本音
私と亜武くんはクリームを口の周りにつけて笑いながら歩く。
「朝は亜武くんと何を楽しむんだろって思ってたけど、亜武くん、ふざけたり、いたずらしたりするから、すっごく楽しいよ」
「俺も伊藤さんがどんなことにも笑ってつきあってくれるから楽しいよ」
「だって、おもしろいんだもん」
夜になり、私と亜武くんは柔らかい風にあたりながら、テーマパークの景色を見る。
「もし、伊藤さんが今、俺と同じ病気になったらどうする?」
「……お金がないなら小説や映画、ドラマを楽しむかな」
「そっか」
「あとは他にも自分が夢中になれるものを最期まで見つけようとするかな」
「うん」
「亜武くんは? どうしたいの?」
「俺は最期まで誰かと思いっきり笑い合っていたい」
「うん、いいと思う」
「今日みたいに楽しんでいたい」
「友達となら、もっと楽しめるでしょ」
「いや、今日は久しぶりに心の底から楽しめた」
「え?」
「伊藤さんは俺の余命を知っても、全然そんなこと気にせず一緒になって楽しんでくれるから俺も余命があることを忘れちゃったよ」
「私が気遣いできないみたいに聴こえる」
「あはは、そんなことないよ」
「だって、誰であっても明日があるなんて保証されてないでしょ。私だって明日、交通事故に遭って死ぬかもしれないし」
「そうだね。これからも今日みたいに接してほしい。伊藤さんと一緒に過ごすことでしか感じられない楽しさがあるから」
「大げさじゃない?」
「いや、本当のことだよ」
亜武くんに見つめられ、私はドキッとして顔をそらす。
……偽の彼氏だとわかっていてもドキドキする。
「今日一日、本当に楽しかった。ありがとう」
「私も本当に楽しかった。ありがとう」




