未来の先生
カフェから出た楓と和也は星空の下を歩く。
周りに人はいない。
「伊藤さんの夢は先生かー」
「うん、私は先生みたいな教師になりたい」
「その先生に会ってみたいな」
「先生は去年、亡くなったよ」
「え? なんで⁉」
「過労死」
「働きすぎて倒れたってこと?」
「教え子のために頑張りすぎちゃう人だったから。去年、何人かの教え子の問題を同時に解決しようとしてて、ほとんど寝ないで頑張ってたみたい」
「そんな……」
「お葬式には、たくさんの教え子が集まって涙の嵐だった」
「そっか……残念だな。あと少しで消える俺にどんなことを教えてくれるのか興味があったんだけど」
「色々な場所に行ってみれば?」
「俺の家は家計が切迫してるし、バイトしようにも真っ暗になるから迷惑がかかる。部活も同じ理由でできないし、そもそもいつ消えてもおかしくないから時間をかけて何かに取り組もうと思えない」
「じゃあ、小説や映画を楽しむとか」
「そうだね、それは一つの方法だね……」
亜武くんは考え込むようなしぐさをしたあと、私を見た。
「伊藤さん」
「何?」
「明日、一緒に学校をずる休みしない?」
「え?」
「明日、一緒にテーマパークで遊ばない?」
「なんで?」
「伊藤さんと遊びたいって思うから」
「私と遊んでもつまんないよ」
「遊んでみなければわからないでしょ?」
「土曜日とかでもいいじゃないの?」
「土曜日まで生きてるかわからないし。お願いだよ、未来の先生」
「……わかった。私でいいなら、つきあうよ」
「やった! じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
私たちは学校をずる休みしてテーマパークで遊ぶことになった。




