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夢屋 胡蝶  作者: 真鶴 黎
第七夜 歌の標と未明の船
61/88

#8

 電話口の向こう側では、のんちゃんどうしたの? と案じる小さな式神の声がする。


「……そうか。そんなことが」


 しばしの間の後、吐息混じりの低い声が思案しながら応じる。


「ええ。本人は元気なんですけど」


 周は昨日の夜から今日の昼にかけてのことを思い出す。

 痣のこと、夢への干渉のこと。一日も経っていないわずかな時間で望に現れた変化だ。

 あの朝顔の夢の後、そろそろ夢屋へ戻ることになり、目覚めた。目覚めた望の身体に異変はなく、棗からも体調の問題はないだろうと診断された。念のため、薬をもらって人間界へ戻った二人は夢屋でまた夢へ入った。

 入った夢は古民家で飼われていた小鳥の夢だ。朝顔の夢と似た雰囲気の夢の中で色々と試してわかったことがあった。

 夢への干渉の力が弱かったはずの望が夢へ干渉できるようになった。今まで以上に気楽に、望の脳裏に思い浮かべたように物が現れ、風景が変わった。当然のことではあるが、望が知っている物を夢の世界で出すことができるようになっていた。望の知らない物は出せない、もしくは、不完全な物として出てくる状態だ。

 今までとは違う状況に対し、望は多少の戸惑いがあるものの、表情は変わらず冷静なものだった。その後の体調も問題ない。


「とは言え、今日はあれこれ試したことが多かったのでこれから何かあるかもしれませんが」


 篁にメッセージを送り、八つ時過ぎに望を帰した。何かあったら遠慮なく連絡してほしいと伝えてある。いざというときのために周も今日は満月医院の手伝いを休ませてもらった。


「そうだな」


 篁の声音は神妙なままだ。


「本当に舟橋さんの体調は問題ないんだな?」


「はい。今のところは家に無事着いたという連絡があったぐらいで、そのときは体調も問題ないと」


 家までの間に倒れていないか。過保護だと望に言われたが、何が起こるかわからない。杞憂に終わればそれでいいと周が言うと望は了承した。そして、望は家に着いたと連絡を寄越し、周は一安心した。


「あとで一度連絡しようと思っています」


 そう言って周は時計を見やる。十九時を過ぎた時計の針は規則正しく時を刻んでいる。望から連絡がないのは問題がないのか、体調が悪くて倒れているのか。どちらにせよ、連絡するつもりだ。


「そうしてくれ。こちらもも、一度舟橋さんの状態を確認したい。式神を派遣しようと思う」


「朱莉が行く!」


 はーい、はーい、と声と共に飛び跳ねる音がする。


「わかった、わかった。行くなら清佳と一緒な」


「うん!」


 篁の窘める声に朱莉は元気よく返事をする。


「じゃあ、清佳に伝えてきてくれ」


「はーい」


 きゃっきゃっと笑う小さな式神の声が遠ざかる。静かになった電話の向こうで、篁が再びため息をつく。


「相変わらず元気ですね」


「舟橋さんのことがよほど気に入ったらしい」


 朱莉が人間に懐きやすいのはいつものこと。以前にも、とても懐いていた人間が何人かいた。その中でも望は別格というほど、朱莉にとっては大切な存在らしい。


「ということで、近い内に二人を送る。あとは舟橋さんと相談してくれ」


「わかりました。……今の時期に二人も式神寄越して大丈夫ですか?」


 盆の頃の冥府は忙しい。これから忙しくなるという時期に式神を二人も派遣して手が回るのかと周は疑問を投げかける。


「大丈夫じゃない。……が、いずれにせよそちらに冥府の関係者が行くことが決まっていたから」


 篁の声音がぐっと低くなる。電話越しにも張りつめた空気が伝わってくる。


「何かあったんですか?」


 ただならぬ篁の様子に周の声も硬くなる。

 時計の長針が時を進める。


「……舟橋さんの鬼籍帳が動いた」


「え……」


 思わぬ篁の言葉に周は受話器を落としそうになる。

 鬼籍帳。生きとし生ける者の生死を記した書物だ。いつ生まれ、どのように生き、最期がどうなるのかが記されているらしい代物。生まれるときにはすでに天命が決まっており、滅多なことでは鬼籍帳の内容が書き換わることはないという。

