第一章5 『君の【魔法】を調べようか』
校門をくぐり、門前広場から東に伸びる大きな道を進む――全てのものが輝いて見える。
遊園地に始めてきた子供のように、信はひっきりなしに動く瞳も、感嘆の声も止めることができなかった。
「ここです」
歩くこと二、三分。
コロッセウムに隣接する巨大で近代的な建物に到着した。
自動ドアをくぐり施設内に入る。
「おぉ~~」
施設の中はSFの秘密基地のような内装になっていた。
信は黒い鎧の人が出てきそうなエレベーターに乗り、地下三階の部屋の前に案内された。
「中に居る人と話して参りますので少々お待ちください」
そう言い残した紫陽をそわそわしながら待つこと五分。
なぜかすっきりした表情で彼女は出てきた。
そして。
「私の案内はここまでです。中に何百人もの『候補生』を見てきた凄腕の研究員がいらっしゃいますので、部屋に入りましたら彼女の指示通りにしてください」
と。
一変、哀愁漂う笑顔で言われた。
どうやら紫陽とはここでお別れのようだ。
「そうなんですか……ありがとうございました!」
紫陽との別れを惜しみながら心からのお礼を言うと、信はドキドキを胸に、『ベテラン研究員』がいらっしゃる部屋に入った。
そこには。
「やあ、いらっしゃい」
祈がいた。少し後退りしながら、信は目をパチクリさせた。
「祈さん!? どうしてここに?」
「フフ、その子は私の妹だよ! 私は姉の知世、よく似ているといわれるんだ」
『似ている』なんてレベルじゃない。髪の色も、顔も、身長も、声も、何もかも全てが、まるで鏡から引っ張り出してきたかのように祈と一致していた。
だが、驚いている信を気にもとめず。
「さて、君の【魔法】を調べようか!」
知世は高らかに告げた。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
おろおろする信が、壁の端っこに申し訳なさそうに置かれていた木製の椅子に座り、黒い机を挟んで向かい合うと早速説明がはじまった。
「それじゃあ、【魔法】について検査の説明……の前に、『八属性』について説明するね」
知世は言葉を区切ると、パソコン大のホワイトボードを取り出し、書きながら説明を続けた。
「魔力には血液型みたいに……といっても四つじゃなくて八つなんだけど『属性』があってね。順に言っていくと、【増強型】・【異形型】・【変化型】・【操作型】・【回復型】・【放出型】・【創造型】・【特異型】という風に分けられているんだ」
『属性』が羅列されたホワイトボードを机に置くと、知世は話しながら奥の部屋に入って行った。
「その『属性』に基づいて【魔法】が形成されるから。今から『鑑識』という【魔法】を使って君がどの『属性』か、そしてどんな【魔法】を形成したのか検査する」
(なんだ【魔法】を使うなら意外とあっさり終わりそう)
信は調べると聞き、注射とかを想像していたのでホッとした。
だが、
ガシャン! ギシャン! グシャン! ゲシャン! ゴッシャン!!
知世の入って行った部屋から、響く大音量の落下音が信を不安にさせた。
(……【魔法】を使うんだよね?)
「と、知世さん?」
信が恐る恐る呼び掛けると、知世が何か引っ張りながら出てきた。
信はそれを見て度肝を抜かれた。
彼女の着ている白衣がボロボロになっていたからではなく、彼女が引っ張り出してきたのが二M程ある巨大な顕微鏡だったからだ。
「な、なんですかそれ?」
「ふっ、『ミコラスコービン天照』」
名前をドヤ顔で言われたが、正直なんのこっちゃと思った。
「これは発明家の源賀平内という四百年以上前の人物が後世のために残した遺産の一つさ」
知世は鼻息を荒くしてこの装置について説明してきた。
「『鑑識』は【特異型】に属しているんだけど、この【特異型】は強力、且つとてもレアな【魔法】で滅多に持つ人が現れないんだ。『このままでは【魔法】が調べられない時代が来るかもしれない……』そう考えた源賀平内が、自身の【魔法】――『付与』という『他者の【魔法】を物に宿す力』を使って、顕微鏡に『鑑識』の力を『付与』してくださったんだ。おかげで私たちは現在、使い手なしで【魔法】を調べることができている!」
知世の圧に気圧されながらも、『そんな未来のことを考えて行動できるなんて』と、素直に信は源賀を心の中で称賛した。
知世の説明が終わりいよいよ検査が始まる――と思ったのだが、その前に一枚の紙を手渡された。
その紙は、信が以前海外のバンジージャンプで見た誓約書と似たものだった。
「えっと……一体これは……?」
信がおずおずと質問すると、おちゃらけていた知世の表情が真面目なものになった。
「強い力には必ず代償というものが存在する……百五十年前、『時を止める』という強力な【魔法】を持つ少年が現れた。だが、【魔法】が判明した直後にこの少年は死亡した。原因は彼の【魔法】には『禁止事項』というものが存在したからだ」
知世は一息おいて説明を続ける。
「彼の『禁止事項』は『他人に自身の【魔法】を知られる』それを破ったら『死ぬ』というものだった。他にも、このような『禁止事項』を持つ【魔法】はいくつもある。『生物を殺す』破ったら『死ぬ』、『嘘を言う』破ったら『喋れなくなる』など上げ始めたらきりがない。もし、君が少年のような『禁止事項』を持っていた場合、学園は責任が取れない。だから、君にその誓約書を書いて貰うんだ。勿論、やめてもらっても構わないよ。決めるのは君だ」
「――」
唐突に突きつけられた死の可能性。
――怖い。凄く怖い。
だが、ここで逃げたら『魔法使い』になれないということは何となくわかった。
なら、答えはもう決まっている。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
「君みたいに即断即決は珍しいよ……」
信は数秒悩んだ後、誓約書に名前を書き込んだ。
知世に書き終えた誓約書を手渡すと、信は顕微鏡の前に誘導された。
「それじゃあ、ステージの上に腕を置いて」
はい、と指示に従い、少し筋肉のついた腕を顕微鏡のステージの上に置く。
「それじゃあ。覗くよ」
知世が踏み台に乗ってレンズを覗く。
信は肩をぐっと緊張させると同時に――『属性』が告げられた。
「君は……おめでとう。【特異型】だ」
先程話に上がった【特異型】だったので、心臓がバクバクとより大きな鼓動を鳴らし始める。
引っ掛かるな、引っ掛かるな、と信は『禁止事項』に引っ掛からないように強く願った。
「で、【魔法】は……【魔法】は…………」
そわそわしながらその時を待つ。
しかし、いつまで経っても発表されない。
(遅い……)
信は痺れを切らして聞いてみた。
「あの、信の【魔法】はなんなんでしょうか?」
難しそうな表情をしている知世の唇が動く。長い沈黙を破り、ついに信の【魔法】が、
「ごめん、わかんないや」
「…………ふぇ?」
発表されなかった。
【魔法】がわからないのには理由がありますが、しばらくは――というか、かなりの間わかりません。