お願い
「視界が真っ暗になる?」
「うん。なんの前触れもなく真っ暗になる」
「目をつぶってないのに?」
「そうだよ。意識もあるし、話せるのに、何も見えなくなる。時々だけどね」
「何が原因なの?」
「原因不明。脳の病気だよ。医者もお手上げ」
「そんな……」
「伊藤さん。今、付き合ってる人いる?」
「いないけど」
「じゃあさ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「俺の恋人のふりをしてくれない?」
「は?……何て?」
「2ヵ月間、彼女のふりをしてくれない?」
「彼女⁉」
「お願い!」
「何で私が⁉」
「俺の病気を知ってる唯一の同年代の女の子だから」
「だからって、何で彼女のふり?」
「俺、今まで女の子と付き合ったことないんだよ」
「え? 凄くモテそうだけど」
「うん、自分で言うのもなんだけど俺、モテるんだよね」
「自分で言っちゃったよ」
「だけど、恋人つくったことないから、周りから男が好きだって疑いをかけられてるんだよ」
「……ああ」
「そうじゃないのに、そういう誤解をされるのは結構苦痛なんだ」
「じゃあ、彼女つくれば?」
「俺は中一の夏休みにこの病気が発症したんだけど、その時から彼女はつくらないって決めた」
「……なんで?」
「大人ならまだしも、中学や高校の同い年の女の子に余命わずかの彼氏は酷でしょ」
「……」




