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「俺は……。」
なんだか、雲行きが怪しくなってきた。それにアランさんやエミリアさんと話していて、質問したい内容がいくつか増えた。
ただ、今までのやり取りを経て俺は滑稽としか言いようのない結論に辿り着いていて、それでいて案外辻褄の合う答えを導き出した。
それは、異世界への転移ではないかと。もし、地球であれば笑い種である。最悪、精神病院の隔離病棟に容れられる可能性もあるかもしれない。だが、ここには存在しない魔法があって、あるべきはずの国名がない。ここを異世界と決めつけるにはまだ早いかもしれないが、他にいい考えもない。
「俺は……、信じてもらえないでしょうけど日本の東京から気づけばここにいました。そして、アランさんとエミリアさんと話せば話すほど食い違いや齟齬が生じていきました。でも、俺は一切嘘は言っていません。」
「……ふむ、では私たちが何かおかしいとでも?」
「いえ、アランさんやエミリアさんがおっしゃっていたことが嘘だとか何か隠しているだとかそういうことではありません。突拍子もない事なんですけど、一つだけ俺もアランさんたちも食い違わず、されど双方納得できる結論があります。」
「それは?」
「どちらかにとって、ここが別世界という答えです。十中八九、俺がそちらの世界に飛ばされた可能性が高いんですけどね。」
「…それはまた突飛な発想だな。つまり、トシヒデはこの世界、コトフルというのだが、ここが君が住んでいた世界とは異なると?」
「はい、俺が住んでいた世界では惑星という世界は球体で空に浮かぶ星々の一つである概念が存在し、俺たちは自分たちの世界を『地球』と呼んでいました。」
「なら、この世界もそうなのか?」
「それはわかりません。もし、この仮説が正しければ俺は初めての経験ということになるので。ただ、先ほどのやり取りで分かったのは、ここが地球でないということです。まず、地球には魔法が存在しません。壮絶な過去を持つネストアという地もありません。」
「ほう、それで私たちに信用してほしいと?」
「はい、これぐらいしか俺は言い切れないので。」
「ふむ、確かに君をコトフルに住んでいる人物と断定することは君の話を聞く限りできないし、実際に様々な部分で違いを感じるのも確かだ。服装や作法など世界を渡り歩いてきた私たちでさえ知らないモノが多く、君を異世界からの来訪者と信じても構わない気はする。だが、おいそれと信じるわけにもいかない。さて、どうしたものか…。」
「……あなた、私は信じてもいいと思うわ。いえ、信じる信じないではなくても、トシヒデちゃんは信用するに値できる人物だわ。一見一笑に付す話をしても、彼には動揺や迷いもなく後ろ暗さもなかったように感じたわ。それに彼が言う異世界来訪説は強ち外れているとも言えないし、彼がそんな法螺吹きをするような人ではないのは昨日見ていた限りではなさそうだったわ。だから、彼を私たちの息子にしましょう。」
「……エミリア、途中までの言いたいことはわかったが、最後の『だから』以下はよくわからん。なぜ、そこでトシヒデを養子として迎え入れようとなるか、私には理解できないのだが…。」
「だ~め?」
「い、いや、なんでその結論に辿り着いたのか、知りたいのであって別に否定をするわけでは…。」
「女の勘よ。」
「「……………」」
エミリアさんは突如俺を援護するような発言をしたかと思えば、予測不能な結論を叩き出し、妖艶なお願いを繰り出しては、その結論までの過程を勘の一言で済ませてしまった。要は俺には理解不能だということだ。因みにアランさんも同じようで、首を横に力なく振っていた。どうやら、日常茶飯事のようだ。
「文句は無さそうね。じゃあ、トシヒデは私たちの息子ってことね。」
「…そうだな。」
………え?そんな軽めな感じで良いの?
「軽いノリで決めたように思うかもしれないが、君への疑いは少なからず私は持っている。だが、エミリアがそう決めると言った以上、君を家へ受け入れて良いと判断した。くれぐれも取り違えないよう、心がけておけ。」
「はい、ありがとうございます。」
「もう、そんな風に言っちゃって、本当は?」
「エミリアが勝手に決定を下したとき、私が何を言おうとも無駄だからだ。君と結婚して以来、こうしたことで君が私の意見を受け入れてくれたことは一度もない。つまり、無理に反対意見を押し通そうとしてせっかn……教育を受けさせられるよりかは、受け入れてダメだったら追い出した方がいいというわけだ。」
「ひどいわ、あなた。私だってあなたの言うことを聞くときはあるわよ。」
「例えば?」
「夜、一緒に寝るとき。」
頬を赤く染めながら熱い目線をアランさんへ向けるエミリアさん。
「いや、お前休ませてと言っても休ませてくれないし、最近なんか寝かせてほしいから断ると力尽くで押し倒すし、一体何処に私の言うことを聞くときがあるんだ?」
「……………。フフフ、トシヒデちゃん。続きは昼にしましょ?ちょっと急用ができたわ。」
アランさん、昨日に引き続き今日もご苦労様です。
俺はエミリアさんに承諾の意を見せた後、すぐに窓の外を眺める。ああ、いつ見ても和やかにさせるいい景色だ。
「ん?エミリア、今日は何もないはず何だが?トシヒデ、何故窓の方を見ている?
…エ、エミリア、その手に持っている縄は何だ?何故、私に迫ってくる?私が何か気に障るようなことを言ったのか?わ、悪かった。私が悪かったから、ニコニコした表情で縄を近づけないでくれ。
ひっ!く、来るな!ぎゃああ、もごっ!!!」
「あなた~?罰は肉体言語と幻覚地獄だったらどっちがいい?……、あら?何も言わないっていうことは両方受けたいってことね。偉いわ、反省するために自ら苦難の道を選ぶだなんて。素敵よ、あなた。」
「もが!もごもごもごもご!!!んーーーー!!!!もがもが!!!もぐぇ!(いや、違う違う、違うから!!!嫌ーーーー!!!!助けて!!!ぐはぁ!)」
「煩いわよ、あなた。もしかして、楽しみで仕方なくて興奮しているのかしら?大丈夫よ。うーんと苦しませ…可愛がってあげるから。今回はあなたの本音も聞けたから、特別版よ。ほら、いきましょ!」
返事がない。アランさんは生ける屍になったようだ。おそらく、ただの骸になって帰ってきそうだが。
「あなた、いつまでも床にへばりついてないで行くわよ。全く仕方ない人だわ。運んであげるから感謝して・ね?」
雲一つとない良い青空だ。緑原に良く映える。昼までどう暇つぶそうかな…。