落とし物
放課後になり、楓の教室に来る和也。
「ごめん、頼み事されたから先に帰っといて」
「わかった」
亜武くんは先輩に頼み事をされたらしいので、遊びの計画は中止となり、私は一人で家に帰ることになった。
家の前に着く楓。すぐそばに落ちている鞄が目に入る。
なんだろう、このバッグ……。他校の生徒のバッグだよね? 自分の家の近くにバッグが落ちたままっていうのも嫌だな。交番に届けよう。
楓は鞄を持って、来た道を引き返す。
1分後、自転車に乗っているイケメンとすれ違う楓。
「あ!」という声が聴こえて、楓は振り返る。
自転車から降りて、楓のもとに近づいてくる華やかなイケメン、木村広樹。
「そのバッグ、もしかして落ちてた?」
「はい」
「僕のバッグかもしれない。見せてほしい」
「わかりました」
「バッグの右の内ポケットに生徒手帳が入ってる。名前は木村広樹」
そう言って、バッグを開け、生徒手帳を内ポケットから取り出して楓に見せる広樹。
「ああ、よかったです」と楓は生徒手帳を確認して安堵する。
「君が拾ってくれたの?」
「はい、家の前に落ちてました」
「本当にありがとう。名前は?」
「伊藤楓です」
「どこの高校?」
「北高です」
「北高の伊藤楓さんね」
「僕は南高3年生、木村広樹。携帯の連絡先、交換しよう」
「え?」
「お礼をさせてほしい」
「いや、いいです。そんなこと」
「今、急いでて、時間がないんだ。連絡先を教えて」
急かされた楓は携帯を取り出し、赤外線で連絡先を交換する。
「ありがとう。あとで連絡する」
広樹は自転車に乗って去っていった。
夜、楓の携帯に広樹から電話がかかってきた。
半ば押し切られる形でお礼を受けることになった楓。
「土曜日の予定はない?」
「今のところ特にないですけど」
「じゃあ、土曜日の朝10時にミリュダというレストランに来てほしい」
「……わかりました」
ネットで調べると高級レストランだった。




