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英雄の孫で、大英雄の息子が、超英雄になるまで  作者: 桃栗ドリアン
第一章 学園襲撃編
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第一章7 『マッチポンプ』

「おつかれさまでした。いつ見てもあなたの【魔法】は素晴らしいですね」


 研究室に戻ると紫陽(しよう)が労いの言葉と共に知世(ともよ)を迎えた。


「腐らせるわけにはいかないしね。それと私は別に何もしてないよ。再び立つことができたのは、彼女の力さ」


「相変わらず謙遜なさるのですね」


 はぁ、と息を吐き出しながらの知世の返答に、クスクス笑いながらそう言った。


「謙遜じゃないさ。私の【魔法】は()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」





 梨野知世(なしの ともよ)

 【変化型】

 【魔法】感情(エモーション・)誘導(インダンス)


 ・射程:三十M。

 ・捕捉人数:一人。 

 ・発動条件(トリガー):対象が一定以上の負の感情を持っている。

 ・禁止事項(タブー):なし。


 ・他人の感情を一定の範囲内で自由に誘導できる。

 ・一度与えた【魔法】の効果は射程外に出ても継続可能。

 ・距離が近いほど与える影響が大きい。





 知世は明るく、子供っぽく、親しみやすいキャラを演じたが、いくら親しみやすくても、会って数分しか経っていない人間に普通そうあっさりと心は動かされない。

 信の心が動かされたのはこの【魔法】によるものである――要はマッチポンプだ。


 ――先程、行われたプロセスは四つ。


 一.誓約書による死の恐怖を足掛かりにし、信を【魔法】の影響下に置く。


 二.イレギュラー(【魔法】不明)による予想外の『不安』を、『隼人への恋の温もり』を利用し緩和する。


 三.やや圧倒的な実力差を見せ、発生した『劣等感』を、【魔法】により、『自身に対する不安』と四対六の割合でごちゃ混ぜにし、肥大化させる。


 四.デコピンで直接脳内に【魔法】を打ち込み、深度を上げ、その後の熱弁ベタによる少しの感動を最大限に持っていく。 


 このプロセスの肝は三と四である。

 最初の印象を下げ、後の印象を上げると、評価が『より』上がるという心理効果を応用し、自身へのネガティブな評価を、後から与えたより強いポジティブな評価で塗り潰している。

 だが、これを実現させるには紫陽誓の協力が必要不可欠である。





 紫陽誓(しよう ちかい)

 【特異型】

 【魔法】人物読み(ライフ・リーダー)


 ・射程:二M。

 ・捕捉人数:一人。


 ・発動条件(トリガー):対象に親しく思われる。

 ・禁止事項(タブー):友人を作る。違反した場合、感情と記憶と【魔法】の全てを失う。


 ・親しくなった相手の人物像・記憶を見ることができる。また、他人に見せることもできる。

 ・【魔法】を使用すると再び使用するのに三時間かかる。




 

 知世の【魔法】はあくまで()()だ。発生していない感情はどうやっても誘導することができない。

 だから、プロフィールが必要だ。相手の出自、好物、趣味など感情を動かすあらゆる要素を利用して、望んだ感情を想起させるために。


「あの情報がなきゃ、こんな短時間で立ち直らせることなんかできないよ……というか、多分今回はやる必要なかったかも……だって、あの立ち直り方……」


「どういうことですか?」


「私の【魔法】は負のエネルギーを起点とするからどうしても越えられない壁があるのは知ってるよね」


 知世の【魔法】には誘導出来る上限がある。

 誘導できるのは、通常その人間の心の平穏(普通)の状態に戻すまでなのだ。


「ですが、信さんは立ち直るだけじゃなくやる気に満ち溢れていましたよね?」


 つまり例外。しかし、それは『ありえない』わけではない。


「あの子のプロフィールに書いてあったけど、あの子()()()()()()()()……だから揺れても、捻れても、ここぞという時に芯が強い……いや、歪だからこそと言うべきかな……」


「歪……?」


「だって、つい数日前まで日常に身を置いていた女の子が、戦士のような覚悟を持って戦うなんておかしいだろ?」


「……確かに……私も初めての戦闘の時は何も出来ず尻込みしてしまいました……」


 そう、元が異常(アブノーマル)なら『ありえてしまう』のだ。

 だが、それに対して紫陽が二つの疑問を言葉にする。


「けれど、信さんも迷ってましたよ。それに祈さんからの連絡で精神が危ういと……」


 病院――祈から信の精神状態が不安定だと連絡を受けた学園は、『人物読み(ライフ・リーダー)』の使い手の紫陽を派遣した。

 紫陽は学園に向かう途中、信に積極的にアプローチをして条件を満たし、【魔法】を使い、『蟷螂』との戦闘での心傷(トラウマ)によって信の心が揺らいでいるのに気付いた。

 そこで、紫陽は学園にメールを送り、担当者を知世に変更してもらい、メンタルケアを兼ねた検査を行えるようにしたし、研究室に到着すると知世の脳内にプロフィールを送ったりもした。だからこそその意見には賛同できなかった。


「我が妹にしては珍しいけど多分誤診。プロフィールのかんじから推理するに、恋の病を精神錯乱と間違えた辺りかな」


 あと、ともう一つの疑問にも笑って答える。


「迷わない人間はいないさ。聖人だって英雄だって大なり小なり迷うさ」


「ということは……」


「うん。今回、それらが偶然重なっちゃっただけかな」


 ――「君はできる」

 演技ではない、他者とは異なる可能性を感じたからこそ珍しく言った本心(・・)の言葉を思い出しながら、期待を抱きながら、知世は冷め始めた紅茶を一気に飲み干した。


「アチッ……」




○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○




 時刻は午後三時。知世が訓練場を去ってからも信は一生懸命に訓練をしていた。


「……集中! 集中! 集ッ!」


 鈍い痛みが走り、集中が途切れ、信の腕から出ていた淡い白い光が消える。


「また失敗!」


 信は天井を仰ぎ悔しがる。

 訓練は思ったより難航していた。


「フゥ……よし。もう一度メモを確認しよう」


 一度初心に戻るためもう一度メモに目を通す。



『其の一『(パワー)』。

 まずは体の部分的なパーツの腕から始めてみよう。

 魔力の流れを内側に向けるように意識してください。

 成功したら両腕で、それができたら足も加え、最後に全身でやりましょう。

 コツは特にありません。

 やっているうちに自然と感覚が身についてきます。』



 大雑把な文章を見て、信はやっぱりひたすらやるしかないのだと再認識する。

 だが、別に苦だと思わない。

 それがあの人(英雄)達に近づくために必要なことだと確信しているからだ。


「よしもう一回!」


 腕に力を入れる。

 『蟷螂』と戦った時の感覚。あれがおそらく『(パワー)』の感覚だったのだろう。

 あの時は必死で感覚を掴む余裕なんてなかったけど、今度は確実に掴んで見せる! 

 信は決意を胸に、訓練を再開した。

紫陽も知世も「人の心を操る」といういかにも悪そうな感じのことをしてますが、これはカウンセリングです。一応このカウンセリングもとい洗脳のおかげで信の心は揺るぎないものになりました。


知世は謙遜していますがこの【魔法】かなり後々で凄い力発揮します。

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