涙 景色 手
結局、此処からこの場所から始まったんだと思う
フェンスの向こうに見える青と風に揺れる白、君はそこで何を見ていたんだろう
「ごめんなさい」
僕は条件反射のように謝ってしまった
友人のお見舞いの帰り、なんとなく寄った屋上で女の子が涙を流していたから
こんな場面だと、普通は見て見ぬふりしたり。きざな人はハンカチを差し出したりするんだろうけど、僕は思わず謝ってしまった
「いいえ。目にゴミが入っただけなの気にしないで」
今この瞬間に初めて出会った僕でさえ分かる嘘
彼女の眼は赤く充血していたし、少し腫れぼったいような気もする
だから僕は今度こそ、大人の対応をした
「日向ぼっこの最中でしたか?」
「くすっ、そんなところです」
日向のように笑う彼女を見て、僕もつられて笑った
僕は彼女がもたれかかっているフェンスに近付き、少しお話ししませんかと声をかけた
正直知りたいと思った彼女の事を、見つめている先を、その瞳の中を
「今日は誰かのお見舞いですか?」
「はい、友達が入院してるんです。入院っていってもドジって骨折したからなんですけどね」
僕はいかに友人がドジだと言う事を話し、彼女はそれを微笑みながら聞いている
そう言えばまだ名前を聞いていなかった
「これも一つの出会いですし、せっかくなので自己紹介しておきます
藤沢 猛です。一応身分は高校生3年生です。え〜と、よろしくお願いします?」
なんだか新入生の自己紹介みたいになってしまった
けど彼女が笑っているので、自分を褒めてやる
「はい。私は水野 光と申します。こちらこそよろしくです
あと同い年のようなので、ここからは無礼講でいきましょうか」
妙な茶目っけで話すもんだから、つい笑ってしまった
「ああもう笑わないでくださいよ」
それからお互いの事を、主に僕が喋り彼女は笑っていただけだけど
いつの間にか太陽は沈もうとしていて、見事な夕日が出ていて、僕たちは黙ってそれを眺めていた
「キレイですね」
「ふふ、ありがとうごじます」
いや僕は夕日を見て言ったんだが……
「そういえば水野さんも誰かのお見舞いですか?」
白いワンピース姿で、健康的とは言えないほど肌は白かったけど
彼女は病人にはけして見えなかった
「ふふ、私はこれでも患者さんなのです。見えないんです、目が」
ああだからか
「後天性なんだそうです。元通り回復する見込みはないんですって」
君の瞳はこんなにも綺麗
「さて私はお先に帰りますかね、そろそろ迎えの時間なので」
まるで失望した? とあざけ笑うように、彼女は微笑みを残してドアに向かって歩いて行く
右手に杖を持ちながら
夕陽をバックに歩いて行く彼女はここから何を見ていたんだろう
何を思って涙を流したのだろう
ここから見える景色はあまりにも綺麗すぎて僕も泣きそうになったが、それは飲み込んでおく
その前にまだやることがあるから
突然開いたドアに彼女はびっくりしたようだ
「さあ、お手を」
優しく彼女の手を握り、階段を下っていく
フェンス越しの赤に揺れる白、僕の掌に君の掌を