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第十一話 不満と憎しみ

 11月7日、月曜日。

 例の動画の再生回数は、土日でだいぶ増えた。痛い人ブログでは担任絡みの記事が書かれ、コメント数も結構な数になっている。その多くは黙認していることに対する批判だったが、保坂が被害を受けている理由を追及するものも少なくない。保坂の悪評に関するコメントが投稿されると、その真偽が問われる流れとなる。

 悪評の出所が探られ、日曜の朝にはキッカケとなった平塚悠仁がフラれた話が出ていた。そして昼過ぎには、彼が同級生の男子に対し、合コンに参加するかわりに悪い噂を流せと指示しているのを見たという投稿がされる。

 平塚悠仁に憧れを抱いていた女生徒の中には、その悪評に便乗するかのように、保坂に対して嫌がらせをする者が出たともあった。手が届かない憧れの存在を振った女が許せない、そんなところかもしれない。

 匿名での書き込みなので信憑性は薄いが、大きな矛盾は見当たらない。おそらくは事実なのだろう。

 この広がり具合なら、担任の耳に入るのも時間の問題だ。



 朝のホームルームは、担任の代わりに副担任が来た。何でも、急な会議が入ったらしい。気になるのは大輝もいないことだ。今日は遅刻せずに来ているので、ホームルームにいないとなると、その会議に呼ばれたのではないかと思えてならない。

 例の件が議題にあがっているのだとすれば、まさに願ったり叶ったり。憎しみを抱かせるのも楽になるというもの。



 昼休みに例の動画を確認しようとしたところ、大輝のアカウントごと削除されていた。手近なところから手を打ったのだろう。

 だが、例のブログの記事は消えていない。それどころか、こうなることを予見していたのか、大輝のアカウントでアップした動画を別の動画サイトにあげ、そこのリンクを貼り付けていた。

 動画投稿者名は、孤高の自室守り人ミッチー。あのブログの記事を書いた人物と同じだ。

 次はミッチーなる人物に削除依頼でも出すのかもしれないが、こういう輩が素直に依頼に応じるとは思えない。





 11月8日、火曜日。

 例のブログを確認したところ、“学校から削除依頼が来た”という記事が作られていた。こんな記事を書くということは、削除する気など毛頭ないだろう。

 学校側は、お問い合わせフォームを使って送信したらしく、お問い合わせ内容等の項目名があるメールの文章がキャプチャーされ、記事の冒頭に貼られていた。

 学校側の“本人の許可なく撮られた動画をアップしないように”という文章の下には、“そんなことを言って、いじめ問題の証拠を消したいだけだろ? この隠蔽体質学校が”とある。

 その横には、いじめ問題に関する書籍の広告が出ていた。サイトのページ内容に連動して表示される広告枠なら、こういう商品が掲載されてしまうのだろう。

 この削除依頼に関する記事によって、コメント欄は更なる盛り上がりを見せていた。学校や教師に対する不満が書き連ねられ、その矛先は嫌いな生徒に転じようとしている。



 朝のホームルームをしに教室に来た担任の苛立ちは、今まで見たことが無いレベルに達していた。これもう、例の動画は知っていると考えるべきだろう。あのブログを削除したい心境だろうが、大輝のようにアカウント主を掴まえて消せとは言えない。

 何故なら、孤高の自室守り人ミッチーが誰なのか、学校側はわかっていないのだから。知っていたら、お問い合わせフォームを使わずに直談判したハズだ。



 彼女の憎しみを引き出す方法が順調なので、明日のバトルで使う物の検討に移る。前回の戦いで気づいたのは、身を守る物の重要性だ。ptの消耗戦に入ってしまった場合、ptを消費しない防具が勝敗を左右する。

 学校で手に入る防具と言ったら、剣道のそれか野球のプロテクターになる。審判員用のプロテクターなら、練習時には使用しないので、違う場所に運んでも試合まで気づかれないだろう。



