余命
校門から2人は一言も話さず、楓は和也の一方後ろを黙ってついていく。
人通りの少ない道になり、ようやく和也が口を開く。
「病院の廊下で会った時、どっかで見たことあるって思ったんだ。走って逃げていく姿を見て、ようやく同じ高校の人だって気づいた」
「……私は目立つようなタイプじゃないのに、よく気づいたね」
「普段から、人の顔はよく見てるから。あの後、すぐに追いかけようとしたけど見失った。足、速いんだね」
「ううん、近くにあったトイレに隠れた」
「なんだ、だからかー。なんで、病院にいたの?」
「お父さんのお見舞いで」
「なるほど。ここから結構距離のある大きな病院だし……油断してたな」
マンションの屋上に2人だけで立つ楓と和也。
「ここなら誰かに話を聞かれることもない」
「ここ、亜武くんのマンション?」
「違うよ。子供の時の秘密の遊び場」
「そうなんだ」
「さあ、本題に入ろう」
「……」
「病院で俺の会話をどこまで聞いた? 走って逃げたくらいだから一番知られたくないことは知られちゃってるだろうけど」
「……」
「嘘はつかないでね」
「……高校卒業までは死にたくないって」
「やっぱり聞かれちゃったよね」
「余命を宣告されたの?」
「あの時、あの患者さんに聞かせるための作り話って言ったら信じる?」
「……」
「あはは、少し無理があるよね」
「あと少ししか生きられないって本当なの?」
「本当だよ。もうすぐ俺は死ぬ。余命は、あと1年くらい」
「でも、全然そんなふうには見えない」
「そういう病気だからね。目立った病気の症状はほとんど現れない。ただ一点……視界が真っ暗になることを除けばね」




