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或る男、昼飯を食らう。

作者: 四十雀 一

よろしくお願いします。

 腹が減っては戦はできぬ。そういったのは誰だったか。

今の俺にはそんなことはどうでもいいのだが。ただ腹が減ってしょうがない。

よし、一旦ここで勉強をやめて昼飯にしよう、集中力も落ちてきたことだし。

十一月だというのに蒸し蒸しとした塾の自習室を出てチラ、と時計に目をやるともう午後3時を回っていた。こりゃあ腹も減るわけだ、と再確認する。

俺の通っている塾は五階にある。

塾をでて二階の入り口から外へ出ると十一月相応の寒さが俺を襲った。

なんという寒さだ、早く暖かいものを食わなければ凍えてしまう。俺は大げさに考えた。

駅近であるこの辺は食べるところはたくさんある。俺は真っ先に目についた中華料理店に入ることにした。


 「いらっしゃいませ」

昼のピークを過ぎ、空きの多くなったカウンター席に座る。

メニュー表を取ろうとした手はその直前で止まった。

『お得なランチセット! A・B・Cから選べます! 』

お得、その言葉が嫌いだという人は少ないだろう。たとえ同じ値段で他にものがあったとしてもお得!と書いてある方を選ぶ人も多いはずだ。現に俺がそうだからだ。

俺はメニューを見なくてもこれでいいか、と決めることにした。

水を運んできてくれた店員に、Cランチ一つ、と告げる。

あいよ、という声とともにCランチ一つ入りまーす!という威勢のいい声が聞こえた。

Cランチのメニューはこの店の自慢であると書かれたタンメン、シューマイが二つに、デザートの杏仁豆腐だ。


 程無くして料理が運ばれてくる。

「こちらCランチになります、ごゆっくりどうぞ」

まずはじっくりとタンメンを眺める。具だくさんのタンメンは透き通ったスープに浸されていた。

実にうまそうではないか。俺は口を少し歪めながら割り箸を割った。

「いただきます」

まずはスープをいただく。

……うまい。透き通っていて薄めな味なのかと思ったがそんなことはない。これはパンチの効いた味だ。

次に麺をとり、よくスープと絡ませてすする。

なるほど、うまい。どうしてこんなにうまいのだ?

例えるならばこのスープは父だ。麺という名の息子を厳しくも時に優しく、繊細に包み込む。

俺は噛みしめるかのようにスープをもう一口すする。

次は具だ、具と麺、そしてスープ。これをすべて合わせて頂く。

…………訂正しようこれは、このタンメンは。

家族だ。

母という具は父と息子どちらにあわせてもうまい。調和する、夫婦喧嘩も親子喧嘩もしていない。

完璧。完璧の味。

おっと、タンメンのうまさにすっかりシューマイを忘れていた。

一口齧り付く。

じわっとあふれるのは肉汁。かなり濃厚なそれは俺の舌にあらたな幸せを与えた。

ああ。幸せ。

この旨味を失うのは名残惜しいが、と思いつつもタンメンをすする。

なんということだ。旨味にスープの荒々しさがマッチしている。旨味がすっと流れていく。

胃だけでなく喉も食道もこれに感動しているかのように俺には思えた。


 飯を食うという楽しい時間は必ず終わる。俺の目の前に残されている品も残り一品。

杏仁豆腐。俺はこれがあまり好きではなかった。中学の時、調理実習で杏仁豆腐を作ったのだが失敗して少々いやな目にあったのだ。

俺はそっと口に運ぶ。

先程までの料理とは違い優しい、ほんのりとした甘さが舌に嬉しかった。

ずっと味わっていたいかのような味。しかし杏仁豆腐はすぐに溶けてしまった。

これが俺の嫌っていた杏仁豆腐なのか。

にわかに信じられなかった。


「ごちそうさまでした」

清々しい気分で店をでた俺はこれから勉強がんばらないとな。とやる気を入れなおしたのだった。

読んでいただきありがとうございました。


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