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Justice or Die  作者: 勝次郎
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4

薄暗く湿った路地裏、僕は息を荒らげていた。




 肩を使って空気を取り込む。何度やってもこの瞬間に馴れることはない。




 目線をしたに下ろす。そこには半身が蛇で半身が人間の生き物がいた。




 そいつは体を傷だらけにして、倒れていた。




 何か口を動かし悲鳴にも似た何かを呟いていた。




「耳を貸すな。やれ」




 しかし、僕は無慈悲に鉄槌を下す。正義のために、正義と信じたその行いを。




 眼下に広がるのは血の海だ。




 僕はどのような理由であれ、1つの命を奪った。その奪われた命にどんな罪があろうと、僕はその命を奪った。その時点で僕の罪は、僕の命の罪は計り知れないものだろう。




 僕は相変わらず殺戮者を殺し回っていた。





 ◆





 あの日、彼女に救われた日、僕は彼女と契約を結んだ。




 余命を伸ばして力を授ける代わりに、殺戮者という人類に仇をなすものと闘うという契約を。




 話を聞くとどうやら彼女は人間ではないらしい。正確には人間であったものらしい。およそ数百年の間、殺戮者と呼ばれる異形と闘い続けてきたのだという。




 耳を疑い、半信半疑だった僕に、彼女は小馬鹿にするように告げた。




「さっき目の前で見てただろ。それ以上の証拠が何処にある」




 異形改め殺戮者は、古来から人類に仇をなす存在らしかった。




「妖怪や化け物として現世に伝わってるものの半数は殺戮者だぞ」




 その補足は納得のいくようで納得のいかないものであった。




「じゃあ君は数百年の間、ひたすら殺戮者を殺し回っていたってこと?」




「あぁ、まさしくその通りだね」




 誇らしげに腕を組み、鼻をならす彼女は、そこはかとなく上機嫌だった。




「君は一体何者なんだ?」




「私か? 私も殺戮者さ」




 屈託なく答えた彼女に、疑問は募るばかりであった。




「君も殺戮者というやつなのか?」




「あぁ、そうさ。私も殺戮者さ。じゃなきゃあんな角とか生えてこないだろ」




 確かにそうだが……




「今はそんなことはどうでもいいだろう? 君は正義のために何かをしたい。そしておまけに寿命まで伸ばせる。願ったり叶ったりじゃないか」




 彼女は下品な笑みを浮かべ、そして僕はなにも言えずにいた。




「そういえば、君の名前を聞いてなかった」




 僕は咄嗟にそう口走った。もう名前なんてどうでもいいようなこんな状況で、僕はあくまで人間的な感性の元生きているのだ再確認した。




「私の名前か……」




 彼女は考え込むように唸った。自分の名前だ。普通に考えれば悩むようなことはない。しかしながら彼女は頭を抱えていた。




 暫く後、唸り声が収まった後に彼女は答えた。




「私の名前はナナだ」





 ×





「「えぇ?! 嘘だった?!」」




「流石にからかうのもいい加減に……」




「良かったわ!!!!」




 いつもの喫茶店にミキタカの声が響き渡る。




 細かな内容を伝える訳にはいかない僕は、彼らには余命宣告のことを嘘だと伝えることにした。




 その結果が上記の反応であった。




 守は嘘をついた(ことになっている)僕の言動に苦言を呈したが、ミキタカの喜びようによってそれはうやむやにされてしまった。




 ナナと契約を結んだ俺は、どうやら本当に寿命というものを伸ばしたらしかった。




 そして、僕たちの食べていた明太子スパゲティは、僕の長話で伸びきってきた。




 彼女と契約を結んでから既に一週間。あのあと医者で再検査を受けた結果、病魔は嘘のようになくなっていたという。




 そして、それと同時に、僕には正義の味方としての力と義務が課せられてしまったことも実感していた。




 僕はその後何匹もの殺戮者と闘いを繰り広げた。初めは何度も死にそうになったが、段々と要領をつかんできてはいた。だが、正義のためとはいえ、何か生き物を殺すという感覚は気持ちのいいものではなかった。




