迷い
楓は広樹とレジャーランド内を回り、3時間ほど経った。
亜武くんとは違って、木村さんは大人っぽくエスコートしてくれて、違った楽しさを感じる。
「こっちに来て」と楓は広樹に手を引かれて、細い道に連れていかれる。
「何ですか?」
「あのさ」
「は、はい」
「伊藤さんのことが好きだ。僕と付き合ってくれないか?」
「へ⁉」
「落としたバッグを拾ってくれた日、バッグの中にある祖母の形見を確認したときに伊藤さんの『よかった』っていう言葉を聴いて、そのとき僕は恋に落ちた。伊藤さんに運命的なものを感じた」
「え……」
「そして今日、一緒に過ごしてみて、ずっと一緒にいたいと思えた」
至近距離にある広樹の顔にドキドキする楓。
「僕じゃダメかな? 可能性がないって言うなら、引くしかないけど」
楓の中で亜武の顔が浮かぶ。続いて亜武の声が脳裏をよぎる。
『2ヶ月経ったあとは――それで俺との関係は終わり』
「……」黙る楓。
「僕が恋人になれる可能性、ないかな?」
「……わかりません」
「もしかして、彼氏いる?」
「……いるような、いないような」
「彼氏がいても関係ないよ。最後に僕を選んでくれればいい」
「……」
「僕なら、そんな男よりも伊藤さんを深く愛せるし、金銭面でも何不自由ない生活を約束できる」
「……」
「どうかな、はっきり言ってほしい。僕が伊藤さんの恋人になれる可能性はない?」
「……ぜ、ゼロじゃないです」
「本当に⁉」
「……はい」
私と亜武くんは付き合ってるわけじゃない。2ヶ月経てば終わる、偽の恋人関係。その偽の関係のために私を好きだと言ってくれる木村さんの告白を断るかどうか私は迷っていた。




