過去に拉致したロリ聖女をブチギレさせた結果、国はこうなりました。
僕のTwitterで、面白そうな案が出てきたので今回短編として書きました。
起承転結の、承と転の間を意識して書きました。
あと、言いたいことは子供を怒らせてはいけない。
男女問わず、ね。
目が覚めた私の目には、知らない町の風景が見えた。
口には猿轡、手足には鎖。
私は馬車の滑車の上にいた。
どうやら、馬車を今引いているガラの悪い男が私を拉致したようだ。
何が目的なのかは、10歳の私には理解ができない。
見渡すと口笛だったり、歓声だったりが聞こえてくる。
何処かの国だろうか。
時折私のいる教会の罵声も聞こえてくることから察するに、私のいる教会、「ギャラル教会」に対する反抗勢力国家なのだろうか。
どうやら私、「ウルズ」は、完全なる見世物状態だったようだ。
その後約2時間ほどかけて、市中引き回しにされた後、薄暗い牢獄に閉じ込められたのだった。
「やりましたねぇ! ボス!」
気色悪い男の声が聞こえてきた。
「まさか花を摘みに行っていたあのメスガキが、ギャラル教会の聖女とはねえ!! 大収穫っすよ!! あの教会を嫌っている民衆の捌け口のタネにも使えますねえ!!」
別の男の甲高い笑い声も聞こえてきた。
嫌な気分にさせられる。
階段の、カツーン、カツーン、という音も徐々に近く大きくなってきているのがわかった。
「ボス……如何様になさいましょうか。あのガキを。」
今度は低い、別の男の声が聞こえてきた。
「しばらくは見世物として使えるだろ。あのガキは。……あの教会を嫌っている奴らに対して金を払わせてストレス解消のタネにさせる。それでその金で国を繁栄させていくんだ。その後にコクスティア公国の名を世界に知らしめるのさ。……教会をぶっ潰して、な。」
コクスティア公国……? それが今いる土地の名前か……? 一度聞いたことがあるくらいで興味もへったくれもなかった国に私はいるのか……冗談じゃない、早く逃げなければ……。
「おい、ジェイド、リオネル、カジェロス。……すぐに明日のショーの手配をしておけ。……あとは観光客への周知も呼びかけろ。」
「アイアイサー!!」
そういって、名前を呼ばれた男たちは駆け足で階段を上がっていった。
私は今、腕と脚を鎖で繋がれていて逃げられない。
だからといって、こんな気味悪い場所で最期を迎えるわけにはいかなかった。
なんとしても生き残らなければ……何故連れ去ったのかはわかった。
教会を嫌う理由もなんとなくは察している。
そんな中、私の牢の前に来たボスが私の牢に入ってきた。
「……何故……私を……? 何が……目的でしょうか……。」
私は声を発した。
お腹も空いてきたし、何か食べたい、そんな気持ちだったが、私の申し入れをこの男が聞いてくれるわけがないだろう。
「ガキは金になる……。ましてや、ギャラル教会にいる聖女なら尚更だ。……俺たちの目的は教会を制圧して……世界を牛耳る存在になることだ。だからこそ教会に恐怖を植え付けるためにテメエを連れ去った。要はお前は……生贄だ。」
生贄……? 殺す気なのか? まだ年齢が幼い私でもそれくらいはわかる。
そして、金蔓としてしか考えていないことに。
「……なぜ……そこまで教会を嫌うのですか……? 神を……お嫌いになられるのですか……?」
私はその男に問いただした。
と、そこに、私のお腹に拳が飛んできた。
息ができない……。
吐き気を催しそうだった。
人生で初めて味わう暴力。
あまりにも痛かった。
「……お前が知ったことではない。それに……お前がここでくたばろうがなんだろうが俺たちが知ったことじゃねえんだよ……。お前は一生ここで奴隷となるんだよ……。鬱憤の捌け口としてな。」
ボスは立ち去った。
息が苦しい中、私は祈りを捧げた。
「神よ……どうか、私を……お守りください……。」
その後はもう、語るのも憚られるほどの凄惨さだった。
毎日のように見世物にされては、殴られ蹴られ、投石され……の毎日だった。
神よ……何故、私めに試練を授けるのですか……? 私は毎日祈った。
