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英雄の孫で、大英雄の息子が、超英雄になるまで  作者: 桃栗ドリアン
第一章 学園襲撃編
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第一章6 『憧憬再燃』

今回は信の心の変動が不自然に思えるかもしれませんが、ちゃんと理由があります。

次の話に理由が書かれているので気になった方は是非。

「ごめん、わかんないや」


 てへぺろ、とごまかし笑いをする知世に対し、


「…………ふぇ?」


 信は間の抜けた声で答えた。


「ナンデデスカ」


「ほんと、ごめんよ。こんなことめったにないんだ。現に君で()()()だし」


 知世(ともよ)今度は笑いなく、真摯に謝罪する。


 ――【魔法】がわからない自分はこの後どうなるのだろう?


 唐突に、信の心に不安が芽生えた。


「私は……どうなるんですか?」


 底知れぬ恐怖に突き動かされ、焦りながら尋ねる。


「しばらく【魔法】については使用禁止だね。どんな威力、どんな効果があるのかさっぱりわからないから」


 【魔法】を使えない。

 つまり()()使()()()()()()()()()()()

 信には、あるかわからない死の可能性より、そちらの方がよっぽど恐ろしかった。

 何もできない自分の無力さに打ちひしがれる。


「……もう一人の人ってまだ在校していらっしゃるんですか?」


「ああ、君と同い年だよ」


「よろしければ、名前を教えていただけませんか?」 


 細かい状況は違うかもしれないけど、もしかしたら相談に乗ってくれるかもしれない。

 不安を少しでも和らげたい信はその人の名前を尋ねた。


「うーん。まぁ、後でわかるだろうし話していいか。」


 少し悩んだ後、知世は教えてくれた。


紅葉場隼人(もみじば はいと)。それが彼の名前だよ」


「……!」


 その名前を聞き心の中にじんわりと温もりが広がる。

 自分のことを助けてくれたあの人と似た境遇であるという喜びが、嬉しさが、信の不安を少し和らげた。


「ありがとうございます! おかげで少し落ち着けました……」


「なら、よかった」


 先程とは打って変わった明るい表情になった(まこと)を見て、知世はほっとしたように笑った。




○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○




 信は気持ちを落ち着かせ、知世から今後の話をして頂く。


「とりあえず、信さんには『魔術』を習得してもらうね」


 確か『魔力を使った武術』だったな、と(いのり)の話を思い出しながら、信は説明の続きを聞く。


「今回はその内の三つ。其の一『(パワー)』、魔力を身体に流して身体機能を強化する。其の二『(アーツ)』、魔力を武器や道具に纏わせてリーチや威力を上げる。其の三『(ガード)』、魔力で体周に防護膜を作り出す。これらが使えるようになればどんな【魔法】かわからなくても安全に使えるようになれるよ」


