別れ
廊下は静まり返る。
黙っている楓と和也。
「わかったでしょ、和也。あんたの彼女は、こういうことを平気でやれる女なの」
「……まさかの浮気かー」
おどけて言う和也。
「……」
黙っている楓。
「伊藤さん、あとで話そう」
「……うん」
「何を話す必要があるの? 最低な女だって十分わかったでしょ?」
「……おまえの友達に趣味の悪い盗撮野郎がいることはわかった」
「! それはっ……」
「まあ、これは俺と伊藤さんの問題だ。行こう、授業が始まる」
「和也! その女は嘘つくだろうけど、騙されないで!」
「……忠告どうも」
瞳を残して、楓と和也はそれぞれの教室にもどった。
放課後、楓の教室に和也が入ってくる。
「伊藤さん」
「うん」
楓は席を立ちあがる。
「ついてきて」
「わかった」
マンションの屋上に立つ楓と和也。
亜武くんと偽の恋人関係を結んだ場所……。
「今日はあいにくの天気だね」
空を見上げて和也は言う。
「そうだね」
「土曜日に一緒にいた男って誰?」
「木曜日の帰りに、その人が落としたバッグを拾って、そのお礼にごちそうしてくれたの。そのあと流れでレジャーランドに行ったんだ」
「……そっか」
少し考えて、口を開く和也。
「偽の恋人関係、終わりにしようか。この関係を始めて、7日目だけど、彼女を作ったって十分広まったし」
「……」
「別れた理由はこうしよう。俺が大学生の女性と最初に浮気して、それが伊藤さんにばれて、伊藤さんの方も他の男にアプローチされて別れたことにしよう」
「亜武くんが悪いってことになっちゃうよ」
「いいよ、俺が巻き込んだんだし。伊藤さんが恋愛できるチャンスを奪ってたんだから。ごめん、迷惑かけて」
「ううん、本当に楽しかったよ……」
「俺も楽しかった……短い間だったけど、ありがとう」
「……私の方こそ、ありがとう」
私たちの偽の恋人関係は終わった。