 半蛇半人の化け物や伝承の通りの鬼、形すら成していない異形の肉等、様々な化け物を屠ってきた。しかし、彼らは一概に化け物ではあったが、その最後は助けを求める姿は、人間と何らかわりはなかった。




 悲痛に歪む彼らの顔が脳裏に過る。そしてそれを無慈悲にもぐちゃぐちゃ打ちのめす自分の後ろ姿も……




 僕は正義を貫いている。その気持ちだけでなんとかやっているようなものだった。




 ナナは「こいつらをのさばらせて置けば、誰か他のヤツが殺されるぞ? それでもいいのか?」そう言う。それが動機付けになっているかは別として、僕はその言葉に従わざる負えないのだ。




 しかし、しかし…………




「いやぁ、良かったよ! お前が死ななくて!」




 ポンッと突然にミキタカに肩を叩かれ、僕は我に帰る。




「いや、その、なんかごめんな」




 僕は謝ることしか出来なかった。




「おい、そろそろ授業始まるぞ」




「お、いくか」




 守の催促で皆が立ち上がる。それぞれがメニューの勘定を済ませると授業へと向かった。





 ▽





 授業をすべて終えた僕は、帰路へ着くわけではなく、神社へと向かった。




 バスを吉祥寺駅手前の神社で降り、僕は境内へと足を進めた。




 相変わらず人気がなく、外界とは一線を画すみたいな雰囲気を漂わせる境内は、ひんやりとしていた。




「来たか」




 燈籠の上に腰を掛けるナナは、僕の到着に気づくとそこから飛び降り、無邪気な子どものように駆け寄ってきた。




「今日は一体どんなやつだい?」




 契約から既に一週間以上。僕は契約日の後日から殺戮者と闘いを繰り広げていた。




 基本的にはこの境内でナナから対象の情報を聞き、その後対象のいるポイントへと彼女と共に向かい、そこで対象を殺すという手順であった。




 そして、ナナは今日も対象の情報をつらつらと述べ始めた。




「今回の対象は河童だ」




「河童??」




「なんだ? 知らんのか?」




「いや、流石に知ってはいるけど……」




 河童。聞いて覚えがないと言えば嘘になるが。そんなストレートに言われてもという感想が出てくる。




「河童ってあの、皿がのってる河童のこと?」




「まぁ、そうだな」




 殺戮者は古来より存在するらしく、僕たちの知っている妖怪や神様、異形の者たちは、案外殺戮者であることが多いらしい。だから今回の河童も殺戮者であったというだけの話なのだろう。




「まぁ、今回に限っては現地で直接殺り合って見た方が話が早いだろう」




 ナナはそう言い終えると、地面に手を起き、何かを唱え始める。




「――――――――――」




 すると幾何学模様のような円陣が地面に現れ、僕たちを包んで行く。




 これはナナの使う移動方法であり、魔法のようなものであるらしいが、詳しく説明はしてくれない。




 足元から光がせりあがり、僕たちの体を包んで行く。




 まるでMRIの光を当てられるように、光の当てられた部分から空間から消失ゆく。




 初めは恐怖を感じたものだが、今ではなれたものだ。




 その光は最後には頭までを包み込み、数秒の暗闇の後、僕ら人気の無い路地裏にたっていた。




「ふぅ、着いたぞ」




 一仕事終えたといった様子のナナは、僕の後ろで一息ついていた。




 僕は河童のイメージとかけ離れたこの路地裏についての説明をナナに求めた。




「川じゃないの?」




 彼女は分かってないなぁといったジェスチャーと共に、僕の足元を指差した。




 そこにはマンホールがあった。そして、そのマンホールの横にはずらされた摩擦痕があり、そして、そのマンホールから続く、いやそのマンホールへと続く血痕があった。




「これって……」




「やつはこの中だ」




 下水道。どうやら現代の河童は住みかをかなりの方向でシフトチェンジさせたようだった。




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