 放課後、野球部の知り合いに頼んで部室を見せてもらう。三年生が引退した後なので、今は二年生が天下のようだった。

 “小学校の時に野球をやっていたけど、硬球は触ったことがないから”なんて言ってボールを触りながら、プロテクターがある場所を確認する。部員たちがジョギングを始めた隙に、窓からプロテクターを外に出し、何食わぬ顔で帰路に就く。





 11月9日、水曜日。

 いつもと同じように過ごして放課後を迎える。

 武器探索はやめて、砂利をレジ袋に詰めておく。物がレジ袋なので、持ち歩いても怪しまれない。

 移動中、帰宅部なのに校内をウロウロしている祐樹を見かける。やはり彼も代理バトルがあるのだ。もしかしたら、今日の相手かもしれない。平塚悠仁と共闘していそうだが、二人とも代理人だったら、どんな風に戦っているのか……。

 ターゲットはお互いに違うハズ。代理バトルはターゲットが居る場所で行われるので、共闘する術がない気もする。いや、違う。二人のターゲットが同じ場所に居れば、共闘も可能だ。問題は同じ場所にターゲットを誘導する方法だが、これは単に同じ待ち合わせ場所を指定すればいいのではないか。

 前に平塚悠仁がメールアドレスがどうのと言っていたのは、そういう手配をする為のものだった。そう仮定すると、彼らの共闘体制も見えてくる。どんな感情をエネルギー源にしているのかは不明だが、彼らは相性の良い組み合わせなのだろう。

 いずれは二人も、敵同士になるのだろうが……。


 16:30になったのを確認し、野球部の部室へと向かう。窓の外に放り出したプロテクターを回収する為だ。野球部員に見つからないように、走って取って来ようと思っていたが、グラウンドには野球部員どころか陸上部員の姿もない。奇妙に感じながらも、プロテクターを持って校舎裏に隠れに行く。


 あと数分で17:00という時間になって、体が勝手に動き始める。向かう方向は体育館だ。ターゲットは担任の安東美奈代。彼女が顧問をしている演劇部は、体育館のステージと隣接する部屋が部室となっている。おそらく、そこに向かっているのだろう。


 体育館には、いつもなら練習をしているバスケ部員やバレー部員がいなかった。疑問に思っていると、球体の空気の揺らぎが現れる。


「代理バトル時には人払いをしている。無関係な者は邪魔だからな」


 “無関係な者を巻き込みたくない”ではなく、邪魔だと言い切る辺りに、彼らの人間の見方が窺える。

 体は真っ直ぐにステージに向かって行き、下げられた緞帳をめくってステージに上がった。ステージ中央には劇で使用すると思しき階段が置かれ、その近くにはゲルニカと書かれた台本が置いてある。


「動画を見ましたよ、先生。数学教師だから、結婚できないそうですね~。なんなら、僕が結婚してあげましょうか? な~んて、嘘、嘘。BBAは守備範囲外ですから~」


 見覚えのない男子生徒が、安東美奈代と向き合っていた。

 幅が良の二倍はありそうな巨漢。キノコ頭でギョロっとした目。頬の肉に寄せられて、開きづらそうな口元。生理的に嫌悪感を抱いてしまいそうな見た目をしている。


「四日市君、珍しく学校に来たのは、そんなことを言う為なの? 一年の時、あなたが不登校になったせいで、私がどれだけ迷惑したか」

「僕が来なかったのが、ご不満ですかぁ~。でも、性的な欲求不満に比べれば、大した不満でもないかな。ご無沙汰そうですもんね、ククク……」


 安東美奈代の言葉から察するに、この四日市なる男子生徒は学校に来ていないらしい。道理で見覚えが無いハズだ。

 ステージの下手にいる四日市から距離を取る為に、上手へと移動する。安東美奈代はステージ中央にいるので、代理人がターゲットを挟む格好だ。シニたちが人払いをしたのに、彼がいるということは対戦相手で間違いない。

