか……」


「それでも、長居したいとは思わないけど」


 周は、ほら、と視線を前方へ向ける。

 杏介と望は周に倣う。そこには一人の男がいた。人間で言えば、五十歳前後の見た目の穏やかな相貌をしている。

 ただ立っているだけ。それなのに、不思議と存在感を放つ男性に杏介と望は息を呑む。


「あの方が貘の長?」


 望は視線を男性に向けたまま、周に尋ねる。


「そうだよ。……変わらないね、長は」


 本当に変わらない。周の記憶の中にある彼と大して変わりない様子だ。


「本当に、昔から変わらないですよ」


 槿は周に同意する。幼い頃から長の姿はずっと変わらない。不老不死ではないと長も言っていたが、ここまで老けないだろうかと幼い頃から疑問に思っている。

 そんな話をしていると長が一向に歩み寄る。


「ようこそ、おいでくださいました」


 見た目どおりの落ち着いた声音で話す長は拱手をして頭を下げる。


「私はこの貘の一族を統べる者。舟橋殿、用心棒殿、そして、周殿。遠方からお越しいただきありがとうございます」


 頭を下げたときよりもさらにゆっくりと長は顔を上げる。

 穏やか。本当にその言葉がぴったりと合うほど、柔らかな雰囲気だと望は思う。それと同時に、その温和な風貌では覆い隠せないほど強い力を感じる。


「……こちらこそ、お出迎えいただき感謝申し上げます」


 周は深々と頭を下げる。周に続き、杏介と望も頭を下げる。


「寒い中でお話も何ですし、こちらへ」


 長は近くに控える者に一言、二言声を掛けると歩き出して先導する。

 一族が暮らす地の中でも奥。一際立派な住まいの前で長が足を止めると、供にいた貘が包の戸を開ける。


「こちらでお話を聞きます。どうぞ、中へ」


 長は周、杏介、望を招き入れる。続いて槿が入ろうとするも、長は槿を制する。


「――長?」


「――槿は下がっていなさい」


「――……よろしいのですか?」


 訝しむ槿に対し、長は周囲を見渡す。警戒する一族の者の姿が目に入る。


「――かなり個人のことに踏み込むことになるだろうから。他の者にも下がるように改めて伝えてくれ」


「――承知しました」


 槿は長と一向に一礼すると周に目配せして戸を閉める。


「どうぞお掛けください」


 そう言って長は三人に腰掛けるように促す。


「望ちゃん、真ん中でもいい?」


「うん」


 望は言われるがまま、中央の椅子に座る。


「それじゃあ、俺はこっちー」


「杏」


 呑気な様子の杏介に周は窘めるように呼ぶ。


「わかってるって」


 杏介は望の右に、周は左にと三人横並びに座る。


「……?」


 刹那、望は視線を上にやる。まるで、ドーム状の何かが被せられたような気配がする。その気配は望だけでなく、周と杏介も感じる。


「結界か?」


「ええ」


 杏介が問うと長は一向の対面の椅子に向かいながら答える。


「先ほども申しましたが、込み入った話をするので。一族の者に知られるのも私としては避けたい」


 長はゆったりと椅子に腰を掛けるとほっと息をついたように笑みを浮かべる。


「ですが、本題の前に……息災のようでよかった、周」


 その眼差しは久方ぶりに顔を見る祖父みたい。望にはそう見える。

 周を一族から追放させた者。周のことを周殿と呼び、あまりにも他人行儀に見えた長の表情が一変した。


「大きくなったな」


 目尻の皺を深くした長に周の瞳が大きく揺らぐ。周自身も予想外の言葉に動揺を隠せない。

 そんな周の様子に長は困ったように眉を下げるとひとつ息をつく。


「困らせてしまったようだ」


「困ると言うか、驚いたと言うか……」


 周はたどたどしく言葉を紡ぐ。あの日、淡々と周に追放を言い渡した者とは思えないぐらい、事件前のように接してきた。そのことに周は驚いた。


「どちらにせよ、私の言葉は予期せぬものだったか」


 それも仕方なし、と長は肩を落とすと望の方をちらりと見やる。


