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先生と僕とカノジョ

 僕はメメル。十二歳。

 小説家である先生の秘書? をしている。


 先生は小さい頃に路頭に迷っていた僕を拾ってくれた。暗くて無口で何を考えているのか分からない人だけど、とってもいい人だ。


 ここキュチッポイウ星では子供の労働が認められている。

 早く恩返しがしたかった僕はある日、働きたいという意向を先生に伝えた。

 先生は配達とか簡単作業で募集をかけている工場とか、そういう外に出る仕事は危ないからダメだって許可してくれなかった。何日もしつこくお願いした結果、先生直々に”原稿が仕上がったら徒歩五分で着く出版社の担当さんに渡す”という重大な仕事を与えてくれた。


 徒歩五分なんていつも通ってるスーパーよりも近いけど、作家の宝である生原稿を任せてくれるなんて、外のどんな仕事よりも名誉な事だ!

 しかし原稿を渡しに行くのは月に数回程度なので、ほとんど毎日テレビやゲーム、たまに勉強をしながら、ゆーるく家事をこなして過ごしてる。


 今日はそんな貴重な数回のうちの一回だった。

 担当さんに原稿をしっかり手渡しし、帰りにスーパーへ寄って買い物を済ませる。


 一戸建ての家の門をくぐり玄関の扉を開けると、そこにはすでに見慣れた茶色い女性物の靴があった。

 僕は手に持っているギッシリ詰まった買い物袋と同じくらい重い溜息を吐くと、すぐ進んだ所にあるリビングへ向かった。


「あ、メーちゃんおかえりぃ。何かお土産ある?」

 

 アオイさん。


 色素の薄い茶髪のショートボブ。大きな目、長いまつ毛、スッと通った鼻に、形のいい唇。モデルみたいにスラッとした体型にふにゃふにゃとした笑顔と声。自由気ままな猫のように訪れる人……。

 

 彼女が初めてこの家に顔を見せたのは去年のことだった。

 突然現れた彼女を見て、先生は本当にビックリしたみたいに目を見開いて固まっていた。


『久しぶり。元気してた?』


 そう言って先生に抱きつくもんだから、あぁこの人は先生の”カノジョ”なんだなって僕は思った。でもそれは違うみたいで、二人はそういう仲じゃないらしい。

 アオイさんは週に一回以上は必ず先生に会いに来る。僕でさえ用がある時以外は入っちゃいけない仕事部屋にも、アオイさんは気にせず入っていってしまう。僕が注意しても笑ってるだけで聞いちゃくれない。というかまず先生が許可してるんだって。僕はちょっとジェラシーってやつを感じた。


 二人が部屋で何をしているのか、二人はどういう関係なのか、興味はあるけどそんなこと聞けるはずがなかった。僕と先生は家族だけど、家族でもそんなプライベートなこと聞いていいのかって、先生に嫌われたらどうしようって僕は思ったから。


 でも、今日僕は覚悟を決めた。

 三十四度の猛暑、ジリジリと照りつける太陽は僕の心も熱くしたのだ。


 買ってきた物を冷蔵庫に入れるのを手伝ってくれているアオイさんに、僕は意を決して話し掛けた。


「あの……アオイさんは、先生と二人っきりで何をしてるんですかっ!?」


 最後の”かっ”は勢い余って裏返ってしまったけど、ようやく言いかったことを言えた。

 アオイさんはそのクリッとした、髪と同じ薄茶色の瞳がこぼれそうなほど大きく目を開いて僕を見た。


 僕は心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。

 早く何か言ってほしい、早く答えを言ってほしい。


 アオイさんは開きっぱなしの冷蔵庫の扉を一旦閉じ、少し屈んで目線を僕と同じ高さに合わせると、またふにゃっと笑ってこう言った。


「メーちゃんにもしてあげよっか」


 ”邪魔してるんだよ”、”遊んでるだけだよ”、”何もしてないよ”……予想してたどれも違った。

 

 近くで見るアオイさんはやっぱり綺麗で、甘くていい匂いがして、僕は照れて……恥ずかしくなって、顔がポカポカ熱くなって、たぶん今耳まで赤くなってて……。


 僕が口をパクパク鯉みたいに開けたり閉めたりしていると、アオイさんは自分の口元に人差し指をあて、”でも子供は犯罪だよね”と言って、また冷蔵庫に食材を入れ始めた。


 子供にやると犯罪になることを、先生と……。


 僕は、たぶんだけど、いつの間にかアオイさんのことが好きになってたんだ。

 先生がアオイさんのモノになること、アオイさんが先生のモノになること。

 どちらも受け入れたくなくて、僕は泣きそうになりながら冷凍庫にアイスを詰め込んだ。


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