 四日市と目が合う。彼は良の見て舌打ちした。


「なんだ、男かよ。対戦相手は女が良かったのに……。あ~あ、JKの服を能力でひん剥いて、犯した後に倒すという僕の計画が台無しじゃないか」

「何を訳の分からないことを……」


 良に対して言った言葉に彼女が反応する。自分に言ったと思ったらしい。


「安東先生」


 自分が来たことに気づいていないと思い、彼女を呼んで振り向かせる。


「十河君、どうしたの? そんな野球道具を持ち出して……」

「これは、ちょっと……。それより、あの動画……」

「“不満”を変換!」


 例の動画の話をして、憎しみを引き出そうとしたところで、四日市が先に感情をエネルギーに換える。彼はハンカチを取り出すとライターで火を付け、声高に叫んだ。


「1,000ptで、これを彼女まで移動!」


 自分に攻撃を仕掛けてくるかと思いきや、彼が狙ったのは安東美奈代だった。燃えるハンカチが彼女の上着に張り付き、じわじわと服に引火する。


「2,000ptで、彼女の周りに酸素を集めろ!」


 炎が勢いよく燃え広がる。彼女の上半身は瞬く間に火に覆われた。


「熱い!」


 堪らず彼女がスーツの上着を脱ぎ捨てる。だが、炎は下に着ていたブラウスに移っていた。


「いやぁ~先生、見事な炎上じゃないですか。ネットもリアルも大炎上! ヒュ~!」


 何故、彼女を狙うのかわからずにボーッとしてしまったが、これではエネルギーに変換する前にターゲットが死んでしまう恐れがある。そうなっては勝ち目がない。

 彼女の火を消そうと消火器を探す。体育館の隅にあったような気がし、ステージを降りてみるも見当たらない。


「消火器ならないよ、僕が隠したからねぇ~」


 ステージ上から四日市の声がする。

 それなら水を掛ければと思ったが、近くに蛇口は無いし、汲みに行っている間に焼け焦げてしまう。能力を使って消すのが早いと考え、ステージに再び上がる。

 彼女はブラウスも脱ぎ捨て、ブラジャー姿になっていた。胸部周りの火は消えていたが、髪は燃えたままで、焦げる匂いが漂ってくる。


「シニ、“憎しみ”を変換」

「良、今の彼女に“憎しみ”は無い。彼女を支配している感情は、不安、焦燥、恐怖、苦しみ、そんなところだ」

「何だって?」


 彼の攻撃には“憎しみ”を打ち消す効果もあったと知り、愕然とする。


「イエ~イ、困ってる? 僕の作戦勝ちかな。エネルギー源が“憎しみ”って時点で、この手が使えるって思ったんだ。僕って賢い? 賢いよね?」

「別に」


 鼻で笑ってレジ袋の中に手を突っ込む。砂利を掴んで、思い切り四日市に投げつける。


「うわっ!?」


 いきなり砂利を投げられた彼は、驚いて能力を使えなかった。ボスッボスッと、彼の腹に砂利が当たる。

 痛がる彼を見ながら、休みなく投石を繰り返す。


「石を風で跳ね返せ!」


 ptを消費して、四日市が砂利を跳ね返す。幾つかは安東美奈代に当たり、残りは良の元に返ってきた。それをプロテクターで防ぐ。


「ズルいよ、それ」


 悔しがる彼を無視し、プロテクターに身を隠しながら、砂利を投げて前進していく。投げては跳ね返すの繰り返しの中、なんとか彼女の傍に近寄り、学ランで叩いて頭の火を消す。


