王道の幼馴染
楓と和也が恋人になったという話は、あっという間に同学年のクラスで広まった。
昼休みに楓は美奈と教室で談笑していた。
「どこに行っても、本当に亜武くんの彼女なのかって聞かれる」
「そりゃ、そうでしょ」
「え?」
「モテモテなのに、なぜか今まで一度も彼女を作らなかったイケメン男子に彼女ができて、しかもその彼女が美人でもない、ふつうの女の子なんだから」
「……そうだよね」
「亜武くんは人気者だからね。衝撃的なニュースであることは間違いないよ」
教室のドアが勢いよく開き、姫橋瞳が入ってきて楓に近づいてくる。
「こんにちは。あなたが伊藤楓さん?」
「はい、そうですけど」
うわー、美人だなー。楓は瞳の美しさに気おされる。
「ちょっと話せない?」
「はい。いいですけど」
「場所、変えていい?」
美術室で向かい合って立つ楓と瞳。
「あなたが和也の彼女になったって話、本当なの?」
「……はい」
「へぇ……」
「あの、あなたは?」
「私は姫橋瞳。和也の幼馴染よ」
「亜武くんの幼馴染……」
「聞くところ、初めて話したのが昨日、付き合い始めたのも昨日。……和也について何を知ってるの?」
「え?」
「和也の趣味、好きな食べ物とか、何か知ってることってあるの?」
「……何も知らないです」
「和也のどこが好きなの?」
「……どこと言われても」
「ただかっこよくて人気者だから和也の彼女になったんでしょ?」
「ち、違います」
「本当に和也のことが好きなの?」
まっすぐな言葉と真剣な表情を向けられ、私は言葉に詰まった。
……この人、もしかして。
「⁉ あなた……本当に⁉」
すぐに返答しない楓に違和感を覚える瞳。
「あっ……好きですよ」
その瞬間、美術室のドアが開き、和也が入ってくる。
「伊藤さん?」
和也は楓と瞳を見る。
「亜武くん……」




