いじめ
「中学のとき、いじめられてたの?」
「うん、一通りのいじめは受けた。死にたいって思うほど追い詰められた」
「……」
「でも今、私は生きてる。それは先生が救ってくれたから。先生が希望を見せてくれたから」
「教師がいじめを解決してくれたんだね」
「いや、いじめは卒業まで続いたよ」
「は?」
「簡単に解決できるいじめじゃなかった」
「じゃあ、どう救ってくれたの?」
「先生は希望を見せてくれた」
「希望?」
「そう、希望。いじめが始まったのは中学2年のとき。それまでは、まさか自分がいじめを受けることになるなんて考えてもみなかった」
「いじめは誰であってもターゲットになりうるからね」
「うん。でも、私はいじめを受けるような要素をもっていないつもりだった」
「たしかに、いじめられやすい子といじめのターゲットになりにくい子はいるからね。……原因は?」
「私の不注意」
「不注意……」
「クラスの女子のリーダー格の子と図書室で本を探してたんだけど、本棚から本を取ろうとしたら、その子も同時に手を伸ばしてて、お互いの手と手がぶつかったの。そのとき私の爪が、その子の手の甲に勢いよくあたって肌に傷ができたの」
「それくらいで……」
「ううん、傷口から血は止まったんだけど、傷跡は何日経っても消えなかった。薄くはなったけどね」
「……」
「それが引き金となっていじめが始まった。私は精神的に追い詰められて死にたいと思った。そんな中、小学校の頃の担任の先生が思いつめた顔で歩いている私を見かけ、声をかけてくれたの。私から事情を聞いた先生は中学校で事情を話してくれた」
「いじめはなくならなかったの?」
「目に見えるようないじめはなくなったよ。でも、教師が追及しても、いくらでも言い逃れることができる陰湿ないじめはなくならなかった」
「……巧妙な手口のいじめは厄介だからな」
「その状況を先生に話したら、先生は私に希望を見せてくれた」