 その鬼籍帳が動いた。つまり、望の天命が変わったということだ。

 周は篁の言葉を聴き逃してはならないと受話器を握り直す。


「動いたって、どうして……。寿命が変わったってことですか?」


 震える声を押さえるように周はゆっくりと話す。


「まあ……。具体的な時間は言えないが、今日、明日というほど差し迫っているわけではない。それでも、時間はあまりないから対策を急ぐ必要がある」


「……」


 寿命が変わった。それは伸びた方ではなく、縮んだ方だろうと周は察する。

 今すぐというわけではないのは安心できるような、しかし、時間はあまりなく、具体的な時間を教えてもらえないというところで周の胸の内の不安が増す。


「いつ変化が起きたのですか?」


「桜が咲くか、咲かないか……。それぐらいの時期だ」


「それ、半年ぐらい前の話ですよね」


 現在、桜は散り、青々とした葉を茂らせて夏の熱い日差しを遮っている。その葉も直に赤く色づく季節へと移り変わっていくのだ。


「もしかして、一度、清佳殿がいらっしゃったのって……」


 桜が満開を迎える頃、夢屋に清佳が訪れた。こちらの方に用事があったらしく、ついでに夢屋を訪ねたと言っていた。世間話を少しばかりし、せっかくだからと茶葉をいくつか買って彼女は帰っていったことを覚えている。


「そういうことだ。とくに変化はなかったと報告を受けた」


 異常なし。清佳からの報告に篁や冥府は余計に頭を悩ませた。その後も望が暮らす街の担当の冥官から報告を受けていたのだが、そちらも変わりないという報告ばかりだった。


「鬼籍帳のこと、僕に話していいんですか?」


 厳重な管理がされているものの情報を出していいのか。周の問いかけに対し、篁はため息をひとつつく。


「冥府から許可は下りている。お前の口の堅さを信じているからな」


「そう思われているのは光栄ですが……」


 篁から信じていると言われると妙な気分になる。いつも手厳しい言葉をぶつける彼に素直に褒められると驚きと戸惑いが混ざり合う。


「他言無用だ。とくに、本人には絶対に言うな。生者には知られてはならない」


 生きている者が鬼籍帳、とくに、寿命について知ることはご法度だ。それにより、生者の人生が変わり、輪廻が狂ってしまう可能性が上がるからだ。


「それはもちろん」


 いらぬ混乱を招かないためだ。痣のこと、夢のことと立て続けに起きた望は普段と変わりない様子だが、心の奥底では揺れ動いているかもしれない。これ以上不安にさせる必要もないだろうと周は思う。


「でも、どうして僕に?」


 極秘裏に冥府が手を尽くすべき対応のはずだ。それを周に話すとなれば周が関係した何かがあるとしか思えない。


「……舟橋さんの最期が厄介なことになってな」


 一拍置いた後、篁は声を潜めて答える。

 篁は望の鬼籍帳を思い浮かべる。篁も見たことがない現象が起きたのだ。


「夢に溶けて魂が消えてしまうと記されていた」


「魂が夢に溶ける?」


 夢を見ることのできない望の魂が夢に溶けるとはどういうことか。


「お前、聞いたことあるか?」


 篁の問いかけに周にこの件を明かしたことに合点がいく。夢のことについて詳しい貘である周にならと話す許可が冥府から下りたのかもしれない。それも、当事者である望と関わりがあるということもあってのことだろう。