「何なの、これは?」


 火を消したというのに、お礼ではなく質問をぶつけられる。

 そんなことを訊かれても、答えている余裕なんてない。面倒なことは彼に担当してもらう。


「アイツに訊いてください」

「四日市君、これは何なの?」

「何って、これは僕らの48人戦争。体なき生命体の為に争う代理バトル。そして僕は“不満”を司る能力者、四日市満。またの名を“孤高の自室守り人ミッチー”」

「意味不明よ!」


 孤高の自室守り人ミッチー……。

 あの痛い人ブログで、この地域を担当している奴の名だ。本当かどうかは知らないが、この発言を活かさない手はない。


「ミッチーって、痛い人ブログの?」

「何? ユー、知ってんの?」


 四日市は驚きながらも嬉しそうだ。自分の仕事ぶりが認知されている、そのことに満足しているように見える。


「あのブログ、四日市君のなの? それじゃ、私のことを書いたのも……」

「オフコース。アクセス数が稼げる良記事だよねぇ~。おっと、そうだ。今の姿をアップしたら、もっとイケるかも。後ろにいる野郎とセットなら、禁断の関係を捏造できるし」

「四日市!」


 スマホを取り出してカメラを向ける四日市を彼女が睨む。その声には“憎しみ”がこもっていた。


「シニ、“憎しみ”を変換」

「290,120ptだ」

「しまった!」


 四日市の顔が引きつる。

 奴がブログの主だと彼女が知った今、多少なりとも彼への殺意もあるだろう。


「200,000ptを“殺意”に変換、彼女に注ぎ込め!」


 “憎しみ”を変換されて肩の力が抜けた彼女だったが、“殺意”を膨らませられたことで、再び全身に力が入る。


「アイツがすべて悪い。あの太い首を絞めたら、スッキリしますよ」


 ズボンのベルトを外して、彼女の手に持たせる。彼女は獣のような唸り声を上げ、殺意に支配された体で彼に迫った。


「な、何を!? 5,000ptの風で彼女を吹き飛ばせ!」

「10,000ptの風で彼女を押し込めろ! 彼女をヤツの元へ!」


 能力を使った風で押し勝つ。

 彼女は風の勢いに乗って四日市とぶつかり、倒れた彼の上に馬乗りになってベルトで首を絞め始める。


「く、苦しい……」


 もがき苦しむ四日市が足をバタつかせる。


「ステージにある階段を、彼の足の上に移動」


 大道具として置かれていた階段で、四日市の足先を押さえつける。これで彼は逃げようがない。


「今ので、14,200pt消費した」

「そう……」


 このままいけば勝てる。帰ろうかとも思ったが、自分のベルトが使われているので、代用品を探すことにする。

 ステージの端にロープがあるのを見つけ、それを彼女のところに持っていく。


「た、助けて……」


 かすれた声で四日市が助けを求める。それに応じたら自分が殺されるだけだ。そういうバトルなのだから。


「四日市……だっけ?」


 彼が頷く。


「君は僕の人生に必要ない」


 そう言って、四日市の首の上にロープを落とす。


「いいもの見つけましたよ、先生」


 その言葉を受けて、彼女はロープに切り替える。使われなくなった自分のベルトを回収し、ズボンに通してステージを離れていく。



 ステージに体が戻されないということは、勝敗は決したのだろう。

 予想していなかったバトル展開になったが、彼の不用意な発言のお陰で救われた。口は災いの元とは、よく言ったものである。

 “自分が言ったことには、責任を持たないといけない”そうだから、言葉というのは使わないに越したことがない。要らないことは喋るだけ損。必要最小限な発言だけで生きていくのがベストだ。




「慣れてきたな」


 校舎を出ようとしたところで、球体の空気の揺らぎが出現する。


「慣れもするよ。もう四戦目だからね」

「君が人に嫌われるのを怖れていた頃が懐かしいな。今では、憎しみを得る為に、嫌われることを厭わない。嫌われ恐怖症は、克服したのか?」

「どうだろう……。ただ、嫌われて当然のことをして嫌われるのは、嫌われないように接したのに嫌われるのとは違うよ。何ていうか、覚悟の差じゃなくて……」


 歩きながら頭の中を整理する。


「そう、予定通りだからだ。相手に嫌ってほしくないという願望を捨てれば、向こうの顔色も必要以上に気にならないし、素の自分も出せるような気がする。嫌うなら嫌え、自分はこうだと思って接していれば、楽だったのかもしれない」