 この三つを使えるようになるには、魔力を緻密にコントロールする必要があるそうだ――自分は【特異型】だ。

 この属性の【魔法】は大抵強力な力を持っているらしい。

 なので、詳細が不明な状態で使うなんてもっての外なのだ。

 しかし、この三つを使えるようになればどんなのがきても暴走をおこさず、安全に【魔法】を検証し、使用することができるようになれる。


「それらを()()()()すればいいんですね」


「いや、マスターではなく()()だ。一つマスターするのには最低でも二年、下手すると二十年はかかる」


「ニ十年!?」


 そんなものを自分が習得できるのかと不安そうな顔をしていると。


「百聞は一見に如かず、付いてきな!」 


 実演を見せよう、と笑いながら信の手を取り別室に案内してくれた。




○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○




 ――地下二階。

 入り口付近の壁に電子時計、横の壁に黒ガラスの窓、奥の壁に三つの的が貼られているだけの簡素な二十五M四方の空間――第六個人訓練場に移動すると、早速実演が始まった。


「まずは其の一だ」


 そう言うと、知世の体が青い光を纏う。

 ――後で聞いた話だが、【変化型】は青、【特異型】は白のように、属性によって魔力の色が違うらしい。検査の時もそれを見たそうだ。


「――いくよ」


 その言葉を発すると共に、知世が消えた。

 信が驚いていると。

 トントンと後ろから肩を叩かれた。振り返ってみると頬に指がグサッと刺さった。

 ケラケラと知世が満面の笑みを浮かべる。

 会って数分だが、本当にこの人は無邪気な子供みたいだとつくづく感じさせられる。

 そんな信の思考を置いて実演は続く。


「次は其の二だ」


 そう言うと知世は白衣の胸ポケットからペンを取り出し、青い光を纏わせる。そして、


「ヤァ!」


 強化された身体能力で、訓練場の奥の壁に設置された的に投擲(とうてき)する。

 カーンと気持ちのいい音を鳴らし、ペンは見事に中心に刺さった。


「抜いて来てくれないか」


「……えっ?」


「抜いてきて!」


 知世に強く言われ、『なんで私が……?』と思いながら渋々回収に行くと、信はその異常に驚愕した。

 ペンが刺さっている的の材質がどう見ても()()なのだ。

 しかも、引っこ抜いたペンには()()()()()()()()()

 狼狽(ろうばい)しながら知世の元に戻ろうとしている途中。


「そこから私に投げろぉ~~!」


 と。

 知世が大声で指示してきた。

 一や二を見た後だと人に投げるという抵抗感が全く湧かず、信は思いっきり投げつけた。

 弧を描いて飛来するペンは彼女に命中しそうになるが、鈍い音と共に、薄く透き通った青い膜に弾かれた。

 ペンは勢いを失い、空中を自由落下する。

 そして。


「これが其の三、どうだ()()()()()()?」


 ペンをキャッチし、知世はキメ顔でそう言った。


(……本当に自分にできるのだろうか?)


 胸の中がモヤモヤする。(うつむ)きながら、信はあの日のことを思い出す。


 私は少年を助けに行く時躊躇した。


(最低だ……)


 私は『蟷螂』を倒せず動けなくなった。


(情けない……)


 あっさりと心が折れてしまった。


(恥ずかしい……)


 軟弱、貧弱、惰弱、脆弱、虚弱、薄弱、柔弱、暗弱、小弱、劣弱、弱い、弱い。

 ――弱い。

 こんな自分があの人(英雄)達のようになれるわけがない。


「無理そうな気が――」


「いつまで弱気でいるつもりだい」


 知世さんが凛とした声で、私のネガティブな発言を遮った。


「でも――」


「君は()()()()()になりたいんだろう?」


「……!」


 ピシャリと全身が雷に貫かれたように感じた。

 諦めかけていた自分の憧憬を言われ、信の口が紡ごうとしていた卑屈が消え失せる。

 顔を上げる、知世は真っ直ぐと曇りのない瞳で自分を見つめていた。

 まるで、君ならできると訴えかけるように。

 それでも――()()()信は自分を信じられない。


「……本当にしょうがないなぁ」


 知世が近づいてくる、そして信の前でぴょんと跳ねて。

 パッチコーン!


「痛うう!?」


 弧を描いて、後ろに数M吹っ飛ぶ。

 デコピンされた。しかも()()()()()()()()


「今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! もう一度言う君はできる! もっと自分を信じろ、貝木信!」

 

 ――気がついたら信は泣いていた。


 こんな自分を、そこまで信じてくれていることが嬉しかったのだろう。

 信は涙を拭い、知世の目を見据え「はいっ」と涙声で答えた。




○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○




「落ち着いたかい?」


「はい!」


 知世の質問に信は力強く答えた。

 信の心にはもう燃え盛るような闘志しか宿っていなかった。


「今、学園は春休みだ。始業式の前日の四月八日までここを貸すから使って。ただし利用できる時間は午前六時〜午後九時までだから注意してね」


 今日を含めて六日間、この施設をずっと利用していいというのだ。なんてありがたいことだろう。


「ありがとうございます! 早速使っていいですか?」


 胸の内からやる気がどんどん湧いてくる。

 体が、心が、やりたいとうずうずして仕方がない。


「もちろんさ。このメモに詳しいことが書いてあるけど、もしわからないことがあったら研究室にいるから呼んでね」


 そう言ってメモを信に渡すと、知世はスタスタと訓練場を後にした。


「もう迷わない! やるぞぉ~!!」


 決意を叫び、信は特訓を始めた。



 ――彼女は気づいていない。

 

 

 一言も話していないのに知世が自分の憧憬を知っていたことを。

信は本来こんなにうじうじする人間ではありません、ではなぜこうなったのか……勿論、知世が――。


属性の色は、

【増強型】は緑

【異形型】は黄色

【変化型】は青

【操作型】は赤

【回復型】はピンク

【放出型】は茶色

【創造型】は黒

【特異型】は白色

という風になっています。

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