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何やかんやで昼になり、もう一度お昼を取るという体で集まった。途中経過について語ることは特にない。
強いて言うなら、騒音の中、屋敷を歩き回り、変わり映えのしない景色を窓から眺めていただけだ。決して、男の悲鳴や何かを殴る音、後は爆発音なんかには気付いてなどいないし、怯えて一定の場所に留まれなかったわけではない。
さて、昼食も中ほど頂いたところで朝の続きというところなのだが、アランさんが死んだ魚のような眼をしていて、とてもそういう話題に入れそうもない。さて、どうしようか…。てか、アランさん、全身至る所が見るのが痛々しいほど腫れ上がったり、青痣を作っていて、ハンサムな面影もないのだが大丈夫だろうか?
ふと、アランさんが話し出す。
「…では、エミリアの美味しい昼食も程々に食したところで朝の続きと行こうか。養子の件なのだが、変わらず君を受け入れるつもりだ。トシヒデ自身が良ければ是非ともウチヘきてくれ。答えは三日後ぐらいでどうだろうか?」
「…いや、結構です。自分の中でもう答えは出しています。お二人に甘えさせていただきたいと思っています。」
どうやら、進行役を進んで引き受けるぐらいには大丈夫そうだ。
「…そうか、なら、今からトシヒデは私たちの息子だ。歓迎するよ、トシヒデ。」
「ウフフ、これでトシヒデちゃんも家族ね。よろしくね。」
「はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
「じゃあ、早速家族になった記念に私のことはママって呼んで。で、あとあの人はお父さん、そして敬語は禁止。いいね?」
アランさんをお父さんと呼ぶのと敬語禁止は納得できるし、実践もしやすいから構わない。構わないのだが、エミリアさんをママと呼ぶのは勘弁していただきたい。そう言いたいのは、山々なのだがエミリアさんからの恐怖を感じさせるものとはまた異なる圧力の前に、言葉を切り出せない。こういう時こそ、助けになってくれる(と俺が一方的に思っている)アランさんに目を向けて援助を願うが、駄目だ。目から光を失ったまま、ただ真っ直ぐ、一直線に前を向いているだけだ。てか、さっき話している時も口を動かしていたけど目線はずっとそのままだったな。もしかして、何も考えずにエミリアさんに逆らわないように話していただけだったりとか…、なわけないよな…?
「それで、いいの?だめなの?」
「い、いや、そのですね、一つだけ…ママではなくお母さんじゃ駄目ですかね?」
クソ、アランさんは使えない。ということは、食い下がって相手の譲歩を引き出すしかないようだ。
「敬語はだめっていったのに、もう使っている。罰として、ママ呼びは絶対ね。」
早速揚げ足を取られてしまった。どうしろと…。
「いや、勘弁してくださ…勘弁して。この年になって母親をママ呼びとかハードルが高い。」
「うーん、なら、一回だけでいいからママって呼んでみて!そしたら、今後はお母さんでいいから。」
「…………。」
「一回だけ!一回だけだから・ね?」
うーん、悩ましい。大変、悩ましい。物凄く、悩ましい。これからお世話になるから、応じてあげたいけど内容が内容だけに羞恥心とかが色々とある。本当に悩ましい。
「…わかったよ。い、一回だけだからな。…ま、ママ。」
「ぶはっ!!!」
その時、俺が見たものは鼻血を勢いよく噴出しながら、ひっくり返って地面に倒れていく母だった。
いまいち、エミリアさんのキャラが掴めない。そう思いながら、顔にかかった鼻血を拭っていた。
因みに、痙攣しながら血の海に沈むエミリアさんを見て、父に目線を向けたが、何ら変わりないことが確認できたので、諦めて些か冷めてしまった昼飯を平らげておいた。
こうして、俺はドクトリーナ夫妻に厄介になることになったのだが、養子縁組が成立した日から数日たったある日、俺は夫妻、いや父さんと母さんに庭へ連れ出された。
なぜ、連れ出されたかは知らされていない。
「さて、ここにトシヒデを連れ出したわけは見当ついてないだろうから言うが、今からトシヒデの戦闘の才能について測る。項目は主に体術、武術(武器持ち)、魔術、気術の四つだ。」
「えっと、何故いきなりこんなことをするのか、あと、キジュツとやらの説明をしてくれるとうれしいんだけど。」
「この世界では、女男関係なく才能を確認するのが常だ。異世界から来たということは、何かと異なる点が多くて困るだろう。なので、まず赤ん坊が生まれた際に行う測定をこれでする。」
そう言って、アランさんが何処からともなく水晶玉を取り出した。
「これはな、鑑定玉と言って、人の才能を見ることができる優れものだ。手をかざすだけで測れるからやってみろ。ああ、そう、気術は…、なんて言えばいいのか。エミリア!」
「気っていうのは魔法に似て非なるものと言われているわ。私たちにも詳しいことはわからないわ。ただ言えるのは、オーラみたいの纏ったり、飛ばしたりできるのと、魔法とぶつかると互いが消滅させようとする力がはたらくことぐらいね。気術の達人に聞くとね、どうやら練り上げるっていうイメージがぴったり当て嵌まるみたいらしいわ。」
中国拳法などでみられるあの「気」なのか?よくわからんが、そうしておこう。
そう思いながら、アランさんが持っている水晶玉に手をかざす。待つこと数秒、何の変化も見られない。
「…何も反応がない。」
「いや、反応はしてるぞ。表に出ないだけで。もう、これぐらいでいいだろ。さて、どんな結果出るのやら楽しみだ。」
「結果が芳しくなくても落ち込んじゃダメよ。」
「では、結果発表だ。」
鑑定結果
トシヒデ カワヒラ
17歳
男
判定(潜在能力)
総合力 S
学力 SS
体術 A
魔術 A
気術 A
武術 剣術 B
棒術 B
弓術 B
盾術 A
等々
判定(現在)
総合力 D
学力 B
体術 D
魔術 G
気術 E
武術 剣術 E
棒術 E
弓術 F
盾術 C
その他 <異世界来訪者>
<女たらし>
<万能者>
<策士>
<司令塔>
<影の功労者>
<光と影>
<標的・対象者>
「…いろいろと突っ込みたいところがあるんだけど、いいかな?」
「駄目だ。何故なら、そうしたいのは私たちの方だからな。なんだ、このバカ高い潜在値は!?」
「いや、知りませんよ!てか、その他にあるこれらはなんですか?!特に最後!!」
「それこそ知らんわ!…エミリア、これ、どう思う?…エミリア?」
「フフフ、才能はあるとは思っていたけど、ここまであるなんて…。鍛え甲斐がありそうだわ。」
「父さん、物凄く嫌な予感しかしないんだけど…。」
「トシヒデよ、……時には諦めも肝心だ。どんな困難も受け入れられる器量と心が大きな男になるための試験と思ってしん…逝ってこい。」
「今、死んでこいって言おうとしたよね!てか、いってこいもなんか違う意味になってるよな!」
「つべこべ言わず、さっさと逝け。」
「嫌だ-!ぐぇ!!」
「さあ、ビシバシ鍛えるわよ。腕が鳴るわ。あなたも手を抜いちゃだめよ。」
「ああ、勿論だ。」
やっぱり、この家の家族になったのは間違いだったかも…。