 しかし、周の答えはひとつだ。


「いいえ」


 残念ながら周は篁が言う現象を知らない。初めて聞いた。


「そうか」


 篁は吐息混じりに漏らす。篁どころか、篁よりも冥官歴の長い者も閻羅王も知らない不可解な事象に冥府も訳が分からないと参っている状態だ。

 しかし、篁や冥府は望の鬼籍帳を見てすぐさま思い浮かんだことがある。


「胡蝶の夢と関係があると思うか?」


 胡蝶の夢という言葉に周の胸の奥で重い感情が蠢く。どろりと粘着質な澱みが溢れてくるようだ。


「……それは、故事のことですか? それとも、一族の宝のことですか?」


 周は努めて冷静に話そうと胸の内の重荷を奥底へ押し込む。

 夢に溶ける。それは夢と現実の区別がついていない状態を指すのだろうか。そうであるならば、故事の胡蝶の夢と言い表すのに最適だろう。

 では、一族の宝であった胡蝶の夢を指すとなると望や冥府とどう関係するのかわからない。


「舟橋さんの鬼籍帳に胡蝶が飛び交っていた」


 篁は目の前に望の鬼籍帳があるかのように思い浮かべる。

 己の意志を持つかのように鬼籍帳の中を悠々と飛んでいる胡蝶がいた。それも、一羽、二羽ではなく、数十羽の胡蝶が鬼籍帳の中の頁を行ったり来たりしていたのだ。

 夢に溶ける。飛び交う胡蝶。そこから連想されたのが胡蝶の夢だ。また、望は夢を見られないという不思議な体質の持ち主でもある。それもまた冥府を悩ませている。


「痣の形も見ようによっては蝶の形らしいな。……こんな偶然はあるだろうか」


 篁は望の痣を見ていない。が、痣を見た者によっては蝶にも見えると先ほど周が教えてくれた。


「胡蝶の夢。故事の意味以上のことが彼女の身に起きるのではないかと俺は思うのだが、お前はどう思う?」


「……」


 周は今まで得てきた知識を掘り起こすように過去を振り返る。

 脳裏を一羽の蝶がよぎる。空気に溶けるように天へ舞った姿は美しかった。


「夢に溶けるという現象がどんなものか、想像もつきません」


 周はそのような事象を知らない。聞いたこともない。


「ただ、夢に溶けるという現象に近い事例なら心当たりがあります」


「と言うと?」


 電話の向こうでパラリと乾いた音がする。メモを取るのだろう、と思いながら周は店に並ぶ夢玉に視線をやる。


「夢の世界にのめり込んでしまうという事例です」


 現実と夢幻の区別がつかないほど、夢の世界にどっぷりとつかってしまうことがある。それは夢を見ている者と夢の相性が関係していると周は思う。

 夢は記憶でもある。その記憶に強く引っ張られたり、誰かが見た夢という形の記憶に共感したりすると夢の世界に強く入り込み、まるで、現実世界のように感じることがある。


「のめり込むという言葉を溶け込むという言葉に言い換えることができると思います。だから、それに近いかと思ったのですが」


「ただ、それは特別な事象ではないだろう?」


「そうですね」


 誰にでも起こり得る現象だ。これは貘の力に関係なく、いつものように眠っているときに見る夢においても起こることだ。


「ですが、強く入り込んでしまったがゆえに、中々目覚めないということも見たことがあります」


 睡眠障害とも言えるこの現象を周は過去に見聞きした。


「夢玉を使ったり、僕が夢を見せたりしたときはとくに。僕のところを訪れるお客さんって基本的に見たい夢があるから来るんですよ」


 夢売りの元を訪れる客の大半は欲しい夢があるから売ってくれ、作ってくれ、という願いを持つ者たちだ。気軽にふらっと来る者もいれば、悩みを抱える者もいる。

 中には強い希望を持つ者もいるのだ。


「こんな夢を見たいと強く願う者が望んだ夢を見た場合、とくにのめり込んで、起きてこないことが多い」


「なるほど。夢と知りせば、覚めざらましを、と言ったところか」


 それほどまでに強い思いを持っている。それが夢幻とは言え、叶えばその世界にずっといたいと願う気持ちもわからないでもない。


