棒アイス
小説を書き、生計を立てる。
地方の旅館に行き、温泉に入り、
料理を楽しみながら酒を呑む。
こうして、きちんと。
人生という時間を、謳歌する!
『それが俺の生き様だ!!』
なんて事を偉そうにも言ってみるが、、
貯金も出来ない。稼ぎも少ない。
なかなか売れない。の3拍子な小説家。
「はあ、、」
拭いきれない、未来への不安は、
湯気となって、空へと消えてゆく。
「温泉だけだ、、
俺を癒してくれるのは、、」
小説家として、日々。努力し、
いろいろな場所や環境に行き、
感性を磨き、構想を練っている。
だが、、
なかなかヒットしない。
どうしてなのか、、
世間様では糞程つまらない作品が売れ、
何が面白いのか、何を伝えたいのか、
ただただ、だらだらと続く物ばかりで、
こんなにも溢れ返っているのに、、
そう、日々に嘆きながら、
いろいろと思考を巡らせる。
まあ、こんな生活を続けられるだけ、
有難いのかもしれない、、
「やば、、」
考え過ぎると、時折。
自分を忘れてしまう事がある。
頭がくらくらするぜ、、
ゆっくりと脱水場に行き、身体を拭く。
頭乾かすのめんど、、
ん、、?
アイス。あります?
壁に貼られた紙に、そう書いてあった。
浴衣に着替え、浴室を後にする。
タイミング良く、隣の女風呂からも、
風呂上がりのシャンプーの香る、
浴衣美人が出てきた。
女性はアイスのある場所へ行き、
中からアイスを取り出す。
フィルムを剥がすと、アイスを口に咥える。
そんな。何もないハズの、当たり前の行為に。
光景に、、思わず唾を呑み込み、我に返る。
「アイス。アイス。」
風呂上がりの誘惑の冷水機の水を我慢して、
俺はアイスのある場所へと赴く。
いざ、、、
ガラガラ。
中身は空っぽだった。
さっきの彼女でラストだったのだ。
「あぁあ、、」
もう、、歩けない、、
のぼせた身体をケースに凭れ掛けると、
近くでいい匂いがした。
「はいっ。」
目の前には食い欠けの、、
半分になった棒アイス。
アイスの元を辿ると、それは、
さっきの浴衣美人だった。
彼女は覗き込む様にして俺を見つめる。
「?、、
いいの、、か?」
「半分こ。」
そう。ニッコリ笑い、
彼女は去って行った。
「かぁああああああ、、、」
これは、、、犯罪的だあ、、、
どうゆう事だ、、、何故くれた、、、
これは、、、間接、、、
震える手。
香る。いい匂いに、、あの笑顔、、
当たり前の様に受け取ってしまった、
欠けたアイス。
脱水場に行き、素早く紙コップを取り、
その中にアイスを、大切に入れる。
、、、。
食えねえ、、、
こんな自分が情けなく、
度胸が無いひ弱な自分が嫌いになりそうだ。
部屋へと帰り、
備え付けの冷蔵庫にアイスを入れ、
倒れる様に床へと転がる。
畳の匂いと天井の違和感。
旅館は良いな、、
しばらく俺はぼーっとする。
よっし、、。
バタッン、、
アイスの神様、、
ありがとうございます、、
これは、とある小説家のお話。
次の物語では、どのような事が起こるのか、、
それは、また。次の機会に。