「なるほど」

「結果的に、嫌われたくないという願望が僕を苦しめ、嫌われてもいいやという諦めが僕を楽にしたんだ。まぁ、代理バトルでは、嫌ってくれという願望を持って接してるんだけど」

「ほう、それは興味深いな」


 シニは空気の揺らぎの中に、感嘆符を表現した。


「もう四戦目なんだよね……」


 さっき言った言葉を振り返る。

 48人が24人になり、12人になり、6人となり、そして3人になる。最後のバトルがタイマンでないことは、数の計算をすれば予想できた。


「最後は三つ巴?」

「そうだ」

「相手は誰なんだろう……。祐樹かなぁ? 他の人は、戦いにくい相手とか、いるのかなぁ……」

「心配無用。そういう資質を持った人間を代理人として選んでいる」


 つまり、それは迷いなく相手を殺せる人間が、この学校には48人もいたことになる。


「資質を持った人間か……。まるで、人間としてダメなのばかりいる学校みたいじゃないか」

「否定はしない。人間の倫理観に当てはめれば、そういうことになるだろう。故に、我々は最適だと判断したのだ」


 妙に納得してしまう。道理で、嫌な奴ばかりいると思った。

 人間のクズばかりが集まる環境で、真っ当な人間であろうとするのは難しい。良識ある人間が入れば、彼らの意味不明な言動や気分に振り回され、心身ともに疲れ切っていくことだろう。

 自分も、そのクズの一人に数えられても異は唱えない。これだけ人を死に追いやっておきながら、落ち着いていられるのは人間として何かが欠落している。しかし、安穏と生きている人が、今の自分を批判するのを見たら、同じ立場になったら対戦相手を殺さないのかと問いたくはなるだろう。

 誰かを殺すくらいなら死を選ぶ。そんな選択が出来る人が、この世界に何人いるというのか。シニによって突き付けられた理不尽な命題に、どう答えるのが人として正解なのか。その答えはサッパリ見えてこない。

 ただ、ぼんやりと思うことがある……。

 自分は別の学校に行くべきだった。今からでも遅くはない。まともな神経の持ち主を求めて、転入試験でも受けた方がいい。高校を辞め、大学入学資格検定を受けて、大学を目指すのもアリだ。もう、この学校から離れよう。

 そんな逃避にも近い願いが、慰めのように心に沁みてくる。





 帰宅後、自室で21:00になるのを待つ。

 今夜いよいよ、最後のターゲットと対戦相手のエネルギー源が発表になる。時間前に現れた人型の空気の揺らぎを前に、瞳を閉じて大きく息を吐く。心を落ち着けるために……。


「発表の時間だ」


 シニの声に目を開ける。


「次のターゲットは保坂美優。対戦相手のエネルギー源は“恐怖”と“欲望”になる」

「保坂……」


 彼女がターゲットだという事実に不快感を覚える。普段から嫌な目に遭っているのに、こんなことにも巻き込まれるのかと、その理不尽さと境遇に同情を禁じ得ない。同時に、自分が彼らに対して抱いていた感情に気づく。

 理不尽なことを強いてきたシニたちを恨む余裕もなく戦ってきたが、自分は彼らに憎しみを抱いているのだと自覚することができた。

 彼らが戦いを強いらなければ、死なずに済んだ人が大勢いる。そんな倫理的な問題とは別に、厄介事を押し付けられた不快感が、自分の心にまとわりついていた。

 彼らが肉体を持たないことが恨めしい。彼らを倒す手段がほしかった。そんな切なる願いを押し込めて、良は次の戦いに向けて頭を切り替える。

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