「そうでしょうね。なので、僕はそういった現象は夢に溶け込む、夢と一体化していくという言葉が合う気がするのです」


 夢を見ている者がまるで、夢の住民かのように思うことがある。元々、夢の世界が本物で、起きている世界が偽りかのように振舞う者もいたぐらいだ。


「ちょろっと話しましたけど、望ちゃんの鬼籍帳のことと関係があるかわかりません」


 周は話題を戻す。

 望は夢を見ない。だから、夢の世界にのめり込むということがない。夢玉を使ったときも、周と一緒に夢の中に入ったときも、これは夢の世界だという意識がはっきりしている。よって、現実と夢の線引きがされている。それどころか、夢の世界という実感が薄いようにも思う反応をしていると思う。

 周は夢玉から視線を上げる。あの日逃がした胡蝶に似た絵が飾られている。春海が描いた胡蝶の絵を見たとき、内心ひやっとした。


 うつつなき つまみ心の 胡蝶かな


 その句もまた周の心の奥を刺激した。

 春海は周がした過去のことは知らない様子だ。知っていたとしても、詳しくはなさそうだ。知っていながらこの絵と句を贈ったのなら恨みたい気分になるほど、周の心の奥底に押し込んだ感情を掘り起こした。

 それでも周はその感情を隠した。そのつもりだったが、夢を取り出すときのようにくゆる花火の煙を見たせいか、夏の夜に春の日射しのような色を持つ幼馴染に弱音を吐いた。


「胡蝶の夢と関係があるのかどうか……。あるとして、どうして望ちゃんの鬼籍帳に影響が出ているのか。望ちゃんが夢を見ないことと関係があるのか。それから……」


 他にも考えればいくつも疑問が浮かびそうだ。

 周は受話器を両手で持つ。手が震えて受話器を落としてしまいそうだ。


「……ごめんなさい、篁卿。もう、訳がわからなくて」


 周は弱々しい声で電話の向こうの彼に訴える。

 望の天命が変わった。思わぬ事態の変化に激しく動揺している自分がいるのだ。ここまで動揺したのはいつぶりだろうかと思うほどに、周の中で望という存在が大きくなったのかがわかる。

 初めは興味本位だった。夢を見ないという人間がいるとは思わなかった。生きている者は皆夢を見るのに、人間である彼女は夢を見ることができない。その原因は何なのか、どうすれば夢を見られるようになるのか、と思考することが楽しかった。

 しかし、実際に手をつけてみると謎だらけだった。一族を頼ることができないと思いながらも周は望と共に模索した。

 その間、望の人となりがよくわかってきた。表情の変化は同じ年頃の娘と比べると乏しく、冷淡な印象を受ける。しかし、他者の感情の揺れ動きには敏感な人間だと思う。あの磨き上げられた鏡のような瞳が他者の心情を映し取るようにじっと見つめているのだ。そして、相手の感情がわかった上で、優しく接する。

 舟橋望という人間は一見すると、冷たく見えるが、本当は誰よりも心根の優しい娘だ。周の過去を思いやってくれた彼女にどれほど救われたか。


「どうして、望ちゃんに……」


 いい子。この一言に尽きる。善良な彼女になぜと思わずにいられない。


「受け入れがたいのはわかる。訳がわからないのはこちらもだし、彼女のような人間の鬼籍帳が動くなど滅多にない」


 篁は変わらぬ調子で返す。

 変化した望の鬼籍帳を見た篁としてもなぜと思った。今までの望の行いを見れば、平穏に生を終えて、冥府に来て生まれ変わるはずなのだ。それが、ここに来て輪廻に狂いが起きかねない事態になってしまった。

 篁側は今まで調査してきたため、時間が経って状況を整理できてきた。しかし、周には予想外の情報が入り込んできた。状況を理解、整理するにしても時間が必要なことはわかる。

 調査をしてきたとは言っても、冥府は混乱している。このことを知っている者は限られているが、その者たちの間でも訳がわからず、十王にまで話が上がっている。現在は篁と他数名の冥官を中心に原因究明の命が下されている。