牢獄に帰ってからも殴られ蹴られの生活。
食事も1ヶ月に一回。
しかも豚のエサのような残飯だ。
私はとにかく生き残りたかった、だから死に物狂いで食べた。
アザだらけ、傷だらけ、教会に対する罵詈雑言で心が折られかけたこともあった。
必死にそんなものにも耐えた。
というより、2ヶ月も暴力に晒されれば自然と慣れるものだ。
皮肉にもコクスティア公国は私の痛みを犠牲にお金を稼いでいるとのことだ。
自分を無力だと自己暗示をかけ、殴られても毎日神に祈った。
自分が、おかしくなってしまわないように。
そしてそんな生活が一年経った時、転機が訪れたのだった。
私はもう、11歳になっていた。
「しっかし、もうあのガキ、ボロボロですよ、アーノルドさん。」
この気色悪い声はジェイドか……? もうこの一年で名前は全て覚えた。
憎っくき名前として、覚えていた。
意識は朦朧としているのだが、耳や鼻の感覚はハッキリしている。
10歳で必要な栄養分を摂取することもままなっていないなか、飢餓状態の中、よく生き延びることができたなとでも自分でも思う。
「もう国も十分潤ってるんすよ!? それにマンネリ化もしてきていますし……。」
たしかにリオネルの言う通りだ。
私が慣れたというのはあったが、客が飽きたという声もチラホラと聞こえてきていたのも事実だ。
「ボス……あのガキをもう、解放してやってもいいんじゃないですか?」
カジェロスの低い声が聞こえてきた。
「……そうだな……。軍備増強もしてえからなあ……。教会との全面対決も視野に入れねえといけねえし……。あのガキも、解放しても、もうじき死ぬだろ。まあ、俺たちの脅威にはならねえよ。解放してやれ、お前ら。」
アーノルドに唆されたジェイドが私の牢に来た。
飢餓で完全に衰弱していた私の鎖を、ジェイドが解いた。
私はもう、喋ることすら、ままならなかった。
何せ水もここに来てから一滴も飲んでない。
血を舐めて喉の渇きを凌いでいたほどだ。
今はとにかく水が欲しかった。
食事よりもなによりも。
ジェイドに首根っこを分捕まえられて、私はコクスティア公国の外へ放り出されたのだった。
「川……だ……。」
朦朧とした意識と恐ろしいほどの喉の渇き。
私は数分歩いて近くの川を見つけた。
河原を這いずり、顔を川に口をつけて飲んだ。
1年ぶりの水はとんでもなく美味しかった。
今まで飲んだ、どの水よりも遥かに。
意識がだいぶ戻ってきた。
だが、今度は空腹が襲ってきた。
「早く……教会に……帰らないと……。」
歩き出した私だったが、足に力が入らず、河原で意識が遠のき、そのまま倒れてしまった。
「気がついた?」
目が覚めた私は、見覚えのある部屋にいた。
修道女のベッドか? 夢じゃないよね……辺りを見渡すと、懐かしい顔が勢揃いしていた。
「教皇様ー!!! ウルズがお目覚めになりましたーーーーーー!!!」
提供された果物を食べながら話を聞くと、あの後近くにいたおじさんが私を教会まで運んでくれたとのことだった。
私の目には涙が溢れていた。
久しぶりの人の温もりと、1年ぶりのまともな食事。
そして同時に湧いてきた、コクスティア公国への憎しみと怒り。
すぐにでも部屋を出ようとしたが、頭がまだフラフラしている。
周りの修道女に制止され、私はベッドに横になった。
と、ここで教皇様が到着した。
「おお、ウルズよ……無事であったか!?」
「教皇様……お久しゅうございます……。」
私がこう返した後、教皇様は涙ぐんだ。
「可哀想に……このような姿になってまで生きていたとは……。ウルズが神を信ずる心を捨てておらなくてよかったわい……。」
「……その節は……ご迷惑をおかけいたしました……。」
謝った私を教皇様は、抱きしめた。
「……いいんじゃ……、お主が生きてくれていただけでも……ワシは嬉しいぞ……ウルズよ……。……今日はゆっくり、お休みなさい。後ででもいいからじっくり、話を聞かせてくれ。」
「……ありがとう……ございます……。」
久しぶりに感じた、温かい人の温もりが、私を包み込んでいったのだった。