「申し訳ない。本題から逸れてしまいました」


「いいえ。周と積もる話もあるでしょうから」


 長は周に対して好意的だと望は感じる。本当に久しぶりに顔を合わせる祖父の表情そのままだ。あれほどまでに周が怯えていたぐらいだから、もっと怖いのかと望は思っていた。

 実際のところは再会を素直に喜ぶ親族。久方ぶりの再会に喜んでいるように望は感じる。昔の周に対して冷たく突き放し、文を問答無用で返すような感じに見えず、望も困惑する。


「あなたもお困りですか?」


 図星。望は視線を彷徨わせる。


「えっと……失礼ながら、もっと怖い方なのかと思っていたので」


「ははは。立場的にそう思われても仕方ないかもしれませんが……。もっと力を抜いてください」


 にこにこと笑う長の様子は若者と話ができることを喜んでいるようにも見える。

 呆気にとられるとはこのこと。望は数度まばたきをして周と杏介の様子を窺う。二人は長の言葉に反して緊張した面持ちのままだ。

 二人の様子に今度は長が眉を下げて困った様子を見せる。


「……そう言われても信じられないのも無理はない、か」


 諦めに近い笑みの長に杏子色が警戒するように睨む。


「積もる話のあれそれはあるだろうが、俺たちが来たのはあんたらの確執がどうとかを聞くためじゃない」


「杏」


 周は静かに杏介を制する。これは自分が話すのだと細い目の訴えに対し、杏介は先を促す。


「僕たちは彼女……望ちゃんのことを訊きに来ました。僕としても話したいことはありますが、彼女のことを第一に話をしたいです」


 望のことを第一に。一族との確執が本題ではない。

 杏介の言葉は周にとってお守りになっている。実際、望のことが目的であるため、一族との確執を軸に語り合うつもりはない。


「……そうだった」


 長は寂しそうに応じる。こうして周に再会できた喜びに長は蓋をする。


「ただ、積もる話……私たちと周との話にはあなたも関わって来る」


 長は落ち着いた口調ではあるものの、緊迫感のある堅い声音でそう言い放つ。思わぬ対象として言葉を向けられた望はまばたきを繰り返す。


「私?」


 長を含めた貘の一族と周との関係は望が生まれるよりも遥か昔のことだ。そこに望が関わるということはどういうことなのか。

 そう思ったのは望だけではなく、周も杏介も眉を潜める。


「ええ。……こうして、あなたとお会いする時をお待ちしておりました」


 貘の長は望を見て表情をわずかに崩す。

 否、見ているのは望ではない。視線は確かに望を捉えているのだが、まるで、望の奥底に眠る何かを見ているような気がする。

 それに気がついた望の背が疼く。この嫌な疼きに望は顔をしかめる。


「……」


 何やらおかしい。一族が暮らすこの地に足を踏み入れたときから妙に気分が落ち着かない。そわそわとしたこれは落ち着こうとする望の心を逆撫でする。


「やはり、時間はあまりないようだ」


 長は懐から夢玉を取り出す。淡い色合いの夢玉に望ははっと息を呑む。


「それは……」


 まるで、花束を球体にしたような夢玉。似たような雰囲気は望の記憶に新しい。


「話は夢の中でいたしましょう。周も来なさい」


「構いませんが、彼は……」


 周は杏介に視線をやる。


「申し訳ないが、あなたにはこちらでお待ちいただきたい」


「別にいいですけど。その二人に害が及ばないなら」


「私は危害を加えるつもりはございません。むしろ、そうして警戒してくださった方がありがたい」


 警戒心を露わにする杏介に対し、長はゆったりと答えると夢玉を掲げる。


「参りましょう。舟橋殿のことと周のこと。夢の中でお伝えします。どうぞ、力を抜いて」


 長から力が放たれる。長の力に呼応するように夢玉が淡く光る。

 穏やかで緩やかな淡い光は周と望を包み込むように広がると、夢の世界へと誘った。

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