「とにもかくにも、冥府としても状況を把握しておきたい。少しでも判断材料がほしい。こちらでわかったことがあればすぐに連絡する。そちらも何かあったら、教えてくれ」


「はい……」


 周の声の調子が下がる。

 結局、時間が経てば経つほど、疑問が生まれ、袋小路へ入っていく。本当にこれから先、謎が解明され、解決できるのだろうか、と後ろ向きな感情がこみあげてくる。

 駄目だ。このように考えていたら望にまた不安を与えてしまう。それだけは避けなければ、と周は受話器を持つ手に力を込め、頭を振る。


「あとは……。貘からの返事は?」


 篁の冷静な声に周は思考を切り替える。うじうじしている暇があるなら、前に進まなければと自分に言い聞かせる。


「まだ。先ほど、返事の催促をお願いした文を書きました。この後、出しにいきます」


 痣のこともあり、早く返事がほしい。一族から何もしないということであればそのように返事がほしいところだ。


「返事があったらすぐに俺に連絡をいれてくれ」


「そのつもりです」


「頼む」


「はい」


 周からしても、冥府からしても頼みの綱となっているのは貘の一族だ。どうにかして接触したいところだ。


「俺からはとりあえず以上。そちらは?」


「……ちょっと考えをまとめる時間をもらえますか?」


 疑問は色々ある。感情も綯交ぜになっている。この状態で話をしても篁の時間を奪うだけだ。それならば、状況や思考を整理するための時間をもらって、話をまとめてから篁に投げかけた方が互いに有効的だろう。


「わかった。一度、冥府に報告もしたいから、そろそろ切る」


「はい。お忙しい中、申し訳ない」


「お前のためじゃない。舟橋さんのためだ」


「わかってますよ」


 周は苦笑する。

 小野篁が動いているのは人間の舟橋望のためであって、貘の周のためではない。あくまで、周は協力者なだけだ。言い方は悪いが、駒でもある。


「じゃあな。おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 少し間があった後、ツーツーと通話が切られる。周は受話器を一度置くと、そのまましゃがみこむ。


「……」


 周は、はあ、と深く、長い息を吐き出す。

 舟橋望という一人の人間のことで冥府まで動いているとは思わなかった。それも、鬼籍帳が動くなど、滅多にない出来事だ。これで望が冥府を動かしたのは幼い頃の影の件と二件目だ。

 なぜ、望なのか。彼女の体質の問題なのか、そう決められた運命だと言うのか。それで鬼籍帳が動く事態にまでなるとは思わない。

 篁の口ぶりからすると、時間はあまりないと言ったもののまだ猶予はありそうな様子だ。そうでなければ、変化が起きてすぐに連絡を寄越してくるはずだ。


「望ちゃんに電話しないと。それから、文を出しに行って、先生に篁卿のことを……」


 他言無用。篁の言葉を思い出した周は話を聞いてくれるあの長い耳の医師の顔を打ち消す。


「……言っちゃ駄目だった」


 望の鬼籍帳が動いた。それは他言無用。たとえ、信頼している医師であっても、腐れ縁の杏子色にも言ってはならないことだ。もちろん、奥底まで見えそうな水鏡のような目を持つ彼女にも。


「……」


 相談もできない。篁がいるため、相談相手がいないというわけではないのだが、それでも周が信頼している身近な存在に言えないというのは辛いものだ。

 抱え込みすぎるな。兎の師と狐の友がよく言ってくれる。いつでも相談してほしい、と彼らは言ってくれたが、望の鬼籍帳に関しては篁から他言無用とされている。


「……篁卿がいるから」


 一人ではない。篁という相談相手がいるのだから、彼に話すことができれば大丈夫だ。

 周はそう思いながら、望に電話をかけようと受話器を取った。




 次の日の朝、望の体調は元通りであった。その日以降もとくに問題なく過ごすことができた。

 お盆前に帰省した望と入れ替わるように、夢屋の元に貘の一族から文が届いた。文には、近い内に一族の者を派遣することが記されていた。

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