私が教会へ帰還してから数ヶ月が経った、コクスティア公国はというと。
「クソッ!!何故こうも民衆が纏まらねえ!!」
コクスティア公国の領主でもあるアーノルドは酒の入った樽ジョッキをテーブルに叩きつけた。
どうやら金銭的に落ちぶれていたようだった。
全てはあの聖女を逃がしてからか……そう考えていた。
「しかし、どうしやすか? ボス。このままだと暴動が起きかねません……。」
ジェイドがこう言ったのも、わけがあった。
単純にウルズという、民衆のストレスの捌け口が無くなったことということ、そして民衆の意思を無視し、軍備増強をしていること、稼いだ金で何もインフラを整備していなかったこと。
武器を買ったはいいものの、運営がそれで手一杯になっており、最早暴動寸前まで、ここ数ヶ月で引き起こっていたのだった。
「ボス……どうしますか。このままでは、教会の制圧の前に俺たちが殺されかねませんが……。」
ここでアーノルドがカジェロスの言ったような、国民に還元できれば良かったのではあるが、アーノルドの出した答えは破滅に向かうような答えだった。
「あのガキを連れ戻すぞ……。絶対に、だ。」
「………わかりました。そのようにいたします。」
こうしてアーノルドと側近は、私をもう一度拉致するために教会へ乗り込もうとした。
しかし、国の出口で彼らが目にしたのは______
すっかり体力も回復した「私」の姿だった。
「よくもこの一年………私を辱めやがってくれましたね………。」
私の言葉にはもう、怒りが滲み出ていた。
だが、そんな言葉で怯むような相手ではないこともまた察しがついていた。
「ハッ、わざわざ獲物がノコノコと来たってわけか……。お前に何ができるかは知らねえが……野郎ども、ひっとらえろ。」
「ハッ」
と言った部下たちが私を捕らえに来た。
だが、私はもう、魔法を展開していた。
『聖なる炎』
修道院で、教会で学んだこの魔法を特大の威力で打ち出した。
それも、彼らにではなく、コクスティア公国全体に向かって。
大きな大爆発が巻き起こり、アーノルドたちは思わず後ろを振り返った。
そこには焦土となったコクスティア公国の、焼け野原になった光景が映し出されていたのだった。
「あ…………あぁ……………。」
愕然としたアーノルド。
彼らは私を見て腰を抜かし、後ずさった。
「………私の人生の……貴重な一年を返して貰えますか………?」
「ヒッ…………ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
男たちは一目散に私から背を向けて逃げ出したが、私はもう、容赦することができなかった。
「逃げてもどこにも逃げ場は無いというのに……。……………『聖なる炎』。」
そして再び『聖なる炎』を撃ち込み、逃げ出した四人の男たちを爆殺した。
焼き払った国土を歩いていると、まだ息のある領民がいるのが見えた。
私にはもう、善悪の判断がついていなかった。
私の人生を狂わせた元凶を、全て滅ぼさなくてはいけない。
単身乗り込んできたとはいえ、いくら虫の息の人間がいようが、もう、殺す以外の選択肢は私にはなかった。
そして三度『聖なる炎』を公国全体に向かって放ち、領民ごと全てを再び焼き払ったのだった。
「神よ…………このような、『憤怒』に塗れた私めをお赦しください。」
そう神に許しを乞い、私はコクスティア公国跡地を立ち去って教会へ戻っていったのだった。
全体の流れとして、
聖女を拉致、見世物にして金を稼ぐ→金が貯まったので聖女を解放→武器を買いすぎて金が底を尽き、聖女の再誘拐を画策→領地に単身乗り込んできた聖女に国土と領民と自身を焼き払われ、この話はジ・エンドです。
子供を軍隊として扱っている国なんかではそうなんですが、子供の兵隊って、殺すことに善悪が全く無いので躊躇しないとのことです。
今回の話も特にそうで、焼き払って終わりか、と聞かれたらそうじゃなくて、今回のウルズのように際限なく人を殺してしまうのです。
多分終始胸糞悪いと思いますが、感想、評価の方、お待ちしております。