第6話 夢の中の夢の中
真っ暗な空間に彼が居た。うん。夢の中の彼だ。
えっ…?思わず声が出る。
なんで彼が居るの???
彼は勿論私の事なんて知らないハズ。
許してもらえないかもしれないけど、というか信じて貰えないかもしれないけど
彼の眼を借りてずっと生活を見ていた事を謝ろう。
「「あのっ…」」
ハモッた。
落ち着け。ちゃんと一から話をしよう。
……落ち着いて話をしてみたけど、彼は思った通りの人だった。
優しく、気さくで、明るくて、お調子者だ。
私は夢で私自身の生まれる前の記憶なのか、それとも他の人の人生を覗いているのかと常々疑問だった。
もし他の人の人生を覗いていたのなら、万が一、億が一にでも会えた時には謝ろうと決めていた。
だってプライベートが筒抜けなのだ。怒るにきまっている。
だけど、彼も私の目を通して私の世界を覗いていたらしい。
彼も私に会えたなら謝ろうと思っていたと言っていた。
まぁ結構というかかなり恥ずかしいけどお互い様だし、ビンタ一発で許してあげよう。
理不尽?乙女の秘密を知っているのが悪いのよ?
せっかく彼と話が出来たのだ。今まで音のない世界で見ているだけだった彼の世界の不思議に
ついて色々聞きたいものだけど、それより何よりまた彼に会いたい。
だって今まで18年もの間ずっと見てきた私の半身みたいなものだから。
こういう時は原点に戻る事が大事。
いつもと違う点をお互い挙げてみよう。相違点が分かればきっと条件も洗い出せる。
ストレージから宿の無料のワインを出して一緒に飲みながら考えてみた。
1.彼も私も同じ時間帯(昼夜逆転なのは彼も同じ認識)に寝ている事。
2.私が商人の弟子を卒業した事。
3.彼が「大学生」になった事。
4.私も彼もお酒を飲んで寝た事。
5.私が高級宿に泊まった事。
6.彼が彼女の家に泊まった事。あ、覚えてなかったんだ。ご愁傷様。でももげろ。
7.私が宿のメイドと一緒に寝ている事。百合GJと言われた。違うもん。
違いはこんなものだろうか。
まず、1と何かの複数条件だろうというのは彼との共通推理だ。
今までに2人とも寝ていた事だってあったが、真っ暗な状態だったし、
真っ暗な状態から彼が目覚める所も見た事がある。
弟子を卒業した事や、彼が大学生になった事が条件なら
これから毎日会えるのだから心配する事はない。
彼も私もお酒を飲んでいるというのは結構あやしいと思っている。
聞いたところ、彼は今までにお酒を飲んだ事はなく、
初めて飲んだと言っていた。
あやしい。これはあやしい条件だ。