秘密
「俺の恋人のふりをしてくれない?」
亜武和也は伊藤楓を見つめて言った。
「は?……何て?」
楓は耳を疑い聞き返す。
「2ヵ月間、彼女のふりをしてくれない?」
「彼女⁉」
私は彼の秘密を知ったことにより、とんでもないことに巻き込まれていく。
2日前、楓は病院の廊下を歩いていた。
携帯の着信が鳴り、母からだったので電話に出る。
「もしもし? うん、お父さん安静にしてたよ。今ちょうど病室から出て家に帰るところ。じゃあね」
階段を降りようとすると、上の階に続く階段の踊り場に隣のクラスの和也がいたので、楓は立ち止まり、姿を見られないように一歩もどる。
和也は患者の男性と話をしていた。
「そうですか。薬、効いてるんですね」と和也は言う。
「うん、亜武くんの調子はどう?」
「医者が言うには、あと1、2年くらしかもたないそうです」
「?」
和也の言葉の意味がわからない楓。
「そっか……。同じ余命を宣告された者同士、残された時間を精一杯生きていこうね!」
「はい。高校を卒業するまでには死にたくないです」
「⁉」
和也の言葉に耳を疑う楓。
「希望を捨てないでね」
「……はい」
和也は物悲しげに笑う。
「じゃあ、僕はこれから手術だから」
患者の男性はそう言って階段を上がっていく。
「頑張ってください」
そう言ったあと、和也が階段を降りてくる音が聴こえる。
「!」
楓は急いで引き返そうとする。
「きゃっ!」
後ろから歩いてきたナースとぶつかって転ぶ楓。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
楓は早く立ち上がろうとする。
「よかった、ごめんなさいね」
「!」
ナースは顔を上げた瞬間に何かに気づく。
「亜武くん、来てたの?」
和也に声をかけるナース。
「……はい」
「っ!」
楓が振り返ると後ろには楓を見下ろす和也が立っていた。




