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…………………うん?ここは、何処だ?ベットか?なら、さっきのは夢か。そうとわかれば、まだ微睡んでいたいな。なんか変な夢でも見たせいか疲れた。
…………ちょっと待て、俺。知らない天井だ。よく見たら俺の部屋じゃないぞ!本当に、ここ何処だ?そうだ、落とし穴に嵌ったと思ったら辺り一面緑色の草原の中にいて、行くあてなく彷徨っていたらあまりの空腹で倒れたんだった。ならなぜ、俺はベットの上に……
「あらあら、起きてたの?体は大丈夫?倒れていたみたいだから、家に運んできたの。」
そう言って、いつの間にか隣に腰を掛けている女性は俺の体をあちこちペタペタ触っている。そういう俺は一時思考を止めたのは良かったが、その女性が綺麗ですぐ隣にいたもんだから、止めた思考を方向転換させるのに失敗して硬直していた。
「うん?大丈夫?反応ないけど、どこか悪いの?」
と言って、体の触診をやめない女性。
そこで、俺はようやく我に返って、
「…!あ、はい!大丈夫ですから、なんともないでs…『ドン!』イデェ!」
返事をするとともに、女性の触診から離れようとしたらベットから落ちた。
「あらあら、大丈夫?痛い所ない?」
そう言って、女性はまた触診を始めようとするので、
「だ、大丈夫です。ビックリしただけですから。」
と、慌てて距離を取りつつ、俺は起きあがる。
「そう?なら、いいけど…。でも、何かあったら直ぐに言うn……。」
ダダダダダダダダ、バタン!
「何かあったのか!大丈夫か、エミリア!!」
女性の気遣いの言葉は慌てて来た男の闖入と勢いよく開かれたドアによって遮られた。
「まぁまぁ!あなたったら、そんなに慌ててどうしたの?」
「いや、あの青年を寝かせている部屋辺りから大きな物音が聞こえたから急いできたのだが…。む?おお!起きたか、青年!体の調子はどうかね?」
「え、えぇと?そのー、まぁ、はい。」
「あなたったら、そう急かさないの!彼は今起きたばかりなのよ。」
「む?それはすまなかった!なんせ、エミリアと散歩していたら倒れていたのを見つけてな。まして、男が倒れているとなれば、何か一大事があったのかと。ハハハハハ!」
(ん?男が倒れていたら…?)
男が倒れていたら大事なのかは意味がよくわからなかったが、まず、男の名前やら俺がどういう状況にあるやら、わからないことが多々あるので聞くことにした。
「まずは、倒れていた私を助けていただいてありがとうございます。それで、お二人はどちらさまでしょうか?ちなみに、私は川平俊英と申します。」
ひとまず、今までの話の内容からこの二人に助けてもらったことがわかるからそのお礼と、二人の名前を(女性がエミリアと呼ばれていたことは流すとして)尋ねる。そして、尋ねるなら自ら名乗るのが礼儀なので自己紹介しておく。
「あらまぁ!丁寧なことですね。ならばこちらも。私はエミリア=ドクトリーナと申します。気軽にエミリアお姉さんと呼んでね、カワヒラちゃん。ウフフフフ。」
「私はアラン=ドクトリーナという者だ。呼び方は余程不遜な物言いでなければ何でも構わないぞ、カワヒラ。
しかし、妙な名前だな。そのカワヒラという名前は。それにトシヒデという苗字もあるようだが、カワヒラは他国の貴族に名でも連ねているのか?」
ん?どういうことだろう?貴族??話が分からん…
しかし、話が進まないのもめんどくさいから説明しつつ流していこう。
「いえ、貴族ではないです。ていうか一般人です。因みに、苗字と名前は逆でカワヒラが苗字、トシヒデが名前です。」
「うーん?はて、そんな平民が苗字を持てて尚且つ前後逆転している特殊な使い方している国なんてあったか、エミリア?」
「いいえ、私も知らないわ、あなた。」
「ふむ…。世界は私たちが知るにはまだまだ広いということなのだろうか、なぁ、エミリア」
「そうですわね、あなた。」
「……はぁ、ええと、じゃあ、取り敢えずお二方のことはそれぞれアランさん、エミリアさんと呼ばせていただきますね。」
「えー、お姉さんは?」
「ええと、それはですね。ちょっと……」
「エミリア、先程も思ったがお姉さんはないだろう。見てみろ、トシヒデが困っているだろう。一見、若そ…『あなた?』(そうに)見えるがもういい…『あなたぁ??』(年して)それはないぞ。まったく、もうすぐで……『あーなーたー??』(XX歳〈保身のため伏せます〉を迎える)というのに、はぁー、むしろ、もう……………『ウフフフフフフ、あーなーたぁー???』(おばさんと言われてもおかしくない)年頃だぞ。トシヒラもこんなおばs……『ア・ナ・タ???ウフフ』……!!!???……。」
もうやめてくれ、アランさん!それ以上言ったら死んでしまう!!(主にアランさんが)
という願い空しくアランさんはグレー・イエロー・レッド・ブラックゾーンを軽々超えてデッドゾーンへ深入りしてしまった。こちらに戻ってくることは決して叶わぬことが確定してしまった。
だって、エミリアさん、微笑みは携えているけど、目から光を消しているし、幽鬼の如くゆらゆらと立ち上がっては、どす黒いオーラを背後に纏わせ(目を何回も擦り合わせたが視界から消えなかった)、最後はいつの間にかアランさんの背後に立って肩に手を置き耳元に最後の死刑宣告を言ったんだぞ!
やばい、アランさん、顔面蒼白、唇に至っては白色で、全身を震わせ、流れ落ちる滝のように冷や汗を滴らしては、「やっちまった!」という顔をしてこっちを見ている。いや、振り向けないといったほうがいい。後ろには鬼?悪魔?形容し難い何かが両手でアランさんの両頬を押さえている。
かくいう俺は本能的に恐怖のあまり泣きながら歯をかち鳴らして、後退っていたようだ。背中が壁に当たっても後ろに下がろうとして、結局壁に背を押し付けてゆっくりと立ち上がっていた。それでも、まだ逃げようとしているのか、部屋の片隅へ片隅へ壁を手で擦り踵をぶつけてようやくたどり着く。
恐怖で体が動かされている間、俺はアランさんを助け、エミリアさんを正気に戻すべく、声を出そうとしたが、如何せん、うまい言葉が浮かばず口が開かない。開け!開け!開けよ!!口!!アランさんが、アランさんが!!くそ、口は閉じてるのに涙や鼻水でしょっぱいし、視界はぼやけて見づらい。でも、わかる。刻一刻とアランさんが後ろへ振り向かされているのが。後ろを向いたが最後、アランさんは……。そうなる前に俺が一声でも…………。
「アナタ…あちらで少々お話しましょうか?いいですよね?ウフフフフ。」
「エ、エミリア、わ、私が悪かった。だから……。」
「ウフフフフ、アナタ、いいわね?」
「い、いや、だから、悪かったと……」
「い・い・わ・よ・ね?」
「い、い、嫌だーー!!!頼む!頼むから!!どうか、どうか!!あの部屋に連れて行かないでくれーーーー!!!!!何でもするから、あれだけは!!むぐぅぅぅ!!!!」
「ウフフフフ、何でもなら是非とも逝きましょうか、ア・ナ・タ?」
ズルズルズルズル、バタン!!!
間に合わなかった。大声で拒否していたアランさんを有無言わさずに連れ去ってしまった。右手で両頬を挟んで引き摺りながら…。